第八十六話 おっきな袋……サンタさんって泥棒じゃね?
令二は新しく名づけた車、《ドラカー》に乗って旅を続けていた……
ゴソゴソ……
「ん? チユは寝てるし……何の音だ?」
ゴソゴソ……
車ではない……先ほどサリー海賊団からもらった食料の袋が動いている……
「おい……まさか……」
令二はそれが気になって、車を止めてその袋を開いた。すると……
「白猫様~!!」
現れたのは……なんとテートだった。
――――――――――――
「お前、なんでついて来たんだよ……」
令二はため息をつきながらそんなことを言うが、テートはどうやら聞いていないようで……
「ほえ~、この大きい鉄の塊……一体なんて言うんですか?」
彼女は始めて見る車に関心を抱いていた。
「……はあ、お前のためを思って言ってるんだぞ……この大陸じゃあ、獣人は邪険に扱われるのは知ってるだろ?」
「……で、でもでも白猫様は……」
それを言いかけた彼女の口を令二は人差し指でふさぐ。
「……それはなしだ……来てしまったものは仕方ないけど、まず、これからは白猫の名は禁止だ。」
「ど、どうしてですか?」
「……今、見せてやる……」
令二は数か月ぶりに変身の能力を解いた……
ドロン!
「……え、えええええええ~~~~!!」
広がり続ける荒野に彼女の叫び声が響き渡った。
――――――――――――
「……まあ、そういうことだ。今まで黙ってて悪かったな。」
「い、いえ……あ、あの……黒い髪も素敵ですよ……」
「ぶーぶー。」
テートの先ほどの叫び声で起きてしまったチユが何やら二人の横でほっぺを膨らませている……怒っているのだろうか?
「だから白猫じゃなくて名前で呼んでくれ。」
「……は、はい!」
テートは令二の姿が突然変わったせいなのか少し緊張しているようだ。その後も三人のドライブが続き、令二たちは次の街へ向かうのであった……
――――――――――――
「そういえば、サリーたちにはこのこと言っていたのか?」
令二は運転をしている途中、テートに尋ねる。
「はい、サリーさんには言っております。ですが他の皆さんにはお話しないように言われました。」
「まあ、今頃あいつら泣いてそうだな……たく、サリーの奴、何が落ち込んでる……だ。」
「どうかしましたか?」
「……いーや、何でもない……そろそろ街に着くから、《変身》させるぞ?」
「えっ、私もできるんですか?」
「もちろんだ。チユも後で元に戻すからな。」
「むー。」
チユは返事なのか、まだほっぺを膨らませている……怒っているのだろうか。
「……いい加減に機嫌直してくれよ、チユ。」
「ふーん。ご主人様なんて、知ーらない!」
お嬢さんは完全にご立腹のようでが令二にはチユを怒らせた記憶がこれっぽっちもない。
「レイジ様ダメですよ、チユちゃんを怒らせちゃ……」
「あ、ああ……」
(船にいるときはチユは何ともなかったっけ……いつからだろう?)
そんな疑問を抱きながら令二らは次の街に到着した。
――――――――――――
「ここは《ベイグーダ》って言う街だ。結構広いから迷子にならないように気を付けろよ。」
「「はーい。」」
チユもテートも目を輝かせて街を見渡す……こうして見ると、レイやルナと一緒にいた時を思い出す……
(あっ、ついでにミリーもいたっけ……)
そんな失礼なことを考えていると、テートから質問が飛んでくる。
「ここは何ですか?」
彼女は令二の腕をつかみながら大きな建物の方に指をさす。
「ああ、ギルドって言うところだ。来るのは久しぶりだけど……」
そのまま三人はギルドに足を踏み入れた。
「いらっしゃ-い。」
受付嬢に挨拶される令二。久しぶりにギルドに入るので少し空気を懐かしんでいた。
………………
「……静かだな……」
「そ、そうですね……」
だが、令二は気にせず受付嬢のもとに行き、早速依頼を頼む。
「このクエストを受けたいんだが……ダンジョンはどこら辺にある?」
「……Bランクの冒険者の方ですね……あの、そちらのお二人は……」
「……連れだ……パーティじゃないから安心してくれ。」
「……かしこまりました。」
令二はそのクエストを受け、外に出ようとする……しかし、そこに男たちが立ちふさがる。
「……何か用か? 少し邪魔なんだが……」
「……そこのお嬢ちゃん、今から俺たちと遊ばない?」
「そんな奴らよりよっぽど良い思いをさせてあげるぜ?」
男たちは品のない目でテートを見つめる……中にはチユを見るロリコンらしき奴もいる……
(テンプレ……気絶させるか……)
令二がその男たちをあしらおうとしたその時……
「貴様ら!! やめろ!!」
何やら図太く、それでいて透き通った声がギルド内に響き渡った……