第一章特別編 拙者の主君は鈍感なのでござる
いつの間にかアクセスは30000、ユニークは3000突破です!
特別編ですがどうぞご愛読ください。
これは古都《ワールヴ》へ到着する前のこと、《ト-バー》での令二たちの空白の二週間のお話である。
「う~ん、いい朝でござる。」
ルナはベッドから目覚めた。
「おはようございます、姉上。」
レイはいつもルナより先に起きている。どちらが姉なのかわかったものではないが、これが二人の日常の一つであるため、当人たちはあまり気にしていない。
「……レイジ殿は?」
「……まだ風邪で寝込んでいます。今日中には回復しそうですけど。……」
令二はその時、ルナの料理(毒調合)によって苦しめられていた。
「レイジさんは看病するなら私にと言っていました。」
「そ、それは……」
「レイジさんは姉上に休養を与えたいそうなんです。……まあ、もうだいぶ熱は下がってますし私一人で看病はできます。どうか、レイジさんのお気持ちをくんでください。」
(今姉上を看病に当てたら、どんな料理をレイジさんに食べさせるかわかりませんし……)
その時のレイは令二のことを第一に考えていたのであった。
「わかったでござる。レイジ殿のおそばにいられないのは残念でござるが……拙者をそこまで考えてくださるレイジ殿のためにしっかり休養をするでござる。」
そう言ってなんとかルナを追い出したことに安心したとはレイは口が裂けても言えない。だが、令二は瞬間的に生死をさまよったのだ。姉のルナといえど、放っておくわけにもいかない。
ちなみに『服で色仕掛け作戦』や『お料理大作戦』を面白がってルナに吹き込んだのは他でもないレイであったのもレイは口が裂けても言えないのだった。
――――――――――――
「ふんふふふ~ん!」
そんなルナはご機嫌であった。
正直、休養をもらったルナは嬉しかったようだ。
「レイジ殿は拙者のことをそこまで……あ、この服もいいでござる!」
絶賛ショッピング中であった。
ことルナは料理以外に関しては一般的な女性と言えるかもしれない。
忍者であることはさておき、彼女は服が好きで、妹思いの良い姉と言えよう。そんな彼女は恋に疎い。コノセの里ではケブラの娘であったのか、ケブラが近寄る男を闇に葬っていた(殺してはいない)らしい。
そんな彼女がはじめて興味を持った男、それが令二であった。彼女はその気持ちが恋であるのかそうでないかはまだわからないようだが、一緒にいたいという主従の心構えがあるのだ。
(……レイジ殿はあの料理をさぞ、喜んでくれたのでござろうか。だから、拙者に休養を……)
付け加えよう。心構えはあるが、令二を危険にさらしているのはほかならぬルナだ。
むろん、レイジはルナのことを一度信用しているためその程度では怒らないが、軽くトラウマができているのも事実である。ルナの料理はするたびに《毒調合》のスキルレベルを上げ、令二を苦しめるであろうが、それはまた別のお話。
(拙者の主はよい主でござる……ど、鈍感でござるが……この服も着たら、喜んでくれるでござろうか……かわいい……)
ルナはいつの間にか戦闘を行うとき以外は一般の服を着ることも多くなってきたが、忍者の服は彼女にとって一般着であるので全体の着ている割合はさして変わらない。五分五分というところだ。
(はあ……いつもよりレイジ殿のことを考えてしまっているでござる。レイ……ちゃんと看病しているでござろうか……)
「うえ~ん!」
ルナが令二のことを考えていると、そこに迷子らしき子供がいた。
「どうしたでござるか?」
「えぐ、えっぐ……」
「落ち着くでござるよ~。」
「あ、ありがとう。」
「保護者の方はどこでござるか?」
ルナは子どもをなだめると親切にそう聞く。
「あ、あの……お父さんと離れちゃって……」
「そうでござるか、では一緒に探すでござる。」
その後、ルナはその子供を無事、親のもとへ送り届けたのであったが、買ったばかりの服を汚してしまったことにあとから気づくルナであった。