第四十五話 獣耳……それは、芸術というべきモフモフだ。
令二は目的地である《パーゴス》に到着した。
その時、令二は獣人の耳と尻尾を観察するべく、
アイテムボックスからとりだしたフードをかぶっていた。
(……自分でやっといてなんだが、これだと不審者に見えるんじゃないか?……まあ、いいか。)
令二は街の前にいる憲兵に気付かれた。
「旅の者か?」
「あ、ああ。この街にはしばらく滞在することになる。」
「ふむ、わかった。通過料金は300Gだ。」
(人間と仲が悪いのに同じ通貨を使っているのか……まあ、ご都合主義だな。)
「……これだ。」
令二は300Gを憲兵に渡す。
「よし、行ってよし。」
令二は怪しいものを持っていないかチェックされたが、服装に関しては注意を受けなかった。
(ふう……あいつの耳と尻尾はわかった。さっそく宿を借りてスケッチしよう。)
(はい、かしこまりました、マスター。)
こうして緊張しながらも《パーゴス》に侵入した令二だった……
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「よし、できた!」
令二は宿で、街を歩いていたさまざまな獣人の耳と尻尾の下書きを描いていた。
「猫に犬、これは狐……いっぱいあるな。」
「……検索……でました。獣人族には多種多様な種族が生息しています。その種族によって特徴が異なると記録されております。」
「へえ……《変身》をしたらその特徴も真似られるのか?」
「いいえ、それはできません。《変身》によって変化するのは外見だけです。」
「そっか……ん?そういえばミリーには《変身》をかけっぱなしだったな・・・大丈夫か?」
「……はい。マスターまたはミリー様が解除を許可しない限り、容姿に変化はありません。」
「……なら安心だ。……どいつに変身しようかな……」
その後、令二は自分の姿を何にするかで1時間、迷ったのだった。
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「とりあえず家で猫飼ってたから、猫にするか……」
そういうと、令二はアークに猫の耳と尻尾を付けた自分の絵を描いた。
「《変身》スキル発動!」
どろん!
「――――――――――――もう変身できたのか?」
令二は宿部屋の鏡を見た。
そこには髪の上に耳が二つ・・・人間の耳はなく、腰には黒い尻尾が垂れている。
黒髪、黒目、黒い尻尾・・・灰色の服を着ている姿を見て・・・
「おお、黒猫みたいだ……」
自分に驚くという、なんとも不思議な感覚をもちながら、令二は思った。
(……黒猫は不運の象徴だった気がするな……まあ、いっか……)
令二はおもむろに耳を触ってみる。
「おお、これはモフモフだな……尻尾もなのか?……何も感じないな……
まあ、人間にはもともと尻尾はないからな。モフモフだが感覚神経がないんだろうな……」
などと意外に獣人の体を楽しんでいる令二であった。
――――――――――――
「なんだって!ここにはギルドがないのか!」
「……はい。グリバーズ大陸にはギルドは設置されておりません。
ギルドがあるのは以前にも申し上げましたが、バクデース大陸のみです。」
「……あ~、言ってた気がするような……しないような……」
令二は困っていた。ギルドがないならば金が手に入らない。大陸を超えるならば、ギルドは必須なのだ。そのギルドがないのでは、お話にならない。
「……じゃあ、魔物はいつもどうしてるんだ?」
「……検索……でました。獣人族の身体能力は人間族よりもはるかに上なので、それぞれ街の者や、街の憲兵が倒していると記録されております。」
「……それじゃあ、ギルドがいらないな……」
令二は納得した。住民がそもそも強いならばギルドを建てる意味もない。
「……どうしよう?」
令二は異世界に来て初めて、金の問題に直面したのであった。