第四十四話 俺は今、大切なものを失った気がする……
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「………………」
令二は寝ころがっていた…………いや、眠っているのではない。ただ、今起きている状況を少し整理しているのであった。
「……瞬間移動……ってやつだよな……アーク。」
「瞬間移動……検索……でました。瞬間的に異なる場所に移動することです。」
「いや……そうじゃなくて……さっきの魔法のことだ……」
令二はアークの返答に少し怒って答える。
「……検索……ビビ、該当する項目はありません。」
「……空間魔法の誤作動なのか?」
「……解析……はい。その確率が99%です。マスター」
「そうか……ここはどこだかわかるか?」
令二は周りを見渡し、森の中にいることを確認した。
「……検索……でました。ここは獣大陸《グリバーズ》の東方に位置する場所です。」
「さっきいた場所とはどのぐらいの距離がある……?」
「……検索……でました。約一万キロに相当します。道のりを計算しますと約10か月ほどかかると思われます。」
「……おい、おい……」
令二はその距離にかつてない絶望を感じる。
(……考えろ……)
だが、令二はよく考え、その末……
「もう一度あの魔法を使えばいいんじゃないか?そうすれば・・・」
「おすすめはしません。その魔法は座標指定のない空間魔法のおそれがあります。光属性系統でないマスターがもう一度使ってしまえば、地中や空中に転送してしまい死亡する危険も存在します。」
「……グロいな……それ。」
一瞬その光景を考えてしまった令二はため息をつく。
(……あきらめて、普通に行くしかないか……ルナやレイには悪いが、帰るのが遅くなっちまうな……ついでにミリーも……)
「グダグダしていても仕方がない…………とりあえず一番近い街に行こう。どうするにしてもそうするべきだろう……」
令二は踏ん切りがついたようで、そのようなことを言った。
「かしこまりました、マスター、……検索……でました。方向西北、距離13キロの地点に《パーゴス》と呼ばれる街があります。」
「……わかった……行こう。」
令二は異世界に来た時と同じようにすぐ近くの街へ向かった。
しかし、最初の異世界へ来た時と違い、令二は仲間と別れている。
戻らなくてはいけない……と令二は心の中で決意していた。
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「ねえ、ルナってば!」
「……ん、なんでござるか……?」
「あの魔法がなんだかわかったわよ!」
「ほ、本当でござるか!ど、どのような!」
「……レイちゃんも呼びましょう!とりあえず、レイジ様は生きているわ!」
ミリーは以前、令二が見つけた本を読んで、それを解析していたのだ。
そして、令二の使用した魔法を理解したのであった。
「……なんですか?」
レイは目の下にクマができていた。わずかに裾が湿っている。目の周りも赤くはれている。
令二が消えた後、レイはずっと泣いているのだ。
「聞くでござる!レイジ殿は生きているでござる!」
「そ、そうですか……よかった……レイジさんが……」
レイはほっとしたようで枯れきった涙を再び流す。
「ミリーが詳しく話してくれるでござる!令二殿の部屋へ!」
「は、はい!姉上!」
レイの卑屈そうな顔が晴れ、二人は令二の部屋に向かうのだった。
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「そういえば、獣大陸ってなんなんだ?」
令二は《パーゴス》に向かって歩いているところ、アークに質問していた。
「……検索……でました。獣人族と呼ばれる種族が生息している大陸です。この大陸に生息している生き物の九割が獣人です。」
「九割……獣人ってのは尻尾とか耳が付いている奴か?」
「……検索……でました。はい、その通りです。獣人族は人間族とは異なり、獣のものと同様の尻尾や耳が存在すると記録されております。なお、戦時では、獣人族は人間族の奴隷となっていた歴史もあり、獣人と人間族は現在でも小競り合いや戦闘があると記録されております。」
「……じゃあ、俺……人間ってバレたらまずいんじゃ。」
「……対策……検索……スキル《変身》を使用し、獣人に成りすますことが最適かと……」
「あっ、そっか……その手があった……」
令二はすぐに《変身》を自らにかけようとするが……
(……これってどんな奴か本に描かないといけないんだよな……)
ちなみにミリーに《変身》を使用するときは簡単だった。人の耳をスケッチするだけなのだから……
だが、獣人の耳は見たことがない。むろん尻尾もだ。見たことがないものはいくらファッションを気にする令二といえど、描くことはできない。
「なあ、獣人の絵とかってないよな?」
「……画像は検索できません。」
「……だよな……よし、とりあえず獣人をさがそう。街に行ったらすぐに尻尾と耳をスケッチする。」
「かしこまりました、マスター。」
こうしてぼっちな俺としゃべる本のゆるい旅が再び始まったのだった……