第五十話 俺ってもしかして商売じょうず?
目標の50話をついに突破!
これからもご愛読いただけるように頑張ります。
《黒猫の祭り》を開いた人物、黒猫……またの名をレイジ・アマノ。彼は格闘、剣術で戦い、魔法も使うことができる。魔物の討伐部位を回収し、金に換えたり、そのまま材料として料理に使うこともある。
彼は商人として《パーゴス》ではとても人気が出た。彼の作る料理は珍しく、この世界での料理の中ではとてもおいしいのだ。食に貪欲な日本人の料理は異世界でも外国でも人気は変わらない。
料理に関してはあまり詳しくもない令二も異世界での客の反応を見て、密かに新たな料理の作り方を実証しているのだった。
はじめは一品物の食事しか作れなかった彼だが、いつの間にか、しょうゆ、サラダドレッシングなどの調味料が作れたことにより、料理の幅はさらに広がって行った。
その後、《パーゴス》での売り上げはうなぎのぼりとなったのは言うまでもないだろう。
そして、《パーゴス》から離れた場所、大きな屋敷の食卓で令二の料理を食べて驚いている者がいた。
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「ほう、これは……」
「いかがされました? お嬢様。」
パーニャと言う名のヒツジがお嬢様に尋ねる。
「この料理は……とても一言ではあらわせぬ。
とくにこの『ぷりん』とやらが……帆がとろけるような味だ。」
「……さようでございますか。」
「ここにあるすべての料理らと同じものを、屋敷のコックに作らせろ。それと……昼間の奴の動向を探れ。」
「…………かしこまりました、お嬢様。」
パーニャはお嬢様の命令にそう答えた。
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そして、その頃の令二はというと、魔物の材料を調達している最中だった。
「――――――――――――虹色魔法、藍色!」
令二は《グラン・スペルバインド》を発動し、視界に入れた魔物を一掃した。
しかし、令二の背後から生き残った大型スライムが攻撃を仕掛けてくる。
「ファイア・ボール!」
令二は新たに会得したユニークスキル《無詠唱》により、10分の1サイズの《ファイア・ボール》を背後のスライムたちに打ち込んだ。
「……ふう……こいつら経験値が高くて、弱いから結構うれしいよな。」
令二はいまだ気付いていない。自身が強すぎるということに。
令二は《パーゴス》に到着してからは、魔物の材料調達のため、幾度も魔物を討伐していた。
そのため、今の令二は並の魔物では相手にならないのだ。
令二が少し休憩をとってから立ち上がると、アークが報告してきた。
「この草原を超えると獣王国《ルーバル》に到着します。」
「わかった、材料はそろったしはやく行こう。」
そういうと令二は走って獣王国《ルーバル》に向かった。
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獣王国《ルーバル》……そこには獣人のあらゆる種族が点在している。
鳥族、馬族など全ての獣人が獣王のもと平和に暮らしているのだ。
「《黒猫の祭り》で~す!試食はいかがですか~!」
令二は《ルーバル》に到着後、すぐに商売を始めた。何事も最初が肝心なのだ。
そしてそこにはさっそく客が来た。
「あなたが黒猫殿ですか……噂はかねがね聞います。」
礼儀正しく令二に話しかけてきた男は鎧を着ている。この国の傭兵だろうか。
そのふるまいは人見知りの令二でも好印象を覚える。背にはフサフサそうな立派な翼がある……どうやら鳥の獣人らしい。
ちなみに令二は《黒猫》の名でこの国でも名が通っているようだ。
しかし、そんなことを令二は気にも留めず……
「はい、どうもありがとうございます。」
「この店ではいい武器も売っているとお聞きしましたが、弓は売っていますか?」
「はい、こちらは《ウィング・アーチェリー》です。風魔法を付加されて、威力を上げております。お試しになられますか?」
令二は屋台の奥から付加魔法で風属性を付加させた弓を取り出す。
「ふむ、いくらですかな?」
「では……とりあえず1000Gでお売りします。」
「安すぎるのではないですか?」
男は令二の言う驚きの安さに疑問を持つ。
「何事も信頼が大事ですので。お試しになられて、不満な点がございましたら今日中にこの場で返金させていただきます。」
「そうですか、不満がなければどうすればいいですか?」
「いえ、またご来店いただければ幸いです。最初の信用は大事ですので。」
「そうですか、ならば買いましょう。」
令二は武器が久しぶりに売れてとても満足している。
街である《パーゴス》ではあまり武器が売れなかったが、国となれば話は違う。武器もかなり売れるはずだ。
「ありがとうございました~!」
令二はその客を見送ったのだった。
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それからしばらく経つと、ガラの悪い三人組が令二の店に訪れた。
「おう、あんちゃん。いい武器を売ってるじゃねえか……それ全部俺らによこしなあ。」
(……典型的な不良の集まりが来たな……ヒツジ女といい、俺はしょっちゅう、こんなのに絡まれる体質なのか?)
不良っぽい三人組が令二に絡んできた。
「失礼ですが代金はおありでしょうか?」
令二が三人組に問いかけた。
「ああん! ガキ~この状況わかってるのか?」
「……お客様ではないのですね……」
令二がそう言った瞬間、令二は新しいユニークスキル《無詠唱》で魔法を二つ使用した。
一つ目は自分に対して《プロテクション》、二つ目は《フォービドン》である。
魔導書レベルが6になったことで令二が手に入れたスキル、《無詠唱》は効力こそ10%に薄くなるが、詠唱をする必要のなくなる便利なスキルなのである。
三人組……盗賊A、B、Cは文字通り瞬殺された。
その光景に外野が盛り上がったのは言うまでもない。
令二はその盛り上がりもあったせいか、その日だけで五十万近くの利益を収めたのだった。
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「ほう、黒猫とやらの情報が手に入ったか?」
令二の国での噂が一日で、昨日令二に話しかけてきたお嬢様の耳に入った。
「はい、私も弓なるものを購入しましたが、なかなかの出来栄え。付加魔法がかけられているようで……」
昼間、令二の店に来た客がそれをお嬢様に手渡す。
「ほう、やはり魔法を使える者なのか。黒猫とやら……ますます妾の物にしたくなってきたぞ……」
「おそらくは……《パーゴス》での売り上げなどから見ても、彼が魔法を使えるのは間違いないかと思われます。」
「そのような男がなぜ商人をやっている…………まあ、いい。奴をここに連れてまいれ。」
「御意。」
お嬢様はそのように命令をしたのだった。
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そんなことは露知らず、令二は借りた宿で儲かったお金を眺めていた。
「もう材料がなくなっちまったな。また明日調達しないと……」
「……獣王国の周辺……魔物……検索……でました。《パーゴス》周辺です。」
「すっげえな。獣王国っていうぐらいだからそう簡単に魔物が周囲にいるとは思ってなかったけど、《パーゴス》まで戻らないといけないのか……というかそんなに兵を強化してるなら昼間の連中みたいなのをどうにかしてほしいもんだな。」
コンコン!
令二の部屋のドアをたたく者がいる。
「……誰だ?」
「私です、黒猫殿。実は用があってまいりました。」
令二は昼間に弓を買ってくれた男を思い出した。
「ああ、あなたでしたか、どうぞ。」
令二はそういうと、アークを懐にしまう。
令二の言われるがままに男は部屋に入ってくる。
「まずは自己紹介ですね。私は、ベイル・コロヌスと申します。」
「はい、どうしましたか? やはり弓の方に何か不具合でも……」
「いいえ、その件ではありません。その……お屋敷にご招待をするよう、我が主におっしゃられまして……お迎えに上がりました。」
令二はその言葉に息をのんだ。
(……まさかの展開だが、どうする? こいつ、どこかの傭兵だと思っていたが、よほどの奴に仕えているのか? これに応じればなんだか面倒なことに……だが、応じなければもっと面倒なことになるか……)
「………………私は誰にも仕えませんよ?」
令二はベイルに鎌をかけることにした。
「……我が主は無理知恵だけはしないお方です。むろん、いらしてくれればそれなりの待遇もお約束します。」
「…………わかりました。ならば、ご同行しましょう。」
(まあ、いざとなったら少し眠ってもらって、逃げればいいしな……)
令二はなにやら物騒なことを考えていたが、そのままベイルに連れられ、屋敷へ向かうのであった。