第八十四話 夏だ! 海だ! 大陸だ~!
令二の乗る海賊船が人間大陸の最北端……その沿岸部に到着した。
「……到着したか……」
令二は白い髪をなびかせ、ベッドから起き上がる。チユはどうやらまだ寝ているようだ。
「起きろ、チユ。出発するぞ!」
――――――――――――
「……本当にここでいいんだね?」
サリーは最後の確認をするため令二に言葉を投げかける。
「くどいな……ここに用事があるんだよ。」
令二は苦笑いをしてそれにこたえる。
「白猫の旦那~! 行かないでくれ~!」
「こんなところにいないで俺たちと一緒に船旅しようぜ~!」
船員たちは大げさにも泣いている。
(……なんでこんなに泣いているんだ?)
(……検証します……でました。おそらく別れの時の習慣のようです。)
(まあ、寂しくないっていうとウソになるが、俺は一回こいつらをボコボコにしてるし、何だか罪悪感があるんだよな……)
令二が《念話》でアークに話しかけていると、テートがどこにもいないことに気付いた。
「あれ? テートはどうしたんだ?」
「ああ、あいつは……な……」
「…………そうか……」
サリーが令二の疑問に答えるが、令二はそれを少しばかり察したようだ。
「まあ、テートにはよろしく言っておいてくれ……おっ、そうだ。これやるよ……」
令二は何やら先ほどから肩にブル下げているかばんの中から取り出した。
「……それは……」
「……ああ、俺が作ったオリジナルの細剣だ。形状はそのレイピアよりも良いし、高度もかたくて軽いように作っておいた。あと水属性の魔物に強い土の属性付加させておいた。海獣には効果抜群なはずだ……名前はそうだな……《ガイア・スティンガー》ってとこかな……」
「《ガイア・スティンガー》……気に入ったよ……本当にもらっていいのかい?」
「ああ、もちろん。……みんなにも配るものがあるんだ。」
令二は船でここまで送ってもらったお礼にサリーにレイピア……他の船員らには特性の上級回復薬、料理人たちには料理のレシピ、狙撃用の銃、元の世界での船の建築技術……さまざまなものをプレゼントした。
「まあ……これくらいか……それじゃあな……」
「「だんな~~~~!」」
暑苦しい船員らは手を振るって泣きながら令二を見送る。サリーは……
「あんたなら、また船に乗せて寄ってもいいぞ~!」
(まったく……素直じゃないな……)
令二はそんなことを思いながら海賊たちの船が見えなくなるまで見送った。
――――――――――――
「……さて、行くか……」
しばらくすると……令二は感傷に浸りながらアイテムボックスから以前錬成により作った車を取り出し、チユと一緒にそれに乗った。
「よっこいせっと……」
やはり車はアイテムボックスに収納することができた……アイテムボックスには生物以外、持ち運び可能なものならば基本、何でもはいるようだ。
「……そういえば、この車に名前、付けていなかったな……なんかいい提案あるか、チユ?」
「う~ん……ご主人様号!」
「……悪い……聞いたおれが馬鹿だった……まあ、そのまま名前を使うのも……ドラゴンの材料にちなんで《ドラカー》でいいかな……」
令二は自分で言っていて、自分のネーミングセンスを疑ったことは今までに一度もなかったが、今回ばかりは《ドラカー》はないだろうと、必死に他の案を考えていたが……結局、面倒くさがってその車の名前は《ドラカー》になったのであった……
「アーク、南へ行くぞ。ナビしてくれ。」
「かしこまりました……マスター。」
令二は車に魔力を込め、《ドラカー》は動き出す……
令二の長いようで短かった獣人大陸での旅は終りを告げ、新たな冒険が始まるのであった。