第六十九話 「おぬしも悪よのう……」 「いえいえお代官様こそ」
レイとミリーが獣人である二人の捕獲に成功したころ、別行動をしていたルナは領主オロブの部屋でオロブを隠れて張り込んでいた。
(……動いた……どこかに行くでござる……)
ルナはオロブが部屋から出て屋敷の出口ではなく、地下に行くのを見てその後をつけたのであった。
――――――――――――
(……ここは……)
その後、オロブが向かったのは宝物庫であった。そこには依頼を受けるときに確認した通り、宝石や高価そうなものが一切見当たらない。宝物庫というには程遠い倉庫のようだ。
(……こんなところに一体何の用でござるか……)
ルナはオロブを見てそう考えていた。
それからしばらくルナが彼の動きを観察していると、オロブは宝物庫の奥にある十数個の樽をどけていく……すると、それらの樽の下には何か奇妙な四角い蓋のような床があった。
「……ふん!」
オロブがその蓋を開けると……地下に続く下り階段があった。
(……地下へ続く隠し階段……どうするでござるか……これ以上は気付かれる危険もあるでござる。一度レイと合流して作戦を立てたほうが良いでござるな……)
「……其は水、主を守る影なり……」
ルナは小声で《アクア・ドール》を発動し、同じ容姿の水を作り上げるとその一人にオロブの後をつけさせた。発動後40分で効果が切れるこの魔法は、発動中のみ分身を本体の目、耳と情報を共有することができるのだ。
「……後は任せるでござる。」
自分の分身にそう言い放ち、ルナはすぐにオロブの屋敷を出ていくのであった。
――――――――――――
「……誰にもつけられていないだろうな……」
「……むろんだ、吾輩はそのようなヘマはしない……」
オロブは地下で誰かと話している……その様子をルナの分身が監視している。地下は暗くて、その会話が聞こえる場所だけ明かりが灯っているが、オロブと話している人物を視界に入れるのは難しい。
「……確かに人の気配はないようだ……例の二匹はまだなのか?」
「……まだだ……ところで、貴様らは何のためにあの獣人たちが必要なのだ? あんなもの奴隷市場に行けばいくらでも買えるであろうに……」
「……詮索はしないよう言っておいたはずだが……」
オロブと話しているその影はオロブに向かって殺気を放つ。分身体であるにもかかわらず、本体にもそのさっきは伝わってくる……
「……悪かった……詮索はしない……吾輩も貴様らとこれ以上関わりたくはないからな……」
「……それでいい……」
地下にいる一つの影はむき出しの殺気を消してそう言った。その後、しばらくするとオロブは口を開いた。
「……それで、報酬の方は抜かりないであろうな……」
「……問題ない。お前はただ汚らわしい獣どもを捕まえて引き渡してくれれば問題ない。」
「……わかった……貴様の言うとおりにしよう……」
「……期限は十日だ、その間に見つけなければこの件は無効だ。」
「……わかっている。」
――――――――――――
オロブと何者かとの会話が終わった後、それを見ていた分身の情報を受け取りルナは確信していた……やはりオロブは嘘をついている……獣人の二人を捕まえるのには何か別の理由がある……
ルナはそれらを疑問に思いながらもレイとの打ち合わせの場所へと向かったのであった。