第四十七話 エルフ女としゃべる本
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ある陸のある森の中……エルフ族はひそかに暮らしていた……
ミリー・プリメイラ……彼女もまた、その森で暮らしていた。
彼女は物心つく前から、天涯孤独の身であった。
だが、彼女は同じく森で暮らしていたエルフたちとともに暮らすことを苦には思っていなかった。
彼女には親代わりの母、ミクリエ・プリメイラがいた。
ミクリエが彼女を愛していたように、彼女もミクリエを実の母だと慕い、愛していた。
「私、魔法を覚えたい!」
いつからだっただろうか……ミリーはそのお願いをミクリエに何度も言っていた。
エルフは妖精族の中でも知識欲が多く、魔法のみならず、ほかの種族の生態系、文化にも興味がある者もいる。しかし、エルフの掟では三年のうち、一日しか外を出歩くことができないため、森の中の生活以外、知っている者は少なかった。
ミリーはある日、一日だけ外に出歩くことになった。
大陸の森の外には少しだけ人間の集落が存在している。
ミリーはその日、ミクリエとともにその集落に向かった。
「ねえ、ママ、これ買って!」
「あの・・・これはおいくらでしょうか?」
ミクリエはミリーのお願いを聞いたのか、集落の商人に尋ねる。
「ああ、この工芸品ね。260Gでどうかね?」
「……わかりました。」
ミクリエがその商品を買っていると、ミリーはある本に目が行った。
(……なんだろう、これ……)
ミリーはそれにとても深い興味を持ったようだ。
「ミリー、どうしたの?」
「ねえ、ママ……これな~に?」
「……あら、本ね。森の中じゃ見ないものね、知らないのは無理もないわ。」
「……ほん?」
「そうよ。まだ時間もあるし、もう少し見ていく?」
「うん!」
ミリーはそのままその本に悔いるように見た。
「ふふ、破いちゃったらだめよ。」
「ん、嬢ちゃん、その本に興味があるのかい?それならただであげるよ。
その本、開かないし、燃やせないしで困ってたんだ。」
「あら……それは不思議ですね。」
「え!もらっていいの!」
「ああ、貰ってくれるんか。」
「はい、ありがとうございます。」
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「やっぱりその本、付加魔法がかけられているわね。」
「魔法! ママ、それ本当?」
「ええ。ちょっと待ってね。その本、調べてみるから。」
そうやってミクリエは現在では失われた魔術、基本魔術の《アナライズ》を唱えた。
「……これは……魔導書……」
ミクリエは驚いたようにその本を見た。
(……長老に相談しないと……)
「ママ、どうだった?」
「……ミリー、この本私が少し預かっててもいい?この本が開けるように長老に相談するから……」
そうして、ミクリエはエルフの長老、バーズに相談した。
「……これが魔導書……こんなものが商品として出回っているものなのかの?」
バーズは信じられないかのように魔導書を見つめる。
「……わかりません。しかし、数十年前に全ての魔導書は、突如として姿をくらませております。中には今回のように売り物として出回ることも……」
「……人間は魔導書に関しては何も知らないからの……売られていても気味が悪うて買う者もいらんじゃろ。」
「……どうしますか、長老……この本は……」
「これはミリーが買ったものじゃろ?それをわざわざ奪うことなどするわけがないじゃろ。」
「……そうですか、よかったです。」
ミクリエはほっと胸をなでおろす。
「……ただし、気を付けるのじゃ。ミリーは子ども……この本は呪われてこそいないが、もし開くことができれば強大な力が持ち主に宿るじゃろう……」
「ミリーが持ち主になる資格があると?」
「……そうかもしれぬ。あの娘がその本を見つけたのじゃからな・・・」
そういって、バーズはミクリエにくれぐれも……と釘を刺したのだった。
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「あ!ママ!」
「はい、ミリー、本よ。長老に聞いたけどやっぱりその本は開けられないみたい。ミリーがいい子でずっといたら開けられるって言ってたわよ。」
「いい子・・・うん!私、いい子になる!」
「はい、そうね~。えらいえらい。」
ミクリエは少し寂しげな顔でミリーの頭をなでたのであった。