表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡を奪われた18歳  作者: 佐山 煌多
第1章 闇を抱えて
14/26

第14話 悪意の矛先

闇の中、悪夢にも近い光景が続く。

やっと見慣てきた村が燃え、人が死んでいた。

誰かが、いとも簡単に引き金を引き、人を殺す。

何の躊躇いも無く、ただの作業のように。


深く深く、黒い沼の中で身体がピクリとも動かない。

俺が俺じゃない、そんな在り来たりで意味不明な風にしか表現できない。


『その槍、俺に寄越せっ!』


…なんの少年漫画だよ…。

やる気無さそうな奴を相手に、内心楽しそうに戦ってやがる。


空に浮かぶ映像は、誰かがタックルで目の前の奴に突っ込んでる。

両手をゼリーで地面に縛り付け、動きを封じた…か。

やっぱゼリーの汎用性高いなぁー。


…ん?あの人…腹から血が…。

「おい待て俺、放っておいたら死ぬだろソイツ。」

苦笑いを浮かべながら、手を伸ばす。

「くっ、ん、あ」

届かん。


…けど、割となんとかなるもんか。一瞬だけ手に感覚が戻り、ゼリーで腹部の止血してる。

その代償か、一層動けなくなっちゃったけど。



「…落ち着いてる、」


吐きそうなくらい嫌な映像が頭にこびりついてるってのに、特に何も思わない。いや、思えない。

今なら洒落たジョークの一つも言える気がするよ。冗談抜きで。


「おーい、俺?いや、俺じゃない誰かさん?ここどこなんだー?」

できる限り大声で言ってみたが、特に何もなし。

「空におかしな映像、抜け出せない沼、ついでに平穏そのものの心境。」

考え付く厨二ストーリーは一つ…か。

「俺の中に何かしら居て、今は俺の身体を使ってんだろーな。幻聴もそいつの仕業か。」

…腹ん中に化け物飼ってた記憶は無いんだけどなぁ…。

「となると、ここは精神世界…。セオリーなら、神様でも出てきて助けてくれるパターンだけど。」

人影なんぞ全くナッシング。

ついでに空の映像がヤバそう。扉ぶち開けて啖呵切ってる感じだ。

「…かなり暴力的な感じか。人相手にああも容赦なく戦えるな。」

二階の挑発をしてそうなアイツが即死。一階の奴らも全滅。残るは大将とブレーンってとこか。

「…いや、殺しすぎだろ。村人居たらどうすんだよコイツ。」

流れ弾とか当たったらその人重症よ?

「あー、なんかいかにも呪われてるって感じのだな。」

黒い瘴気でも放っているんじゃないかと思われる斧を持った男が、こちらに何か言っている。

「うわ、危ね。」

二階から飛び降りて斬りかかってきてる。それを余裕を持って躱してる俺も何者よ。

椅子勿体ねぇ。なんかジャンプだけで二階に飛び乗ってるし。

「…もう一人の俺って戦闘狂バトルジャンキーなのかねぇ?」

かと思えば、バラバラと変なボールをばら撒いて遊んでるし…。

「うっわ、エグ。てかセコイ。」

敵が切って溢れてきた中身が段々と固まって、身動きが取れない状態に…。

「あんなことやれんだな、俺って。」

捕獲クエが楽そうだな。

…うわ、なんかヤバそうになってる。

敵さんは動きがほぼ封じられ、八方塞がりだったのだが、禍々しい雰囲気を纏って叫んでやがる。

「バーサーク…とでも言うのかな。大方、理性を削ってまでステータスの向上…とか?」

地面に大振りの一発を叩きつけて体の自由を取り戻している。ついでに辺りの物に八つ当たりでもしてるのか、滅茶苦茶に暴れてやがる。

それをチャンスと思ったのか、急に飛び降りて垂直に剣を…って。

「ちょちょちょ!」

敵さん、斧を構えて撃ち落とす満々ですよ?

案の定、防御こそしたものの軽く吹っ飛ばされてしまった。

すぐ様態勢を立て直し、振り上げていた斧に疾風の一撃を入れ、バックステップからのサイドステップで距離を取る。

「…これで死んだら俺も…多分死ぬ、のか?」

無論、どうなるかなんて判らんが、流石に死にたくはない。

「異世界召喚だか転生だか判らんけど、まだこれ序章だろ?やめろよそーゆうの。」

追撃として斧が突き出されたが、それは難なく掴み、魔法をかけている。すると急に苦しみ出し、金髪の小柄な男は後ろに下がってしまった。

「お?」

そのまま畳み掛けて、ガルハウンドの時みたいにゼリーで覆ってる。

「おぉ、勝ったのか。」

キョロキョロ周りを見回しながら、落ちてる斧を拾い上げ、マジマジと見てる。

なんか肩を落としているが、同化を行使して黒一色に染め上げた。

瞬間、少し意識がハッキリとし色々な感情も多少なりとも感じるようになった。

「ッ…。」

少し沼から抜け出そうと暴れると、ズズズッと音を立てて体が半分浮く。

しかし、離さないと言わんばかりに沼が俺を引き戻そうと引っ張ってくる。

「離、せっ、…クッ。」

重力がいつもの倍以上かかっているのか、体が重い。

「こんのっ!」

必死で抵抗を試みるが、沼はそれでも俺を離そうとしてくれない。結局動けず、疲労だけを溜めながら強い抵抗を諦める。

「はぁ、」

空に映る映像も、段々と映りが悪くなってきて、ブラウン管テレビみたいに砂嵐予備軍になっている。

徐々に映る映像の範囲が狭くなっていき、時たま完全に暗闇を移したりする。

「…寝る、のか?」

答える者は誰もいない。

天井を見上げてる映像を最後に、完全に空の映像は真っ黒になった。



…、寝たな。

「これで、俺に主導権が戻る…とか。」

そんなことを期待したわけだが、そういった兆候すら無いわけで…。

キョロキョロ周りを見回すが、ただ真っ暗なのに明るい世界だけがある。

「…おいおい、どうやって戻んだよ」

一生このままとか?

「…幸い少し動けるし…。」

動いてみるか。



ーーーー。



朝。

「クソッ!…ここもやられてやがる!!」

もう何体目か判らない死体に涙しつつ、生存者を探す。

「…もう少し人手が必要だね。」

火葬、修繕、被害の計算、やる事なんて幾らでもある。だというのに、男手を多く失ってしまった。

「そんなモンッ!他の奴らに見せるわけにはいかないだろう!!」

まず、村に入って1番に目が行くのは、焼けきった数件の家屋だ。幸い、家と家の間隔が広かったおかげで村そのものが焼ける心配はなかったが、小村としては被害がデカイ。

次に、死体の数。見慣れた服装に見慣れた顔、五体満足の奴もいれば、体のパーツが足りない奴も多い。

ついでに、この村を襲った輩の死体も幾らかあったので、残党の心配はいらなさそうだ。この感じだと、大方、仲間内で殺しあったんだろう。

「…。」

「クソッ!クソッ!クソッ!!なんでこの村が襲われなきゃなんねぇんだよ!!!」

勢い余って足元にあった家の残骸を蹴り上げる。

「…落ち着こう。俺たちの任務を忘れるな。まだ向こうを見ていない。」

努めて冷静さを欠かない様にしているが、これでもギリギリだった。

出来ることなら、隣で騒いでる彼みたいに怒鳴り散らしたい。

けど、そんなことしても亡くなった命が戻るわけでもない。なら、救える命を探し出してやる方が賢明だ。


未だゴチャゴチャ言ってる相棒を置いてタケの店方面に向かう。


そうして、遠目で見る限り一箇所だけ異様な場所があった。

扉が無く、出入り口の付近には三体の死体が転がっている。

軽く吐き気を感じながら、可能な限り足音を消して近づく。

良聞エアリッスン

遠くの音を拾える技を行使し、内部の状況を調べる。

(…一人、いや、二人か?中央と…壁際?)

デカイいびきが一つ、今にも消えそうな寝息が一つ。

どちらにしてもそれ以上の音は拾えない。

(行く…か。)

やかましい心音に心を乱されつつ、恐る恐る内部を見てみる。


…ドアからそんなに離れていない位置に大量の死体がゴロゴロと。

見慣れた店内の面影はなく、椅子やらテーブルやらは残骸となってそこら中に散乱している。

中は血の臭いで充満しており、思わず鼻を塞ぎたくなってしまう。

(ッ、コイツら!)

見慣れぬ服装に顔、多分全員が村を襲った奴らだ。

何か動く気配はない。強いて言えばなんとなくイビキのうるさい奴がいるな程度のモンだ。

てか、こんな中で寝てられるな…。

一応、風の中級魔法を放てる用意をしつつ、なるべく足音を消しながら辺りを見回す。

(…暗い…。)

特に誰か襲ってくる感じは無いので、イビキの主の元へ近づく。そうして、バッと半分に斬られたテーブルに手をかけその向こう側を除く。


(なっ!?)

そこには、なんと無防備か、見たままの通り、床の上に寝転がってなんだか良く判らない布団がかかっていた。

(…生きてる…な。)

多分、コイツが盗賊の生き残りだろう。運良く仲間割れから生き残ったのか…。それとも…。

(何にしても…拘束する必要があるな。)

ここで、怒りに任せて殺しにかからない辺り、真っ当な思考力は残っているようだ。

もっとも彼の相棒なら、有無を言わずに槍を突き立てそうだが。

(もう一人…、ん?)

何やら壁際を見回してみると、窓から射す光で見つけづらかったが、黒髪の青年が横たわっている。

(彼は…。)


確か数日前、突然村にやって来た謎多き男。

(まさか、彼がコイツらを?)

すぐに駆け寄って生死の確認をするが、なんと生きている。

彼がBランク以上の人間であるならば、この人数を相手にこの戦果は妥当だろう。

(…いや、彼が盗賊という可能性も。)

全くもって素性を知らないわけで、その可能性も捨てきれない。

取り敢えず、彼も拘束対象として捕まえておかなければ…。

「ランド、手持ちの道具は幾つだ?」

いつの間にか後ろに立っていた相棒に話しかける。

「あぁ、6はあるぜ。」

「なら、3つ、筋力制御と魔法制御2つを貸してくれ。」

あいよ、と手渡され手際よく彼の腕にセットしていく。

「なぁ、」

「ん?」

振り返ると、いつにもなく真剣な顔をしている。

「コイツ、コイツが!…いや、…なんでもねぇ。」

抑えたのだろうが、それでも荒くなってしまった言葉を飲み込み、我慢したようだ。

「…起きたコイツの言葉で判断しろ。俺らは…仕事だけすりゃいい。」

この村で生きてるのは、多分ここにいる2人だけなんだからな…。



ーーーー、一時間後。


「…そうか…。判った。ご苦労であった。下がってくれ。」

父の顔が暗い。当然だ。僕だって泣き叫んでどこかに怒りをぶつけたい。

「男達に声をかけ、早めに処理だけしよう。子供達はそれまで隣村に預ける。」

こんな時、誰よりも毅然として皆んなを纏めなければならないのだから、村長というのは大変だ。

「…トラム。動けるか?」

父の隣で被害の規模を聞かされ、どこか現実味がない中で、父の言葉が僕を現実に戻す。

「…はい、父さん。」

絞り出すように、声を出す。

「お前にこんなことを頼むのは、父として心苦しい。が、今はそんなことを言っていられないのだ。トラム、ムーア殿の事は残念だが、お前も村に向かい、火葬の用意と尋問に協力してくれ。」

多くの人が亡くなった。知ってる人も知らない人も、どちらもたくさん。

けど、僕はそれを見てない、見たくない。

出来ることなら逃げ出したかった。駄々をこねてでも、断りたかった。

けど、そんなことできない。僕だけが特別扱いされるわけにはいかないんだ。

力の入らない声で、一言。

「わかった。」

フラフラと地上に出て、男達の側による。

こんな形でシェルターに籠ることになるなんて、夢にも思わなかった。


地下に造られたそれは、村の食料を貯蔵するのに重宝されている、かなり昔の遺跡の残りだ。

強度だけは並の建造物より高く、何の目的で作られたのか判らない謎の建物なのである。

頑丈なだけで特に何かあるわけでもないので、どうせなら有効活用しているわけだが、まさかこんな形で使う羽目になるなんて…。


「聞いてくれ!これからーーーー。」


昨夜、村が襲われた。何の理由かは知らないが、大勢の武装した盗賊たちが襲ってきたのだ。

読みかけの本を閉じ、眠ろうとしていた直後に避難命令が出たのだった。

わけがわからず、ただ何軒かの家に火がついているのだけが見えたが、それでもまっすぐここに走ってきたのだけを覚えている。

そのまま一夜を過ごし、皆で固まりながら眠った翌日。

段々と状況を把握してきたわけだ。


「以上!」


サッパリ頭に入ってこなかったが、やる事は判ってる。


ーーーー。



「…んっ、」

眩しい…。

「戻れた…のか。」

意識がはっきりしてる。

「…なんだこれ?」

腕に何かつけられている。力も魔力もうまく使えそうにない。

朝日に照らされ、喉の渇きを体が訴えつつ、周りを確認する。

「…外?」

…確か昨日は…。

そうして昨日の記憶を思い起こそうとしたが、一瞬でそれはストップさせられた。

「ツッ!…おいおいおい、これ、うっ…。」

軽い吐き気がする。意識的に思い出すのは中断したが、記憶としては鮮明に残っている。

何を話し、何を言われ、俺自身が何をしたのかも。

「…。」

吐きそうだ…。


人の内臓、肉から垣間見える骨、血の臭い。どれもこれも昨日の出来事。

しかし、俺がやったわけじゃない出来事。音声なんざ一つも聞こえなかったけど、今はそれすら思い出せる。

(…記憶は共有ってことか…。)

口を開いたら何か戻しそうだ。


しかし、状況は全くわからない。

何故か拘束されて、地面に転がされている。ついでに隣に敵のお頭さんも転がっている。

(…手枷…か?)

ロープで足も封じられ、身動きがとりづらい…。

取り敢えず、鼻で深呼吸してから吐き気を抑える。

(…最悪のパターンとして、このまま餓死、又はモンスターに殺されるかだな)

…人気無し。

騒いだところで人以外の何か…。いや、意思の疎通が取れる以外の何かに出会ったら、俺の人生詰みゲーなわけだが…。

「つっっつつ、んぁ?んだこれ?」

俺と似たように手枷と足にロープの状態の敵さん。

「起きたか。」

起きぬけで訳がわかってないだろう奴へ声をかける。

「んん?お前さん…、なんだ、殺さなかったのか。」

おいおい、俺をそんな狂人みたいに言うなよ…。

「殺すも何も…。」

そんな事できるわけねーし。

「それより答えろ。お前らを雇った奴は誰だ?」

「あぁ?雇った奴だぁ?」

ジロジロと俺の事を見ながら、寝っ転がったままだ。

「てか、なんでお前さんも捕まってんだよ?」

…やっぱそう思うよね。が、答えてやる義理はねぇ。

「先に聞いてるのは俺だ。答えろ。」

軽く睨んで威嚇する。この微妙な面で威嚇出来てるのかは不明だけど。

「はっ、テメー、余所者だったのか」

…ウルセ。

「おいこの野郎、答えろっての。」

…覇気が欲しい…。

この野郎、ケタケタ笑ってやがる。

「あーあ、ハラヘッタぁー。」

…イラッ。

「おい「お前らかっ!」


…え、誰?


少し怒気を孕んだ声音で問い詰めようとしたが、誰か知らない声に出鼻をくじかれてしまった。


「この野郎、タダで死ねると思うなよ!!」

だいぶご立腹のご様子であらせららる皆の衆。口々に怒声を浴びせてくれている。

よく見れば村の方々だな。

「いや待ってく「お前らのせいで!俺の弟がッ!」

「ウチの息子がッ!」

「俺の嫁がッ!」

「俺の家族がッ!」


バーバー捲し立てられて、怒りに任せた言葉を浴びる。

悪意。それは向けられるだけで嫌悪を感じてしまうこの世の猛毒。

何も言えず圧倒され、ただ聞くことしかできない。

「皆落ち着けッ!!!」

その収拾がつかない事態を大柄の甲冑男が一喝する。

「俺が話を聞く、その間に皆を弔う用意を進めてくれ!」



目の前に甲冑の男1人。腰には剣を引っさげて、中々の強さだろうとは見て取れる。

散々悪意に晒されて、胃やら心臓やらが痛いし冷たい。

本当は俺もコイツと同じだったんじゃないかって思えるほどに。


「さて、まず。君は最近この村に来た者だね?なぜ一人でここにいた?」

兜を脱ぎながら聞いてくる。

「…そこまでわかってて、コレって酷くないですか?」

不満げに両手を上げて枷の事を示す。

けど、話も進まないので簡潔に述べる。

「…俺はコイツらの相手をしてたけど、途中力尽きて俺も倒れてしまったんです。」

腕を上げてることすらキツイので、早々に手を下げ、隣の奴を指差す。

「へっ、」

笑ってやがるし…。お前、これからどうなるか判らんてのに。

「…というと、襲撃者共の死体は君が1人で作り上げたと?」

「えぇ。」

だから早よ俺の手枷取ってくれ。これのせいか、魔法が使えないし力も入りづらいんだ。

「その根拠はどこにある?」

しかし、俺の考えとは裏腹に何やら雲行きが怪しい事になりつつあった。

「え、根拠?」

訳がわからないと、少し素っ頓狂な声を出してしまった。

「そうだ。貴様がコイツらの仲間じゃないという証拠がない。」

言われて状況の最悪さを理解した。

要するに、「実はお前もグルで、逃げる為に嘘をついてるんだろ?」と思われているんだ。

「いや、待ってくれよ!俺はこんな奴らの仲間じゃない!!」

叫んだところで何も変わらない、いや、それどころか益々疑いか深まってしまう。

「黙れッ!!なら誰がコイツらを村に招き入れたというのだ!手引きした人間がお前なのだろう!!」

そのまま力任せに蹴られ、軽い浮遊感と痛みでダメージを負った。

かなり強かったらしく、力の入らない体は簡単に吹き飛び、ゴロゴロと吹き飛ばされてしまった。

「ゲホッ!?ゲホッっ!?ゲホッ!?おいっ…。…クソッ、冗談だろ?!」

まずいシナリオだ。完璧に誤解されてる。

(完全に疑われてやがるッ…。)

甲冑の男はそれ以降、ハーフドワーフの方の話を聞こうとしている。


「ーーー?」

「ーーー。」

「ーーー!」

「ーーー。」

「ーーー?」

「ーーーー?」

「ーーーーッ。」


と、そのやりとりを見ながら、近づいてきた人物の方へ顔を向ける。

「お兄さん。」

「…トラム、君?」

なにやらただならぬ感じで俺を見ている。

その目で、何となく全てを悟った。

(…あぁ、クソッ。ダメ…か。)

そうは思っても、やはり縋りたくなるのが人の心。

「…、なあ助けてくれ!俺は敵じゃない!」

悲痛で愚かとしか思えない無様さ。どこまでも浅ましく、身の保身しか頭にない状態。

そんな男を誰が信用できるだろうか?

「ムーアさん。」

「へ?」

「ムーアさんの容体は知ってる?」

どこまでも冷たい目で、淀みなく聞いてくる。

「ムーアの容体…?…ムーアがそんな大怪我してるのか?!」

俺の体感でしかないけど、俺よか強い筈の彼が大怪我って…。よほどの隙でも突かれたのだろうか。

「…それ本気で言ってる?」

トラム君は、的外れなことを言ったのだろうか、低い声で聞き返してくる。

「…え?いや、本気もなにも、ムーアとは、飯の後会ってないんだ…。」

そもそもどうしてるのかすら判らん。

「そう…。」

顔を俯かせて、泣いているようにも見える。

「トラム、君…。」

どうしたらいいのか判らん。どう言葉を使えばいいのか、どんな言葉を伝えればいいのか。

「教えてくれ、ムーアは、村の皆は無事なのか?」

精一杯の真剣な眼差しで見上げる。

何か迷いつつも、ポツリポツリと話してくれる。

「…皆んなは…全員じゃないけど、無事。ムーアさんは…。」

一旦言葉を切って涙を拭う。

「火事に巻き込まれて…、死んじゃった…。」




は?


「嘘…だろ?」

頭が白くなっていく。トラム君はなんて言った?

「ムーアが、死んだ?」

ありえない。

トラム君は、ポロポロと涙を隠せずに泣いている。それだけで、その言葉が事実なんだと、そう、理解させられる。


「トラム君?!何があったんだ?!おいお前!!一体何をした!!!」

胸ぐらを勢いよく掴まれ、グラグラと揺らされる。

「いや俺はっ!「やめて!!」



ーーー。



「ゴメンね。もう少し待ってて。」

結局、トラムに助けられた形になったが、拘束を解かれるのはまだ先になるみたいだ。

飯抜きでそこら辺に転がされながら、男衆はキャンプファイアーでもするみたいに木を積んでいる。

亡くなった人達の火葬の用意らしい。

その中に…、俺が顔見知りの人間も入っている…らしい。


『ムーアさんは…火事で逃げ遅れた人を助けようとして…燃えてる家に飛び込んだっきりだったんだって…。さっき、それらしい人も発見されて…。』


…ムーア。


ーーーー。


火葬の用意が済んだ後、一度避難所まで連行され、俺は枷をつけたまま村長と一対一で対面している。


「クロキ殿、…申し訳ない。」

早々に謝られてしまった。

「いえ…仕方ないですよ。」

曖昧な笑顔で濁しているが、もういっぱいいっぱいだ、どちらとも。

「…ええ、ご存知の通り、皆も貴方を疑って止みません。」

そんなこと、もう嫌という程理解した。多分、トラム君とラム村長くらいしか信用を置けないかも知れない。

…いや、それも俺の勝手な願いか。

「…はい。」

何を言えばいいのか、何て返せばいいのか、どうしたらいいのか。

「私としても、信用していないわけではないですが…、私情だけで動くわけにもいきませんので…。」

言いにくそうに、しかしハッキリと言われた。多分、意味的に村人の意志を組むということだろう。

「よく聞いてくだされ、クロキ殿。もはや貴方をここに置いておくわけにはいかなくなりました…。許してくだされ。」

あぁ、追い出されるわけ…か。

「…いえ、当然の判断だと…理解してます…。」

そう、理解、だけは。

「本当に、スミマセン…。」

深く、深く、頭を下げられる。

「よしてください!俺はっ…。」

…俺はっ!誰も…、誰も…。



「…短い間でしたが、お世話に、なりました。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ