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平凡を奪われた18歳  作者: 佐山 煌多
第1章 闇を抱えて
12/26

第12話 異世界の食事は現代と変わらず。

さてさて、細かいことは置いておこう。特に特筆することもないから、結論だけ述べる。

昨日の狩りでなんと5万ほどの収入を得て、それを割り勘。中々にピッタグとやらがいい値段だった。

本日はガルハウンドの換金日。推定5万が懐に入る予定だ。



ーーー。


まぁ、その結果として、臨時収入8万まで膨れ上がりましたね。

なんか骨の取引が高値だったらしく、この金額なのだそうだ。

昨日の収入も合わせて今だけ10万以上。まぁ、家賃光熱費諸々がないからしばらくは生きてけるね。うん。

借金返してもお釣りがあるし。早々に村長宅に行くか。

トラム君にも分け前を持っていかなきゃだし。


とまぁ、そんなこんなで村長宅へーーー。たどり着けなかった。

「よぉぉ!聞いたぜ?お前さん大活躍じゃねーか!」

野太い声の男に捕まりました。

「…アンタは、ラギー。」

無駄に高いテンションで数日ぶりの再会をしてしまいました。

「店じゃお前さんの話で持ちきりだぜぇ?たまにはまた顔出せよ!」

「ん、あぁ、今日は顔出すよ。」

ムーアとの約束があるし。


「おぉ、んじゃぁ、明日の話もそん時にするぜ!」

えぇー、まだそれ行くとは言ってな…。

「あ、あー。判ったー。」

が、面倒なんでここでは曖昧に返しとく。


とっととラギーを振り切って、気持ち早足で村長宅まで向かう。


昨日の罪悪感を上乗せしつつ彼に恩を返す時!

なんて息巻いてたのも束の間。

「あれ、ムーア?」

家の前にムーアさんがいるじゃないですか。

「おや、クロキ。」

「ムーアもラムさんに用事?」

直立不動の綺麗な姿勢で家の前に立っている。

…そういや、ムーアの仕事ってなんだ?たしかラムさんはウィザードとかって呼んでた気はするけど。

「ええまぁ。クロキはどうしたんですか?」

「借りてた金を返しに来たんだ。こんな早く返せるとは思ってなかったけどな(苦笑)」


そこでガチャっと扉が開き、使用人らしき人が出てきた。

「お待たせして申し訳有りません、ムーア様。こちらの品が本日のご依頼でございます。」

「確かに受け取りました。」

そんな簡単なやり取りを目の前で見ながら、蚊帳の外。

「それで、こちらの御仁は?」

「いや、彼は私の連れではなく…。」

「えっと、ラムさんかトラム君に会いたいんですけど…。」

少々お待ちくださいと言われ、再び家に戻った彼女。

なんというか、俺を見る目が冷たくなかったか?

「それじゃクロキ、また後で。」

「あ、あぁ。また後で。」

そんな被害妄想かどうか判らないギリギリのことを考えながら、ムーアの背中を見送る。

そうして彼が見えなくなる頃には、今度はトラム君が扉から出てきてくれた。

「お兄さん、どうしたの?」

「やぁ、おはよう。って言ってももう昼過ぎだけどね。(苦笑)」

本日、実はかーなーり、寝過ごしたのは秘密だ。

「うん、おはよう…?」

「用ってのは、これ。」

取り出したのは拳より一回り大きいかどうかの袋。というか巾着。

「なにこれ?」

素直に受け取ってくれたので、それの中身を解説しようか。

「まとまったお金が入ったから、借りてたのを返しに来たんだ。あ、ガルハウンドの分も半分入ってるから。」

中々に大金だろう。…俺からしたら。うん。

「え、…いいの?僕、ガルハウンドと戦ってないよ?」

まぁ、ある程度こういう反応は予想していた。俺でも遠慮するし。

だが、ズイッと彼の腕を胸元まで押しながら、軽く笑顔を浮かべる。

「いいの。いっぱい助けてもらったし。それでも悪いと思うなら…、また色々頼むよ。その前金。」

随分と勝手な屁理屈を押し付けてはいるが、お金あげてる立場上、これもいいだろう。

イケメンに限る、とかってテロップが出そうだけど(汗)

「うーん?でもやっぱーーー。」

「ゴメンっ、そろそろ行かなきゃなんないから、ラム村長にもよろしく!」

軽く他に用があって慌てててる感じを即興で演出して、この場を去る。

今思いついた、中々に脆すぎる去り方だ。

「あっ、ちょっーー!」



何か聞こえなくもなかったが、そうして軽く小走りで振り切り、自宅へまっすぐ戻る。


正直、慌てる必要はないが、やりたいことなら大量にあるので、嘘はついてない。嘘は。


「…だいぶ不自然だったろ。…はぁ」

なんて自己嫌悪に陥りつつも、地面に手をついて空間魔法、ゲートを使う。

その中から、ベルトのホルスターに入れっぱなしだった銃を取り出す。

銃だけ取り出しながら、なんとなく反対を向いて構える

うん、厨二やね。

中々に学校でやったら黒歴史入り不可避のポーズのまま、木に向けて引き金を引く。

無音の玉が木にかすり、傷に見えない傷をつけながら、俺のトータルの命中率を下げていた。

「あー、やっぱ少し遠いと当たんないな…。」

元の世界の射的って、思えばそこまで的が遠くないんだよなぁ。

肩の力を抜きながら、どうしたものかと考える。

命中率を上げるのは練習すればいい。それよか、威力の方が問題だ。

肉という柔らかい的ならある程度の負傷を負わせられるが、鎧ごと対象を貫通させられはしないのが現状だ。

いや、顔面に打ち込めば関係ないみたいだけど、兜を装備したのがいないとも言い切れないし。

これ、感覚的に風魔法で飛ばしてるのは判るけど、これ以上威力を上げると、集中してる間かなりの隙ができそうだ。

「うーん。なんも思いつかん。」

銃なんて形状以外の知識なんざ持ってない。弾丸の形状も似せてるだけだし、これが理想の形なのかすら疑問だ。もう、先端を尖らせて三角錐みたいな形の方が殺傷力があるんじゃないか?

ペタンッと座り込み、今の問題点を地面にまとめてみる。

「よっと」

チョークくらいの棒を作り、サッサと書く。

『威力・形』

シンプルにして最大の問題点がこうも並ぶと、どうしたらいいのか判らん。

「形…は、まぁ、模索してくとして…。威力か…。」

まず自身の魔法の練度の問題か否か。ムーア曰く、俺の魔法は最低スペックらしいし、これ以上向上するとも思えない。

なので、他の基本魔法を頼ろうと思うが。

(風以外、火と土もどうにか…。)

そもそも、無意識で使ってるのだから、これらが撃つ時に使えるのか疑問だ。

軽く手のひらを見つめながら、グッと握る。

「んー。そもそも、同時に使えるのかってとこだよな。」

まぁ、物は試しと、使い慣れた火と、昨日から無意識に成功してる風を使ってみる。


ほぼノータイムで人差し指に一息で消えてしまいそうな火。それと、一瞬しか維持できなかったが、口で息を吐く程度の風が少々、ヒュッと。

(…なんだ、使えんじゃん。)

とても呆気なく悩みの一つが解決してしまったが、それを銃にどう組み込む…?

「銃、銃、銃。なんかアイデアさえあればな…。」

引き金を引けば、銃弾が敵を射抜く現代兵器。

しかし、日本人がそれを扱う機会など、ありはしないので…。

(俺がミリオタなら…はぁー。)

そんな無い物ねだりなど無意味なのだが、そう思うしかないほどアイデアが浮かばない。


…しゃーない。

ムクリと立ち上がり、テキトーに空き缶擬きを作る。

「命中率の底上げから始めるか。」

やはり見た目とは裏腹に、杖らしいスペックがあるらしく、この銃を通して作った空き缶は、中々魔力的にコスパの良い出来になった。

あと、引き金を引かなくても別に杖として使えるらしい。


得てして杖という存在のありがたみを少しだけ感じながら、調理台の上に置く。

これでゴブリンの体のどこかくらいには高さがあるだろう。いや、少し高いか?

「距離は…っと。」

どれくらい離れようか。取り敢えず、10回撃って5回も当たらんとこから練習するか。



ーーーー数時間経過。


「はぁー。」

疲れた。いや、魔力切れには程遠いのだが、こうも威力がないとBB弾で遊んでる気分になる。

あの空き缶上手く出来すぎだろ。重いし。

切り株に腰掛けながら足をバタバタさせる。

「先端尖らせても、なんか刺さるだけで終わるし…。」

貫通力を高めるには、何にしても威力が肝だ。

「無音ってのは暗殺向きだけど…。どーすっかなー。」

どうもならん。アサシンやる気もない。

(そもそも、あのパンッて音って火薬だよな?火薬さえあればどうにか…)

「火薬?」

火…。

「爆発…できるか?」

数少ない理系知識として、水素に引火させれば、簡単に再現できるけど…。

人差し指に現れるのは、当然、火。

どんなにイメージしてもそれは変わらない。

「ダメか…。」

水魔法の適性は、俺にはない。代わりに土はあるけど…。

爆発する鉱物?そんなもん知るわけもないし。

まぁ、物のついでに土魔法を使ってみる。

「おおっ、」

ボコッと触れていない目の前の地面が少し隆起する。

逆に穴も掘れるらしい。シャベルで軽く掘った様な深さの穴ができた。

「これは…。昨日試しときゃ、楽できたんじゃねーの…?」

まぁ、後悔先に立たずと言うし、そもそも後悔するほどのことでもないか。

「まいいや、発動速度も申し分ないし。…というか、それは俺が簡単なのしか使えないからか。」

ほぼノータイムで魔法が使えるとか、よくよく考えればスゲーと思えるが、なんか微妙。


取り敢えず、本日の練習はここまでにしておいて、少し休もう。疲れたし。


昨日の椅子に永続化をかけていなかったことを多少後悔しながらも、新しい椅子製作に取り掛かる。

つっても、椅子らしき形を作ってその上にゼリー状のカバーを付けるだけの簡単なお仕事ですよ。

「よっと」

またも即興で作った割には上出来な椅子に腰掛け、少しばかり目を閉じる。

軽い疲労感が後押しして、睡魔もやってくる。

今日は小休止…というか、久々の昼寝を楽しもうと思う。

木陰になっている木漏れ日ありきの木のそばで、ゆっくり、ゆっくりと眠りにつく。




ーーー。


『んー?あれ、お前…。ッチ動けねぇ。』

暗闇の中、誰かの声が聞こえる。


『たくっ、たまにゃあ俺に代われってのに』

どこか聞いたことのある、けれども思い出せない声だ。


『暇で暇でしゃーないだろ、コイツ。』

不満たらたらな感じだが、特に声に苛立ちは感じられない。


『ガチガチに固めやがって…。そんな俺に出て来て欲しくないのかねー?』

最早諦めにも聞こえなくはないセリフだ。


『そういや、“あの女”。なんだったんかなー。』

微かに見えたのは、昨日の光景。

昼過ぎ位に見た、見慣れぬ彼女は確かに彼の心を揺らした。


『怖いくらい深い闇に落ちて、自力で這い上がって来たのか…、それーー闇に落ーた振りーーか。』

声は少し聞き取りづらくなる。


『んん?もー起きーーかー。』

段々と聞こえ辛くなっている。


『ーぎーーらだ、借ーるーーな。』


もう、声は遠く、聞こえない。


ーーーパチッ。


(…夢か?)

ずっと誰かに話しかけられてたような…。そんな気はするのだが、誰か側にいた気配もない。

少しスッキリした頭で記憶を辿るが、特に思い出せない。

というか、夢を見ていたかどうかすら判らん。

あまり長く眠れた気はしないが、悪くない感じだ。

いつもそうだけど、起きたら時間が過ぎてたって感じだ。

そんで、現在は…。

「…って、時計ないんだ。」

腕やら周りやらを見回して、時間を知ろうと思ったが、ここは異世界。そんな貴重品があるわけない。

こういうことに至っては、まだまだ慣れないな。

まだ寝たいと重い瞼が直訴してくるが、このまま寝続けたら風邪引くかもしれない。

(てか、外で寝たら風邪引くだろ。今更だけど。)

幸いにも、中々に暖かい日差しと気温のおかげで、特に体に不調は見られない。

喉は渇いてるけど。


一つでかい伸びをして、身体に力を入れながら、立つ準備をする。

「取り敢えず、水だな」

未だ重いままの瞼を必死で持ち上げながら、水を汲みに行く。


バケツ一杯のみずで喉を潤し、顔を洗い、用を足した後で手を洗う。

こういう時、女子じゃなくて良かったと思う。本当に。


日も傾き、そろそろムーアの所に行くべきか。

「はぁ…。」

いつの間にか、騒ついていた心臓も落ち着いてきた。


ここ数日、偶に夢で、どうしても元の世界が出てきてしまう。

夢は断片的にしか覚えてはいない。だからなのか、特にまだ、郷愁の念に駆られたこともない。


…それも異常な気がする。

なぜなら、俺はそこまで元の世界が嫌いでもなかった。

未練の一つや二つまだ残ってる。


だと言うのに、平然とここ数日生きている。

いや、感覚が麻痺してるのか。


判らん。


「行くか…。」

消えていく椅子を横目に見ながらも、ムーアとの約束を果たしに行こうと思う。

いやそんな大層な約束はしてないけどね。(苦笑)



彼の家のドアの前に着いた頃には、もう空が赤から深い青に変わりかけていた時間帯。

人通りもあまりなかった。


軽く何度かノックをする。

「ムーア。いるかー?」

小さく「あ、はーい」と答えながら、パタパタと扉に近づいてくる足音が聞こえる。

ガチャっという音と共に、扉から現れたのは、当然ムーアだ。

「おや、早いですね。クロキ。」

「そろそろ行かないと、店が混むと思ったからな(苦笑)」

某有名イタリアンチェーン店だって、7時前から混み始めるし。

「そうですか。少し待っていてください。あ、なんなら上がります?」

「…んー、じゃあ、お邪魔しよう、かな。」


ということで、唐突に二度目のお宅拝見というイベントになってしまいました。

書斎みたいな場所に通され、暫く待つように言われた。

部屋の中は割と質素な雰囲気で、家具も少なく、本棚くらいしか目立つ家具がない。

「童話で伝える神話学、呪いのハウツー本、王都で使える歩き方…。ジャンルがバラバラだな。」

てか、歩き方ってなに?歩き方って。

「魔道の基礎改訂版、1から始まる開拓本、夢の中にも悪魔はいる?」

ほんっと、何の本だよ。

「おっ、マイナー魔導と基本魔法の両立。」

これは中々に今現在必要な本ではなかろうか。

タイトルと中身が一致してれば…だけど。

「なになに?」



光・闇…この二つを一人の人間が行使することは、実質不可能である。

魔法とて、相反する二つの事象をその身に宿すのは身を削り、最悪死を招く。

と言っても、コレが当てはまるのはどの時代も光・闇を対象とした話であり、火・水・風・土・氷のいずれも問題にはなり得ない。


しかし、これらの分類に当てはまらない魔法。俗にオリジナルと呼ばれるジャンルが存在する。

いや、本当はオリジナルと半ば強引に纏めているだけでしかないのだ。

突出した能力、稀に超能力と称する輩も多い。未だ誰も解明できない人類の未知。しかし、それを扱える者は確かに存在する。


さて、導入はこれくらいにして、本題に入ろう。


オリジナルを扱う者には、なぜか普遍的な魔法を扱うのに、人並みならない努力が必要になる。

理由は判っていないが、恐らく、オリジナルを扱う者は脳の中で一般の人間とは違う信号を使い、魔法を使っているのではないかと私は思う。

それ故に、通常の魔法使い同様に火・水・風・土・氷を正しく使えないのではなかろうか?


そこで、とあるオリジナルを使う魔導師に協力を願い、実験をした。


その内容は、別売りの『オリジナル魔法の研究と実験資料 著 ドラーク』を見ていただきたい。



(おい、何気に大事なとこ省いてるぞコイツ!)

とまぁ、まだ続きがあるので、読み進めていく。



結論から述べると、オリジナルをベースに基礎魔法を使用することに成功したのである。

私も例に漏れず、パレット公式を採用しているのだが、それに表すと…。



(ちょ、パレット公式ってなんだよ?)

まぁ、無視して読み続ける。



赤を直接は使わず、オリジナルに赤を混ぜ発動させる、シンプルな複合魔法ユニオン・マジックならば、発動効率が良いと判った。


この時、水の量だけは正確に計らなければならない。何に対してもそうだが、分量を間違えると失敗する。



(…水…とは?水なのか?これ、実はお菓子作りの本とかじゃないよな?)



実験協力者のオリジナルは、鉱物を即座に変形させることが出来る魔法だったが、とても汎用ーーー。

「お待たせしましたー。」

何をしてたのか、特に変わりのないムーアさん。

パタンっと本を閉じ、本棚に戻す。

「ん、あぁ。」

「おや、何を見てたんですか?」

「俺の魔法のヒントがないかと思ってさ。この、マイナー魔導と基本魔法の両立って本をな。」

特にヒントらしいヒントはなかったけど…。

パレット公式やら複合魔法ユニオン・マジックやら水やら、あのまま読み進めてたら頭痛くなってただろうに。

「それは…数少ないオリジナルについて書かれている書籍ですね。どうでした?」

どうもこうもないですよ…。

「わけわからん図形とヒントにならない文が延々と…。」

「そ、そうでしたか…。」

「まぁ、それは置いといて。サッサと飯行こう。」

割と腹も減ってきたしさ。

やっぱ、魔法使うと体力も使うのだろうか?



昼前から営業を始め、夜になるにつれ人が集まる酒場兼食事処。

通称、タケの料理番。

ここの料理人であるタケさんは、王都でも指折りの料理人ギルという有名なシェフの下、数年間の修行の後、様々な経験を積んでから店を開いたとかなんとか。

ここに来るのは二度目だが、味はかなりのもので、メチャクチャ美味い。

まさかここでクラブハウスサンドを食べられるとは1度目の時は想像できなかったものだ。

店内に目立った装飾は無いものの、BGMとしてこの村の音楽家?らしき人が曲を奏でたり歌ったりと、場を盛り上げる。

店の二階奥にはカウンターのテーブルがひっそりとあり、渋めの顔をしたオジさん達がグラス片手に談笑している。

俺たちが店に入った頃には、もう既に一階部分の客席が埋まってしまい、ギリギリ二階の席に着けたところだ。

ちなみに人員削減の為、ウェイトレスはいないとのこと。


「今日も賑やかだなー、ここ。」

ワイワイと活気があり、落ち着いて飯を食うには適さないが、どうやら寂しさは紛らわせそうだ。

「みなさん不安をかき消そうと、騒いで噂を忘れたいんですよ。」

少しぬるい水を飲みながら、メニューを見る。

「不安…ねぇ。そりゃ身近に危険があるかもと思ったら怖いだろ。」

パラパラとメニューをめくりながら、何を食おうか迷ってしまう。

「まぁ、今日明日で村が襲われるなんてないですから。そのうち落ち着きますよ。」

ムーアはとっとと決めて、紙に料理を書いている。

俺も早く決めないと…。

「んー、写真ないから不便だな…。」

何頼んでも美味いのだろうが、やはり迷う。

サ○ゼなら決まったメニュー頼んでるけど…。

(ん?ピッタグ焼きとジャガイモ揚げ?)

「どうです?決まりました?」

つい昨日、一頭丸ごと買い取ってもらったモンスターの名前が、料理名の中に…。

これも運命か。

「あぁ。決めた。ペン貸してくれ。」

豚の丸焼き的な何かだと思われるそれを書き、二人で下の受付に出しに行く。

アレだな、この感じはフードコート的なシステムだね。

受付手前で3人待ちのまま、紙と金なを置いて戻る。


その途中、「おぉ!クロキじゃねーか!」

またも変な奴に捕まりました。

「うわ、ラギー。なんだよ。」

「んなつれねー態度取んなよぉー?こっち来て飲んでけよぉー。」

少し顔に赤みがあるが、特に普段と変わらなさそうな雰囲気。

ていうか、こいつウゼェ。

「ちょ、おい。未成年に酒飲ませんなって」

人の話を聞かずに腕を引っ張り、無理やり男臭い席に座らされる。

四方を屈強な男に囲まれるとか、何の罰ゲームですかね。

「連れてきたぜぇ!コイツがガルハウンドも簡単にぶっ殺しちまう奴だ!」

ちょ、おい物騒な紹介だな、おい。

「へぇー、お前さんが噂のか。そうは見えないけどなぁ?」

陽気な声で完全に酔ってる風な男が初めに口を開いた。

「おいおい、しつれーだろ?若いだけで判断すーなよーぉ?」

真正面に座ってる男が庇ってくれるが、呂律が回ってない。

おいラギー。コイツら皆酔ってんぞ。まだ日没からそう経ってないからな。

「まぁ、そう言ってやんなよ!コイツ、ムーアさんに認められてるんだからよ!」

バシバシと無遠慮に背中叩いてくれちゃってるラギーにイラつきつつ、一応は仕事の話をしよう。

「それで、明日は具体的に何するんだ?」

この質問には唯一、素面そうな白髪のおっちゃんが答えてくれた。

「フム…。では私が話そう。君にしてもらいたいのは、主に我々の護衛と採掘品の移動だ。」

なかなか渋い面持ちの彼は、この中で唯一真面目そうな雰囲気だ。

「その、採掘ってのは?何を採りに行くって言うんだ?」

「主には注文を受けてる鉱物がメインだが、それ以外にも金になりそうな物を採る予定だ。」

淡々と教えてくれる彼は、グラスに入ってるドリンクを一気に飲み干す。

…なんだろう。ちょっと真面目な彼がいて良かったと思ってる自分がいる。

「なるほど。…なら、俺への報酬はどうなるんだ?」

これ、中々言い出せ無いのだが、この際だ。誤魔化されないようキッチリと決めておきたい。

と思ったのだが…。

「報酬か…。特に相談してない…ようだな。」

ちらっとラギーに視線を向けるが、諦めた感じでこちらに向き直る。

てかお前ら、隣で煩いぞ。彼の言葉が聞き取りにくいだろ。

「なら、我々が採掘した鉱物の中で稀に見る希少な一品を譲ろう。」

なにか意味ありげな言葉に眉をひそめながら、取り敢えず悪くはない条件だとは思う。

彼の言葉が俺の想像の範囲内ならな。

「いやおい!お前、アレを譲る気かよっ!?」

あれ、なんかマジな反応?曖昧な言葉で報酬をちょろまかす詐欺の手口かと思ったんだけど…。

声を荒げたのは、俺の後ろで立ちっぱなしのラギーだ。

「そうだ。どの道、ここらで売ってもアレは無意味だろう?なら、彼に渡した方が面白そうだ。」

…え、なに?なんか怖いよ?

(ガチで希少な物なんだろうけど…、無意味?値段がつけられないほどなのか?)

「だからって、偶然採れたアレをやるってのは割に合わなぇだろ?!」

なんか、ラギーだけマジな反応してて、他2人は傍観決め込んでるのはなんなんだ?

ニヤニヤといやな笑顔をこちらに向けながら、今は静かに二人の言い争いを見てる。

「ちょ、おい、俺を置いてくなって。なんだ?その石って貴重な物なのか?」

取り敢えず、会話に加わらんとわけがわからない。

「そうだな。確かに貴重だ。」

「テメっ、アレをなんだと…!」

「悪いラギー、少し黙っててくれ。」

ラチがあかないので、ちょいと口に同化でマスクを作る。

鼻は塞いでないから息はできるだろ。

「それで、アレとかコレとか、一体なんなんだ?」

「蒼玉のアクアって知ってるかい?」

んーんー!とか、むーむー!とか、まぁ、訳の分からん音を発しながら焦ってるラギーを放置しつつ、会話を続ける。

放置とか、意外にこの人も容赦なぇな。他二人も笑ってるし…。

「いや、知らないな。」

なんか装飾品アイテム的な名前きたよ?

「これは世に出せば名のあるアイテムでな。見つけたのは本当に偶然だったんだ。」

大変貴重な品みたいだな…。

未だガシガシと口周りのマスクを剥がそうと頑張っているラギーを横目に、ストレートな疑問をぶつける。

「なんでそんな物を俺に?」

「俺達には宝の持ち腐れだからな。使ってなんぼの物を腐らせても勿体無い。」

…ふむ。

色々と疑う余地があるのだが…。これが本当なら、俺にとってはいい話。

どうすべきか迷っているのだが…。


「16番上がりぃ!」


どうやら料理が出来たみたいだ。

「あ、悪い。この話はまた後で。」

「うん、いいよ。ついでに、そこのナイーブになってる奴の口を戻しといてくれ。」

なんかグッタリしてるラギーの口に手を当てて、強制的に魔力を溶かす。

「ほら、もう解いたぞ。」



とっとと料理を受け取りに行く。

トレー乗っている料理の匂いに胃袋を刺激されながら、足早にムーアのとこに戻る。

(やばい、ご飯欲しくなるねこれ。)

とかまだ食べてないのに、そんな感想を持ちつつ。

「お待たせ。」

席に着くなり何やらニヤニヤしてるムーアさん。

「いやぁー、面白いことになってるじゃないですか」

「…見てたのか?」

「いえいえ、目立ってましたよ?」

見てたんじゃん。

「…まーいいか、食べよう。」

「それもそうですね。」

口の中で「いただきます」と言い、手を合わせる。

なんか、ムーアがキョトンとしてたけど、特に気にせずナイフやフォークを取る。


さてさて、やっと料理について解説できる。

目の前にあるのは、木の板に鉄板が乗り、真ん中に丸く形成されたお肉。

何やら茶色のソースが鉄板の上でジュージュー鳴り響き、その肉の近くには少し山盛りなお芋の揚げ物が…。


うん、回りくどい。

これハンバーグとフライドポテトだよね?

キチンと付け合わせに人参やらブロッコリーも乗っかってて、かなりハンバーグのイメージを崩さない仕様になっている。


このハンバーグ、匂いもヤバイよ。ホント白米欲しい…。


ガツガツと、日本で食べたより美味いハンバーグは、パンとの相性も抜群でソースがまた絶品だった。


「いやぁー、美味かった!ここの飯、最高過ぎるだろ!」

木のコップに入ってた水を飲み干し、久々のちゃんとした飯の余韻に浸る。

まさかハンバーグが食えるなんて思ってもいなかったしな。

「アハハハっ。良かったですね。」

酒を少し嗜んでいるムーアも、ムニエル?みたいな魚料理とビーフシチューを堪能し、満足気だ。

「いやー、やっぱ飯って大事だな。腹が減ってはとはよく言ったもんだ。」

別に今日はこれから戦う予定はないが、なんとなくそんな言葉が口から出た。

「そうですねぇ。あ、そういえば、先ほどの続きですが、蒼玉を貰うそうですね?」

「ん?あぁ、明日の報酬にって提案された。ラギーは嫌がってたけど」

値打ち物なのに、なんでラギー以外はソレに執着がないのか不思議だ。

「でしょうね。アレは漁師にとって、貴重な品ですから。」

りょうし?

「って、魚を捕る?」

「ええ。アレは水の加護を扱うのに必要な品ですから。海に住んでた方々は馴染み深いんですよ。」

ぶどう酒片手にグラスを回しながら教えてくれる。

「ということは、ラギーはここの人じゃなかったのか?」

「彼は海岸のウォーラ村出身ですね。だから報酬の件、反発したんでしょう。」

「ふーん。…その水の加護ってのは?」

なんとなく、水系の魔法が強くなるイメージなのだが。

「まぁ人によりますが、水に関する魔法が使いやすくなりますね、核を持てば水のパレットが使えますし。」

「パレット?本にもあったけど、それってなんなんだ?」

たしか、パレット公式とかなんとか。

「簡単に言えば、絵の具ですよ。」

…はい?

「絵の具?」

「はい。水を魔力、色を魔法に例えた魔法自体の考え方です。まぁ、水のパレットとは、水魔法の事で、蒼玉があれば適性がなくても水魔法を扱えたりするんですよ。」

…え、まじか?ちょ…、え?

「それ、メチャ貴重な物じゃね?」

水魔法とか、使えなくて数時間前に軽く絶望してたのよ?

「クロキは…まぁ、丁度いいかもですね。けど、合わない人もいますので、この辺りじゃ価値が定まらないんですよ。」

ぶどう酒に口をつけ、徐々に顔が赤みが差していく。



「というわけで、受けようと思う。」

トレーを返却したついでに、今度は自ら四人の元へ向かって言い切った。

「いきなりか…。と、言っても。」

チラッとラギーを見るが。

「アクアを譲るってのはダメだ!」

の一点張りだ。

さて、どう口説き落とすか…。

「ラギー、落ち着け。なら、こうしよう。」

このパーティのパワーバランスは判らんが、どうやら、決定権はコイツとラギーにあるようだ。

「蒼玉の一部、核だけ譲ろう。」

「いやおい!核ってお前!?」

「ラギー。」

白髪の男は少し低い声で威圧しながら、俺に向き直る。

「それでどうかな?」

…どうかなって…。

「幾つか聞かせてくれ。」

「勿論。」

怖いくらいこいつの思考が読めない。面倒だけど、言葉は慎重に選ぼう。

「まず、なぜそこまでしてくれる?貴方とは初対面の筈だけど?」

「ただの趣味だ。後は賭けだな。」

賭け?

「ガルハウンドを一人で狩るなんて、この村の中じゃ只者じゃない。それこそ、ムーアに近いってことだ。なら、そんな若者に俺らの宝を託すってのは夢が広がるじゃないか。」

む、むぅ。要するに、コイツの気まぐれか。

「…なるほど。けど、それだと貴方達が割に合わないんじゃないか?」

「いいや。お前、空間魔法が使えるんだろ?なら、ちょいとばかし深くまで潜る危険を冒す。その護衛は並大抵の奴じゃ務まらん。」

…んー?まぁ、彼が言うならそうなんだろう。俺にはわからん。

ゴチャゴチャしてきた頭で、最後の質問を投げかける。

「最後だ。…貴方達の名前は?」

真面目な顔で軽くふざけたことを言いました。

数秒固まり、次第に意味を理解してきたのか、堪え切れなくなった笑いが漏れてくる。

「ックック…。お前さん、いいセンスしてるよ。」

そんなこともないけどなぁと思いつつ、まだポーカーフェイスを保つ。

「俺はユギルだ。こっちはハマ、そっちの酔いつぶれそうなのがトードだ。」

「よろしくな、ボウズ。」

「よ、ろしゅう〜。」

ユギルにハマ、トードね。

「こちらこそよろしく。それで、明日の集合時間は?ーーーー。」



そのまま、酒は断りつつ、今度はムーアを混ぜて談笑しながら、近くにあるユギルの家に寄って、解散した。

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