第七話 お決まりの瞬殺ってわけにもいかないようだ。
2016/4/4 修正
荒れ狂う風が少しずつおさまって行く。
令二と《コノセ》里長代理のケブラがそこに立っている。
(なんでこうなったんだ?)
あまりの急展開に付いて行けない令二が、そんな事を感じてもなんら不思議ではないだろう。
ルナによって、ケブラは令二に対抗心を燃やしている……というよりも、令二が親子喧嘩に巻き込まれたというべきだろう。
まったくもって迷惑で、理不尽な話だが、ケブラは怒りを思いっきりこちらにぶつけているので、今はそうも言っていられない。
闘いに集中するため、顔を上げて前を見た。
「ふん、降参するなら今のうちだぞ。」
(いや、勝負吹っかけてきたのあんただから降参するも何もないって……まあいいけど。)
自信満々のケブラだが、正直外見はただのおっさんにしか見えない。
とても強そうではない……が、忍者の里長代理というのだから強いのであろう。
令二は対人戦が初めてだ。ゆえに少し自分の実力というものを試したいという気持ちもあるのだ。
「いくぞ!」
ケブラが声を上げると、いきなり目の前まで走ってきた。
「……其は鋼、汝を守る盾なり……」
それに素早く反応した令二は、ケブラの拳が体に触れる前に、身体を《プロテクション》で強化する。
そして、強化した体で攻撃を受けた。
「ふん!!」
ケブラは素手で攻撃してきたが、令二はあえてそれをよけずに、手のひらで受け止める。
《プロテクション》によって強化された令二にとってはそのぐらい造作もない事だった。
「さすがに少し痛いな……」
「ほう、なかなかの防御力だ。次は本気で行くぞ……其は霧、万物を欺く幻なり……」
ケブラが呪文を唱えると、霧が二人を覆った。
里の周辺に配置されていたのと同じ色をした霧だ。
(……これはたしか《ミスト・レンジ》だったか……規模は小さいけど前が見えにくいな。)
周囲の霧は、小規模とはいえ、数歩先の視界までさえぎるほど、深く故意きりである。
これでは相手の方も前が見えずに戦いどころではないだろう……
令二がそんなことを考えていると、突然ケブラによって背中を攻撃された。
ゴシャ!
「グハッ!」
令二はケブラの攻撃を受けながらも、すぐさま体勢を立て直す。
明らかに狙って令二を攻撃してきた……それを令二は一瞬で察した。
何らかの方法で、ケブラは令二の居場所がわかるらしい。
タタタタ……
そして、撤退をするとともに足音が遠ざかっているのが聞こえる。
(……待てよ。なんで俺の居場所がわかるのに連続で攻撃してこないんだ? 俺に反撃の隙を見せたらそれこそ俺が……)
令二は、視界ゼロのこの状況で冷静に考える。
なぜ敵がこちらの位置を把握しているのか……
「……そういうことか。」
何かに気付いたのか、令二は呪文を唱え始めた。
「……其は隼、疾風のごとく駆ける馬なり……さらに……《メガ・プロテクション》、赤色!」
今度は、自身の体に《メガ・プロテクション》と《フォービドン》を二重にかける。
これにより早く移動することが可能だ。
そしてケブラが再び背後から攻撃してくる……しかし、
キン!
刃物をはじいたような音が鳴り響いた。
「ぬう!」
ケブラは、先ほどよりも強化されている令二の体を素手で攻撃したために、多少なりとも反動でダメージを負ったようだ。
攻撃の後、自分の拳を押さえながらも霧の中に隠れて行った。
(……やっぱり連続で攻撃してこない。ってことは……)
次に、令二は突然走り出した。
その強化された速度によって、見る見るうちに霧を払いのけて進んでいく。
そしてすぐに霧の中から出ることができた。
「……やっぱり。思った以上に霧の発生している場所が狭い。」
ケブラは、霧の外から令二の影を見て攻撃を仕掛けてきている……その令二の予想が的中したのだ。
「ここで魔法を…………其は隼、疾風のごとく駆ける馬なり……流転し、理を指し示せ!」
霧に向かって《フォービドン》をかけた。
ちなみに、《フォービドン》の呪文における『流転し、理を指し示せ』を付け加えると、その効果は速度の低下になる。
この魔法は、もともと速度を変化させるものなので、遅くさせることも可能なのだ。
令二はその魔法によってケブラの速度を極限まで遅くしたのだ。
そして五分が立つ前に令二は霧をどんどん振り払った。
「おっと、発見。」
AGLがどうやらほとんどなくなったのかケブラはとても遅い。
令二の方向へ走って来るが、とても攻撃が当たる速度ではない。
「俺も魔法が切れるまであと一分しか持たない……いくぞ!」
令二はケブラの後ろへ回り込み《フォービドン》の速度と《メガ・プロテクション》の二重強化された素手で、思いっきり殴りこんだ。
――――――――――――
「悪かった小僧。小僧のことを甘く見ていた。」
ケブラは令二に謝罪の土下座した。
令二はその誠意ある土下座に、またしても心を許した。
(やはり、親子なんだな。体勢がよく似ている……)
心の中でそんな事を思いながらも、早速本題を話し始めた。
「……別にいい。それより、そろそろ本題に入ろう。俺はそのために来たんだ。里の戦況はどうなっている。」
「あ、ああ。戦闘可能な奴らは俺を含めて53人だ。負傷中の54人はくノ一見習いたちが看病している。」
「そうか……魔物の居場所は?」
「夜になるとあの向こうの湖から出てくる。毎晩同じところから出てくるから
何度も応戦して罠も仕掛けているんだが、どんな術もきかねえんだ。」
魔法でも倒せない。
その魔法がどれほどの威力かは知らないが、それだけ大人数で暴れて一体も倒せないとなると、いよいよそれ以上の抵抗は難しいだろう。
「そっか、よくあの霧を通ってその魔物は来れるな。」
「里の前の霧のことか? 奴は水中をもぐって下流から上がってくる。ここらに出てくる魔物は全部そういうやつらだ。」
「他の魔物は出てこないのか?」
「ああ、奴がいるせいか、他の魔物も寄ってこない見てえでな。そこは心配ない。」
「そうか……なら……」
こうして、作戦会議が続き、夜になるまでに里の全員は戦闘準備に入ったのだった。
――――――――――――
Lv 10
HP 215/215
MP 420/420
EXP 963
NEXT 127
ATK 85
DEF 45
AGL 81
DEX 50
INT 60
《魔法属性》 無
《魔法》 虹色魔法 Lv1(1/1)
プロテクション Lv3
フォービドン Lv2
ディバインド Lv2
ガーディアン Lv1
《スキル》 格闘 Lv3
剣術 Lv2
《所持金》 150G
《装備品》
・《武器》 エリューブ・ソード
・《上防具》 革の服
・《下防具》 革のズボン
・《装飾品》 力の指輪
《ギルドランク》 D
――――――――――――