第六十三話 あなたは猫派?それとも犬派?
ルナたちは《ランプス》に到着し、クエストの依頼者である領主のもとに向かっていた。
「良い風でござる~」
「そうね~」
ルナとミリーは《ランプス》の公園に植えられている木の下で昼寝をしていた。
「もう、買い物はもう終わったんですから、はやく領主様のお屋敷に行かなきゃならないのに……」
と言いながらもレイは一緒に日向ぼっこしているのだった。
「レイちゃん、領主はクエストの受注に期限を決めていないわ。」
「そうでござる~、だからもう少しここで寝るでござる~」
「……まあ、寝心地がいいのは認めますけど……」
レイは悔しそうにルナとミリーを見た。
「……メリルさん、今回のクエストのおさらいをしてくれない?」
レイはミリーの魔導書であるメリルに対してそのようなことを質問した。メリルが魔導書であることをミリーは説明したのだ。最初は説明するのをためらっていたミリーだが、令二がいなくなった後、二人の姿を見て彼女は心が折れたのだろうか……ミリー自身の秘密を彼女らに告げたのだった。
むろん、彼が持つ本、アークが魔導書であることも……語ったのだった。
「いいわよ……まず、今回、受諾するクエストの報酬は《オリハルコンの水晶》。依頼の達成条件は最近で騒がれている黒服の二人組の確保。その二名によって領主のお屋敷にある宝物庫にあった宝石や金が盗まれたらしいわ。」
メリルがレイの言う通りに三人に詳しく説明する。
「でも、そういうのは自警団に任せればいいんじゃないの? わざわざギルドに依頼なんてしなくても……」
ミリーがその話に少し疑問を持ったようだ。
「……領主についての情報はあまり自警団に与えたくないのよ……きっと。」
「……自警団には言えない理由でもあるんでしょうか?」
「……そうかもしれないわね。」
そう言ってメリル、ミリー、レイが納得していると……
「スウ……スウ……」
ルナはスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているのであった。
「姉上、起きてください。」
三人はそれから領主のもとへ向かったのであった。
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領主のオロブ・ビグリーはもとギルドに所属していた人間だ。
領主となろうとも、自警団と親しくないのにはそれが背景にあるのも理由の一つである。
彼のランクはBであったが、ある日を境になりあがりの領主となった。そんな彼は「人生は何が起こるかわからない……」と、言って、笑っていたそうだ。そのため、彼はギルドにはあつい信頼があるのだ。
「……よくぞ集まってくれた、諸君。」
領主のオロブがルナたちにそう告げる。
「あなたが領主のオロブ・ビグリー様ですね?」
レイがそんなオロブに丁重にご質問する。
「……うむ、吾輩の前ではそうかしこまらないでくれ、お嬢さん。」
「……なんというか……」
「……変わった御仁でござる……」
ミリーとルナがなにやらヒソヒソと話している。
「本日、今回の依頼を受けさせていただきます、レイ・アルヴェイと申します。こちらが姉のルナテディウス・アルヴェイ、そしてこちらがミリー・プリメイラです……。早速ですが、依頼の内容について詳しく説明していただけませんか?」
「ふむ、あいわかった。この吾輩が諸君らに説明しよう……」
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「……この領は近くの鉱山を利用し、多くの宝石を産出しておる。」
「……はい、それはクエストをお受ける際、紙に書いてありました。」
ミリーはその紙を取り出して、オロブに見せた。
「ですが、こちらの紙には黒服の二人を捕らえろと書いているだけで、それ以外の内容はないでござる。この二人から宝石を取り返す必要はないでござるか?」
「……いや、それはいいのだ。あの程度、さほどは問題ない。それよりも犯人が問題なのだ……」
「犯人……ですか?」
「……そ奴らは獣人である可能性が出てきたのだ……」
「じゅ、獣人ですって!」
オロブのその言葉にミリーが驚いて大声を上げた。
「あ……すみません……驚いてしまって……」
「驚くのも無理はない……だが、なぜ獣人がこの領に侵入しているのかが問題なのだ……その二人の外見が4か月ほど前に突如として消えた奴隷の容姿に一致するのだ。」
「……で、でも、奴隷制度はとっくの昔に廃止されたと本に書いてありました。」
レイがオロブのその話に疑問を抱いた。
「……ひそかに奴隷売買をすすめている街もあるのだ……戦争が終わったというのに……」
オロブはそういって、下を向く。
「……その二名の獣人を保護して、領主殿はいったい何を?」
「……奴隷を扱っている店はいまだすべて見つかっているわけではないのだ。だから吾輩は奴らの手掛かりを得たい。むろん、その獣人は責任をもって獣大陸に連れてゆく……」
オロブのその言葉を聞いて、ルナはレイ、ミリーと目を合わせた。
三人は無言でうなずいて、ルナが口を開いた。
「……その依頼、引き受けるでござる。」