第13話 日常はいつも続かない
もう、成り行きで書いてるから構成が滅茶苦茶な気が…。
少し、気分が高揚している。あぁ、決して酒は飲んでないからな?
使えないはずの魔法が使える、それだけで可能性が広がっていく。
それだけじゃない。使い方を学べば、水素を生成し銃の威力を底上げする事だって実現する。
「ハハッ。」
自然と笑みも溢れるってもんだ。
先ほど、前払いと言われ貰った石。蒼玉のアクア、単純な宝石としても価値がありそうな鉱石。
『どうせ払うんだから、先払いでもいいだろ?ホラッ』
そんな簡単に渡されたソレは、丸く加工され、手のひらに収まるサイズの石だった。
鉱石と言うからには、それなりの大きさがあるのではないかと考えていたのだが、見事に裏切られたわけだ。
あまりに簡単に渡されたから、ホントはそんなご大層な能力はないんじゃないかとも思った。
が、それもいい意味で裏切られる。
左手に蒼玉を持ちながら、右手に魔法を発動させると、なんということでしょう。いとも簡単に水が出てくるじゃないですか。
手の平に集まったその水は、それほど多くはないが、その能力は本物だ。
試しにゲートに入れたまま魔法を使ってみたが、問題なく使えた。寧ろその方が使いやすかった。
今、1人街灯のない暗い夜道を歩いてる。
なのに、割とクリアに世界が映るのに多少の疑問が生じる。
俺ってそんな夜目が効く目だったかな?
まぁ、そんな些細な疑問も胸のワクワクに掻き消され、既に10時を超えてるくらいだろうに、眠気も全くない。
今のままだと、勢い余って徹夜で魔法の開発でもしそうな感じだ。
軽く魔法の練習を兼ねて水浴びでもしてみようか…。
けど、真水かどうか判らんし、ちゃんと汚れとか落ちるのか?
いや今更か。日本よりは危険な井戸水を飲んでんだ。飲まなきゃ問題ないだろう。
なんて、色々鼻歌交じりで自宅まで帰宅。
電灯なんて革命的な物ないから、真っ暗な訳だが、まぁ、それも気にならない。
取り敢えず、暗いのを良いことに簡易的な風呂を作ろうと思う。これなら真裸でも誰も見えないだろうし。
なんて、楽観してたのが間違いだった。
割と広い風呂が作れたのは問題ない。水も張れたのもいい。
しかし、この寒い中水風呂というのはなんの修行ですかね。
「そんな簡単にお湯は作れない、か。」
火と水を合わせればお湯が出るんじゃないの?とかいう妄想は砕かれたわけだ。
長方形の水槽は、ただ水を貯めてる貯水槽と化してるわけだが…。
「いやいやいや、ここまできたら沸かすしかないだろ」
水温を確かめながらどうするか考えたが、やはりここまでしたら風呂に入りたい。
仕方なく、永続化をかけたソレの下を釜戸の様な作りにした。
テキトーに集めておいた薪を一度に入れて火をつける。これで薪はスッカラカンだから、明日集めなきゃな…。
まぁ、ここまで滞りなく火を点けることに成功した。慣れたもんですよ。
しかし、ここで問題が一つ。
だいぶ煙い。
いや忘れてた。煙逃がさなきゃいけないのに、通気口になる穴を作り忘れてた…。
え、今から作れって?それができたら悩んでないわっ!
もう釜戸が熱くて触れないんだよっ!
まぁ特に被害はないから、丁度いい温度になるまで薪入れる口とは逆側で温度調節をすることにする。
…これ、絶対底熱いよな…。
割と個人的に熱めで丁度いい温度になってから、底に新しい板を作る。
案の定、触れても熱くない!よっし火傷しないで済むぜっ!
「よっし!」
なんてガッツポーズして思いながら、火も消す。大分煙いけど、風魔法で軽く飛ばしてオールOK。
待ち望んでた風呂に先ずは足から…。
つま先から感じる少し熱めのお湯。しかし、入れないわけでもないから、そのまま身を乗り出してヂャボンッと着水。
「あ″あ″ぁー♪」
身を縮めながらユックリと手足を広げていく。
全身に伝わる懐かしきお風呂という文化。
「さいっこう♪」
などと束の間、なんの天罰か、それとも不注意か。
「アッツ!」
どうやら、側面の部分も熱々らしく、お約束とも取れるリアクションを取りました。
急いで側面にもカバーを作る。
その分お湯が溢れちゃったけど仕方ない。
ツンツンッともう火傷しそうなところはないか確認したが、ないので一段落。
ようやく落ち着いて入れる…。
自作露天風呂の中、辺りに灯りが一つもない状況で、上を見上げれば満天の星空…。ではなく残念だが、多少の雲が見える中、星々が煌めいている。
やはり灯りが近くにないからか、かなりクリアに見える。都会じゃこうはならないだろう。
ゆっくりお湯に浸かりながら数十分。流石にお湯もぬるくなってきた。
このまま眠りに落ちてもいいかな?なんて甘い誘惑に誘われながらも、多分ロクな目に合わないのが目に見えてるので、ちゃっちゃと湯から上がる。
丁度良い疲労感と、久々の風呂に入れたというリフレッシュ感を享受しつつも、着替えを取りに部屋まで向かう。
「ふぅ…。」
肌から上がる蒸気を確認しながら、諸々の衣服を身につける。
どうやら、俺にしてはかなり長風呂したらしい。
まだ少し暑いので、上だけ脱いで熱を逃がす。
パタパタと手うちわで扇ぎながら、切り株に腰を下ろす。
「っしょっと。」
ボーッとした頭で辺りを見回しながら、目を瞑る。
(今日はよく寝れそうだ…。)
気持ちのいい微風が頬を撫でながら、虫の音をBGMに心が癒される。
このまま、時が止まったら…。そんなありきたりな事まで思うほどに。
…しかし、何の悪戯か。虫の音に混じって村の方が心なしか騒がしい。
パッと無意識に村の方を向く。
…?
何か光っているのか、向こう少し明るい。
まさかこんな時間にキャンプファイヤーでもやっているのだろうか?
突風が身体にぶつかりながら、何か臭う。
…焦げ…臭い?
そこからはもう無意識だった。
半裸のまま村へ全力で走り出し、数分の道のりをたった1分で走り抜けた。
村の前まで来ると、風向きがこちらな所為かかなり臭う。何か焼けてる臭いと…、ゴブリンを切った時と似た血の臭いが…。
「冗談だろ?冗談だろ?!そんなのフイクションの中だけにしろよ!」
何が起きてるのか、『まだ』判らない。
けど予測はできる。
それも、最悪な予測が。
柵を越え、目の前に見えている一軒家を越えると、そこは最悪な想像を絵にしたような光景だった。
血の臭い。焦げる臭い。こんなのぶっ壊れてやがる。
辺りが明るい。別に蝋燭だけがその場を照らしてるわけでもなく、松明を持った村人が大勢いるわけでもない。
『おぉっ、ヤッベェなコレ!どうなってんだよぉ!』
場違いに嬉々とした声が響く。
燃えてる家屋を背に何人か近づいてくる中、そいつらの奥に横たわってる『何か』に目がいく。
火で照らされている『ソレ』は、胴体から矢が生えてたり、上半身より下がなかったり、首だけが転がっていたり…。
静かに、足が震える。歯も、ガチガチと雪原にでも裸で放り込まれたみたいにずっと止まらない。
『あらぁ、盗賊の類かぁー。まさか村が襲われるなんてねぇ』
どこまでも楽しそうに、不快に、俺には相容れない言葉が頭に木霊する。
ニタニタと笑いながら矢を引き絞っている姿が見える。
怒り、悲しみ、絶望、そんなわけのわからない感情が一度に溢れ出し、どうしたらいいのか判らない。
ヒュンッと音を立てながら矢が迫ってくる。
ガッツリ直撃コース。避けなきゃ致命的な痛手を負うことは目に見えてるの。
なのに、震えて動けない。
気付いた時にはもう当たってしまった。いや、確かに当たった。
けど、胸から血は流れない。
ピクリとも動かない俺に不信感を抱いた3人は、ゆっくりと近づいてくる。
ここから先、俺は意識が遠くなる。ついに壊れたのか、それとも、知らずに発狂死したのか…。
暗く、何も感じない空間に、ただ一人いるという事だけが判る。
次の瞬間、一瞬だけ意識が無かった身体が再起動する。
「…っと。おっ?おぉ?マジかコレ?!」
ペタペタと自らの身体を触りながら、何かを確認するように呟く。
「ん、おぉ、当たってない。スゲー。精度はそのまま、量だけ上がった感じだな。」
胸の矢を引き抜いて、自然に発生した鋼鉄にも劣らない物質と、粘着力が凄まじいゼリーに触れる。
当然、その下の皮膚まで矢は届いていなかった。
「なら…。いや、メンドクセーけど。2人残すか。」
ホルスターから銃を抜き、構える。
「ッチ、生きてんじゃねーかよ。しっかり当てろよ。」
動く人影に対してそんな声が聞こえなくもないが、もう関係ない。
「死ねっ。」
ハッキリと見える『的』に狙いを定め、引き金を引く。
「いや、アレ、おかしくね?」
彼らはこちらを指をさして疑問を浮かべている。
しかしその疑問が解消されることなく、放たれた無音の弾丸が一番右の男の頭部に当たる。
それは、一切の抵抗を見せず貫通し男を一瞬の内に絶命させる威力があった。
だが、2人は気づかない。
彼らが先ほどまで言葉を交わしあってた仲間の死体が見られるのは、もう少し後のことだった。
更に引き金を絞り、今度は真ん中の男の腹部と、左の男の肩を狙う。
ほぼ銃を扱うのと変わらない…、いや、それよりも威力のある銃弾は、引き金を引き終わるのとほぼノータイムで発射され、狙った的を安々と穿つ。
瞬間、彼らは痛みによる絶叫を叫びつつ、その場にうずくまる。
「チッ、威力弱めてもコレかよ。」
1発目より手を抜いて魔法を発動させたのだが、どうやらそれでも強かったらしく、弾は貫通したようだ
もっとも、彼が望んだ結果とは多少のズレがあるようだが…。
「死んでは…よしよし、いねーな。」
目視による確認だが、まだ動いて言葉を発してる。それだけで十分だ。
そいつらに近づこうと一歩前に進む。その光景は、彼らからしたら死神の歩みにも見えたことだろう。
徐々に、死が近づいてくる。それも、最悪な死に方で、だ。
もう一人いたはずの仲間を探すが、後ろで倒れてる。奴の何らかの魔法によって、真っ先に殺されたのだろう。ピクリとも動いていない。
「さて、アンタら。俺の質問に答えてもらうぞ。」
傲慢に見下し、淡々と聞きたいことだけ聞き出そうとする。
「はっ!誰がテメーなんかにーーーー。」
今度はパンっという音が鳴る。
見れば奴は旧式の杖を構えていた。
「あ″あ″あ″あ″ああぁぁー!?ま、まっ」
パンパンっ。
無慈悲に2発、足を撃つ。これでもう歩けないだろう。
どうやら、まともに会話できそうなのはコイツだけらしい。
腹に穴が空いてる方は虫の息だ。
「お前らの人数は?」
流石にまだ殺すわけにもいかない。
まぁ、キレてるわけでもないから、テキパキ尋問してこう。
イテーイテー言ってるそいつの言葉を待ちながら、態とらしく銃を見せびらかす。
「まて!待ってくれ!答える!答えるから!!」
素直な様なので、銃口をコイツから遠ざける。
「お前らの人数は?」
「大体、20!頭は金髪のハーフドーワフだ!」
ハーフドワーフねぇ。この地域じゃ見ないから、あぶれ者か。
「お前らの目的はなんだ?」
「それ、それは…。」
答えるのを渋っているので、パンっと今度は宙に撃つ。
ヒッと動く片手で頭を庇い、怯えた様子を見せる。
「雇われたんだ!この村で一暴れすりゃあいいからって!本当だ!信じてくれ!」
…あぁ?雇われただ?目的もなくテキトーに襲ってるとか、こっちが探すの面倒じゃねえかよ。
「雇い主はどこだ?」
取り敢えず、これが最後の質問だな。
震えた声で答えていたが、多分これは答えらんないと思う。てか、わざわざ盗賊雇ってここまで出張って来るような奴だとも思えないし。
「そ、れは…。判らない。いや待ってくれ!本当に知らないんだ!頼む止めてくれ!!」
予想通りの答えとはいえ、一応脅しを込めて銃をチラつかせるが、…ガチの命乞い…か?
「なら、そいつの特徴は?」
目の端に映ったこいつらの仲間を狙撃しながら、奴にとって最期の質問を聞く。
「と、特徴!?外套を深く被ってたから判らない!」
…よほど用心深いのか。となるとハーフドーワフの頭に聞くか。
「そうか。」
これ以上は時間の無駄だろう。
興味を失ったかのようにそいつを放置し、次の獲物を探しに行く。
恐らく、その一瞬の安堵が最期の彼の感情だったのだろう。
数歩だけ歩いた後、逆手に持った銃でヘッドショットをかました。
「…さてさて、大抵のボスがいる場所はっと。」
飛んできた風の刃を避けながら、その方向に1発撃つ。
後ろに倒れていくのを確認しながら、炎に包まれている村をテキトーに闊歩する。
「…ん?あぁ、食堂で立て篭ってんのか。」
遠目で見張りらしき人影が3人いながら、ぎゃはぎゃは笑いまくってる。
確かにあそこなら、広さもあって踏ん反り返るのに十分な根城になるだろう。
「っと。」
またも魔法が飛んできたから、今度は魔法めがけて弾を1発、発動した本人にも1発ずつ撃った。
「意外に魔法使える奴多いなぁー。そろそろコレも飽きたし、剣でも作るか。」
なにやら少し騒がしくなってきたけど、無視して手のひらに黒い塊を作り出す。
グニャグニャグニャグニャ弄り回して結局シンプルな剣を作りながら、軽く走り出す。
見た所、2人が手近にいたので、そいつらに狙いを定めて突っ込む。
「ゼアァァァァッ!」
そんな飛んで火に入る夏の虫を返り討ちにしてやろうと思ったかどうかは知らんが、すぐさま奴らは武器を構えて迎撃の態勢を整えた。
「威勢のいい奴じゃねーか♪すぐ殺すなよ、つまんねぇから。」
へいへいともう片方が気怠そうに答えている。
コイツらには、俺が怒りに任せた特攻を仕掛けたとでも思ったのだろうか。侮られている。
「ハァッ!」
力任せに剣を振り下ろし、敵さんの脳天カチ割ろうとしたが、どうやら失敗。
手持ちの剣で防がれてしまった。
(ッチ、斬れ味がたんねぇか。)
予想では、武器ごと真っ二つにする予定だったが、どうやら手持ちのスペックが落ちてるようだ。
そのままバックステップで後ろに避けて横から繰り出される槍を躱す。
(…ッ!?)
軽い痛みと共に腹部を見る。すると、完全に避けたはずなのに、そこには浅い切り傷と血が吹き出していた。
(おっ、アレ魔装なのか。…ラッキィー♪)
ゼリー状の物質で傷を塞ぎながら、短剣を作り投げつける。
それも槍持ちの気怠げな奴が払い落とすが、即座に右手に持ち替えていた銃で剣持ちの奴を倒しとく。
「…アレ、先パーイ?死んじゃったの?」
「その槍、俺に寄越せっ!」
そのまま剣を生成して、突っ込む。
「わわ、ちょ、たんまたんま。」
動揺してる口調とは裏腹に、動きは機敏で中々の手練れだと判る。
「なら、コレはどうだ。」
形が不揃いなテキトーなボールを風魔法でばら撒き拡散する。
「ちょ、なになに?」
案の定、動揺を誘えたらしく一歩下がった。
このボールに大した威力は無いが、隙を作るにはもってこいだ。
槍で幾つか弾き飛ばしながら見せた隙を突き、剣で突く。
ボールに気が取られていた分、代償として脇腹に1発手痛いダメージを入れてやった。
「イッタァァァァ?!」
更に出来た隙を逃さず、そのまま体当たりをしてやる。
「ドリャアァァァッ!!」
後ろに倒れていく槍持ちが、地面に着くのを感じてから、生成魔法を行使する。
「ブラック・アーツ」
即座にガルハウンドを捕らえたゼリー状のアレが奴の腕を覆い、動きを封じる。
「ッタタタ…。」
「意外に骨のある奴も居るんだな。盗賊の癖に。」
何となく脱力感を感じながら、起き上がる。
(…あぁ、風呂のせいで魔力足りてねぇんだ。)
乏しい魔力量に多少イラつきつつ、槍を拾う。
「あのー?」
情けない声で聞いてくるのは、腕を固定されて動けてない槍持ちだ。
「あ?」
「殺さないんすか?」
見れば、奴の脇腹には止血の為のゼリーがあり、このまま出血死しない様になっている。
「…あぁ?」
(おいおい、俺か?)
かけた覚えのないソレに戸惑いつつ、面倒だからこのままにしとこうと思う。
どーせコイツ動けないし。
コイツの疑問に答えず、とっとと頭を潰すの方を優先する。
動きに問題はないが、無意識の内に余計なことをしてくれてるみたいだし。となると、ソロソロ、中のコイツも正気に戻りそうだしな。
「ちょっとー?」
なんか言われたけど、無視して銃に持ち替え、食堂に向かう。
ーーーー。
バンっ!
「んだぁ?」
唐突に勢いよく扉が開く。そこに立っているのは見慣れない黒髪の男。
手には旧式の杖と真っ黒い剣を手にしてる。
「オメー、誰だ?ははーん、さては男共の残りだな?」
徐に杖を構え、取り巻きの一人を狙っている。
「ハッ、そんなモンでどうしようってんだ?オラよっと」
狙われているそいつは完全に黒髪の男を侮り、テーブルの上から降りてヒラヒラと両手を上げて無防備だ。
一応、万が一。を考えている奴もいるみたいで、緑っぽい障壁が男の前面を包む。
「へっ、こんなモンいらねーだろ」
ジリジリと数人に囲まれているが、そんなこと御構い無しに1発撃つ。
無音の玉は、確かに、奴の頭を貫き、一瞬の内に絶命させるに至った。
が、俺の周りにいる奴らは、そんな光景見てないもんだから、一向に下がろうとしない。
「…?おい、ベイ?」
障壁をかけられた奴がゆっくりと後ろに倒れる。
バタッ。
「おい嘘だろ?!」
本来、旧式の杖は、誰が使っても一定以下の能力しか発揮しない。
使えて下級、熟練の魔導師でも中級程度しか杖を通しては扱えない。
それほどまでに杖の処理速度が追いつかないのだ。
それがどうだ。小さい何かが飛来してきたと思ったら、障壁なんて初めから無かったかのように無意味ではないか。
「テメーら!ソイツを侮んじゃねぇ!かなりの魔導師だ!」
頭が怒鳴ったところでもう遅い。
心臓を一突き、脳天に風穴、窒息。そのどれかの死に方(…いや、まだ死んでないのもいるけど。)で死んでいる。
「呆気ない。期待外れだ。」
(強いのはアイツだけだったのか?)
残るは上から見下ろしてくれている2人。
小柄で金髪なアイツが頭か。隣の杖持ってるアイツは…参謀か何かか?
「おいおいオメーさん、よくもやってくれやがったなぁ?」
手持ちのカードがどんだけ残ってるのか知らんが、ホントに暴れただけなのか?
人質らしき人影すら見えん。
「あぁ?たかが村襲って満足してる様なクズが。」
さて…どうするか。
よほどこちらの魔法に警戒しているのか、先ほどよりも濃い障壁が2人を包む。
「はっ!テメーらなんざ死んだとこでなんも変りゃあしねぇよ!」
絵に描いたような悪党だ。はなから容赦する気もないが、存分に痛めつけてやろう。
ついでに余談だが、俺は正当な略奪は好きだが、不当な略奪は嫌いなんだ。
「ほぅ。あぁ、最期に言っておく。」
変わらず銃を構えて独り言を喋る。
「あぁん?」
パンパンパンッと三発連続で撃ったソレは、彼らの予想を裏切る結果に終わる。
「俺のこれは、もう魔法じゃない」
最初の2発は喉元と腕に命中した。残りの一発は…どうやらハズレて腕を掠めただけのようだ。
「なっ、テンメェ!!」
魔法に対してかなりの抵抗力を有するはずの障壁が、何の効果も発揮せずに素通りした。
その原因が何なのか、杖を持っていた彼は理解出来なかっただろう。
「存外に素早いなぁ、流石ハーフドワーフ。」
片足だけ乗り出して何か禍々しい両刃の斧を担いでる。
(…おいおい、今日当たり多すぎじゃねぇの?)
見ただけで何か判ったが、その辺の低俗な輩が持つには分不相応な代物だ。
ついでに、巷では強さの証でもある。
「調子乗ってんじゃねぇぇぇ!」
バッと飛び降りてそのまま斧を俺に叩きつけようとする。
が、そんな見え見えの攻撃を食らってやる義理はないので、悠々と避けさせてもらう。
「馬鹿力だけが取り柄か、全くもって度し難いなぁ?」
軽い挑発を交えてみる。
「オラァァォァッ!!!」
が、狂ってるのかすら判らんな。
またも飛びかかってきたコイツに椅子を投げつけて目くらましとする。
(呪い特有の気配は無い…。あんな奴が制御出来るってのはまた珍しいな。)
「舐めんなぁっ!!」
椅子を真っ二つにしてなおもこちらに向かってくる。
「オイオイ、品がないなぁ。なら。」
軽い跳躍で、人ではあり得ないジャンプ力を見せた。
風の技を使った空歩だ。
それで二階へ着地し、嫌な笑みを浮かべる。
「踊らせてやるよ!」
先ほど、槍持ちに使ったみたいな適当な大きさのボールを俺の周囲に作り、投げつける。
小出し小出しに数発ずつばら撒いたそれは、時間が経てば変化が起きるが強い衝撃を与えると…。
「んだコレッ!」
ポンっと軽い爆発やら、パシャッと水が噴き出したり…。
「ハハハハハッ!拙いぞぉ!ほらもっと踊れっ!」
ポンポンポンポン投げまくって足元に溜まったり、弾かれてしまったり。
兎に角、ボールに対応しまくってて隙だらけなわけだが…。
「こんのっ!クソ野郎!?」
ハーフドワーフが被ってる水の中には、水に混ぜたドロドロの液体が降りかかったりしてる。
「ほら、ほら、ほら!どうした?動きが鈍くなってるぞ?」
嬉々とした笑顔で段々と手が打てなくなっていく様を見ている。
なんと滑稽で、無様なのか。
「な、んだこれ?!動けねぇ!!」
とうとう足の部分が固まったようで、敵さんの動きを封じることに成功しちゃったらしい。
「いやぁー、使い勝手いいなぁ!蒼玉のアクアってのは!!」
高笑いを一つ上げ、ついさっき手に入れたアイテムを賞賛する。
最早、ハーフドワーフは身動き一つ取るのも苦労するだろう。
「さてさて、好き勝手やってくれたアンタは、どう料理してやろうか…。」
…静かなだな。
確かに動きづらいとは思うが、全く動けないわけじゃないだろう。
「なんだ?諦めたのか?」
シーン。…無言ですか。
と思っていた次の瞬間。
「ウガァァァァァッ!!!!!!」
唐突な咆哮と同時に、パキパキと固まっていた部分が音を立てて割れ始める。
「あぁ、狂化したのか。」
てっきり口に仕込んどいた毒で自殺でもしたのかと思った。
バンっと床に一発デカイ一撃を放ち、完全に自由になっている。
「グルルルルルっ!!」
もう獣だな、ありゃ。
手当たり次第に周りの物をぶっ壊しては叫び声の一つも上げ、完全に狂っている。
「そうこなくっちゃなぁ!」
手近にあった椅子を投げつけ、自分も飛び降りる。
重力の赴くまま、俺の身体は敵さんの真上から剣を突き出す様にして落ちる。
「ガアァァァァっ!!!」
が、それも虚しく力任せに振られた斧で迎撃されしまう。
これで剣が折れてないのが不思議なくらいだ。いや、それなりの強度にはしてあるけど。
「ぃてててて。たくっ、馬鹿力だなぁ!」
殺さないよう手加減しなきゃならんってのに、これじゃ、殺す方が楽じゃないかよ。
魔力も残り少ねーし。…しゃーない。本気出すか。
剣を握り直し、立ち上がる。敵さんはゆっくりこちらに近づいて来てる。
「いいぜ、認めてやるよ。お前は、俺の魂で喰ってやるよ。」
言ったところでコイツには聞こえていないだろうが、取り敢えず言っとく。
斧を振り上げて放とうとする一振りを、剣が迎え撃つ。
ズンっと重い一撃だが、耐えられる。
そのままバックステップで後ろに飛び退き、更に左に飛ぶ。
「ウガァァァァッ!!!」
当然こちらに向かって追撃が来るが、突き出された刃ではない鉄の部分を素手で掴み、同化をかける。
「アアァァァ!」
一瞬しかかけられなかったので、あまり侵食出来なかったが、少しばかり狂化を抑えられたのではなかろうか。
悲痛な声をあげ、数歩よろめいてしまっている。
「ダアァァァ!!!」
そのチャンスを逃さんとばかりに飛び蹴りをかまし、転倒、ついでに右腕にナイフを突き刺してやった。
堪らず斧を落とし、痛みに苦しんでいる間にゼリーをぶちまける。
「…フゥ。捕獲完了。」
狂化を乱されて軽い精神錯乱状態に陥り、右腕は負傷。
残党は…いないかな。魔力僅かでも、索敵能力なら割と平常運転だし。
「あーあ、気絶してるし。」
それも当然か。コイツらの種族はタフが取り柄なだけだし。
狂化を強制的に解かれかけたらこうなるわな。
「んで…、コレか。」
ヒョイと拾い上げたのは斧。ちょいとヤバい呪い付きの品だ。
普通の人間が持つと、最悪正気でいられなくなるのだが。
「…何だこんなモンか。Bランク…。Aランク期待したのに。まいいや。」
それ以上の興味は無いので、とっとと同化を行使して真っ黒に染め上げる。
「んー、久々だけどイマイチな味だなー。もっと美味いの食いてーよ。」
斧から段々と黒いモヤみたいな物が消えていく。
プシューゥ。と効果音がつきそうな感じだが、実際は無音。
薄く白い煙を上げているが特に害はない。
このまま食べるのも面倒なので残りはゲートに放り込んでおく。
(ソロソロ起きてきそうだしな…。)
気を抜いたせいか、段々と言うことを聞かなくなってきた身体を抑えつつ、壁際まで向かう。
(色々あるが、今は寝るか。てか寝かせろ。)
久しぶりに身体を動かしたから、余計に手放すのが惜しいと思いながらも、壁に背を預け、力を抜いていく。
ペタンっと床に腰が触れるのを感じながら、そのまま瞼を閉じ、一夜で盗賊を全滅させた男は何もない床へと倒れていくのであった。