第八十七話 マンガ肉は丸かじりしよう!
「貴様ら!! やめろ!!」
この声は……どこかで聞いたことがある……
ギルドで男たちに絡まれているのにもかかわらず、まったくと言ってもいいほど危険な状態でない令二はそんなことを思っていた。
「ああ! なんだ! てめ……えは……」
男たちがその声を聴いて振り向くと、全員が驚きを隠せないようで、恐怖しているのか体を震えて動かさない。
「……リーデルさん……なんでこんなところに……」
「……貴様ら、相当酔っているようだな……女子供に対して恥ずかしくはないのか!!」
リーデルと呼ばれるその女性は怒りの矛先を男らに向け、鋭い目つきで睨み付ける。
「っひいい!」
「すっすみませんでした~~~!」
よほど彼女が怖かったのか男らはそのまま外に出て行ってしまった……
「あっ、お勘定……」
受付嬢がっ先ほどの男たちから食事代を払ってもらっていないのか、そんなことを呟く。
「すまないな、これを使ってくれ。」
彼女は謝罪すると受付嬢に十分すぎるほどのお金を袋ごと渡した。
「……あ、ありがとうございます……ですが、先ほどの方がたには後で払わせますので……」
「……ふむ、そうか……では……代わりに君の方にも謝罪しないとな……」
彼女が振り向くとその視線は令二を捕らえた。
――――――――――――
「あっ! これおいしいです!」
「チユも飲ませてー」
チユとテートはおいしそうにポックルの実のジュースを飲んでいる。しかし、令二はリーデルと以前であった……というよりも見たことがあるのを思い出していた……
令二がまだ人間大陸でルナ、レイと旅をしていたころ、とある街でケンカの仲裁をしていることを見たことがあった。
(……あの時は確か、《クラーケン》の討伐をしていたんだよな……なんだか申し訳ないな。あんまりかかわらないことが賢明だな。)
令二はそんなことを考えている……それよりも周りの視線がきつい……それもそうだろう。なぜなら、ギルドマスターと相席をしているのだから。
「先ほどはすまなかった……貴殿らには見苦しいところを見せてしまったな……依頼なら私が受けるから、それで手を打ってくれ。」
「……いや、俺はBランクの冒険者だ……こいつらは違うが……」
「! そうなのか……これは申し訳ない。恐ろしく若いな……名を聞かせてもらえないか?」
(……さて、どうする……)
令二は困っていた……令二は基本的に目立つことを嫌う。自慢ではないが令二自身はギルドランクの昇格の速さは歴代でも目を見張るものがある。これが原因で変な奴らに目をつけられる可能性が高くなると令二は考えている。事実、過去にもギルドランクが急速に上昇していった者は出る杭は打たれるがごとく、戦意喪失……または行方不明になることが多いらしい。
「……俺は……」
「レイジ様です!」
令二が言う前にテートが言ってしまった……正確にいうと、嘘の名前を言うつもりが本名を名乗られてしまった。
「…………はあ……」
「……レイジ……、もしかしてレイジ・アマノか!?」
リーデルは驚いた顔で令二を見つめる……
令二は自分の顔に何かついているのか少し疑問に思ったが、彼女の顔を見て令二は理解した。
彼女は自分のことを知っている……と……
「……ああ、そうだが……それがどうかしたか?」
「……貴殿に話がある。」
令二の嫌な予感は的中したのであった……
――――――――――――
「もぐもぐ……うん、この《ファニー・ラビットの肉》は美味いな……」
「……ふむ、貴殿にもこの美味さがわかるか……気が合いそうだ……もきゅもきゅ……」
二人は真剣な話し合いを始める前に腹越しらえをしている……リーデルは美人で清楚に見えるが、食べているときは幸せそうな顔をしている。
「で? 俺に何か用か?」
「実はな……とある里で貴殿の話を拝聴したのだが……クラーケンを二体も討伐したのはレイジ……貴殿で確かか?」
「……その言い方だと俺一人で討伐した物言いだが、あいつを倒せたのは里の奴らがいたからだ……」
令二はなるべく自分のことを隠すように彼女にふるまう。
「私は貴殿に興味がわいた。パーティとなってはもらえないだろうか?」
それは令二の予想していなかった言葉だった。