第四十一話 「雨降って地固まる」っていうけど、地面はもともと固いと俺は思う。
令二はミリーとともに図書館に行っていた。
「ねえねえ、何を調べてるの?」
ミリーが令二の隣に座って話しかけた。
「……答える義理がない。」
「義務……じゃなくて義理?あのねえ、もう私はあなたの仲間なのよ。」
「俺を一度付け回して、どうどうと俺を殺すと言ったのは誰だ?」
「……むぐ」
「尾行にも気づかれていて、すごそうな魔法を洞窟で使おうとしたのは誰だ?」
「……ぐう」
「そして助けてもらって、仲間に勝手になった奴が何言ってるんだ?」
「……わ、わかったわよ。詮索しないわよ。」
「……そうしろ。」
そう言うと令二は本絵を読んでいた。
令二はルナやレイには心を開いていても、
まだミリーをあまり仲間だと思っていない。
しかし、その理由は令二にもよくわかっていない。
(……ダメだな……見つからない。)
令二は読んでいた本を閉じて次の本を読みはじめた。
「……ねえ……」
「……なんだ?」
「なんで私には冷たいの?レイちゃんやルナには優しいのに……」
「それはお前をどうとも思っていないだからだ。」
「……そう……」
令二のストレートな言葉にミリーは落胆する……
(こいつは悪い奴じゃない……だけど……)
「ねえ、令二は二人のことをどう思ってるの?」
「二人……ルナとレイか……」
「そうよ。どっちが好きなの?」
「好きか嫌いかと言われると……どっちも好き……だな。」
これは令二からの心からの言葉だ。ただし、そこには恋愛感情はないが……
「そ、そう……」
令二のストレートな言葉にミリーは再び落胆する……
(……どうやったら、レイジを振り向かせられるんだろう?)
「私、ちょっと風にあたってくるね。」
「……ああ、わかった。」
ミリーはそのままと図書館から出て行った……
――――――――――――
「私……どうしたらいいんだろう?」
「私に聞かないでよ。本に恋愛感情はありません。」
メリルがミリーの問いに率直に答えた。
「私、なんであいつに惚れたんだろう……」
「敵である私たちを助けてくれたからだと思うわよ。
まあ、彼にとっては私たちは敵ですらなかったと思うけど……」
「…………そうよね。」
「それで?ミリーはどうしたいの?」
「…………一緒にいたい。」
「ならそうしなさい。私も助けられた身だから彼は信用できるわ。」
「でも、レイジ……私のこと……何とも思っていないって……」
「それは、私のためにミリーは彼を殺そうとしたからね。
普通は嫌いになるわよ。彼は気にしていないみたいだけど……」
「ルナやレイちゃんの前だとそこまで無下に扱ってないけど……それはレイジの本当の気持ちじゃないのよ……私、このままだと彼の仲間になれない。」
「でも仲間になりたいんでしょ?」
「……うん。」
「じゃあ、仲直りしなさい。早いほうがいいわ。そうね…………今日中にね。」
「え!そんなの……」
「無理じゃありません。自信を持ちなさい。」
「……あ、ありがとう!メリル!」
ミリーはメリルに励まされて元気が出たのか、そのまま図書館に走って戻って行った。
――――――――――――
「ねえ、レイジ。なんで私のことを何とも思っていないの?」
「……ん?なんだ、ミリーか……いきなりどうした?」
「答えて!」
「……図書館では静かにしろ。」
ミリーの突然の大声に令二は少し驚いたが、態度は変えない。
「あ……わかった。」
ミリーはそのまま令二と一緒に外に出て行った。
――――――――――――
「お前を何とも思っていない理由だったか…………とくに理由はない。」
「……え?そ、そんなわけないでしょ!」
「いや…………とくに理由はない。強いて言えば、最初のやり取りからして、仲間になったからといって、いきなり親しくするのは気が引けた……というところか……」
「わ、私は一応……レイジを殺そうとしたんでけど……怒って、嫌いになってないの?」
「俺は死んでいない……だからその点は怒っていない。」
「………………」
そんな令二の言葉を聞くと、ミリーは黙る。
「……どうした?」
「……バカ!」
ミリーが令二をたたいた。
「……バカバカバカ!」
「お、おい!どうした!」
「あんたなんなのよ!急に優しくしたり、
条件と言えばくだらないことだったり!」
「いつ、やめろ!……いて!」
「この鈍感!バカ!たらし!優男!イケメン!」
「いい加減にしろ!最初のほうは貶しているかしらんが、最後のほうはどう考えても褒め言葉だ!バカにしてんのか!」
「う、うるさい!これからは今度こそ『ミリー』って呼んで!」
「だから答える義理は……」
「なくてもやるの!」
「……むちゃくちゃだな……」
「よ、呼んでくれたら……ひ、一つだけ……なんでも言うことを聞くわ!」
ミリーは令二に顔をそむけて言う。
「……ふむ……なんでもか……」
「………………ど、どう?」
「……わかった。お前のことを仲間と認めよう。『ミリー』とも呼ぶ。」
「ほ、本当!」
「……ああ。ただし条件は忘れるなよ。」
「……うん……も、もちろん……よ。」
このとき、令二は彼女の瞳の奥にある孤独感のようなものに同情をしていた……
(こいつは……昔の俺と……同じなんだな……)
元の世界にいた自分と似た彼女を見て、令二は彼女のことをあまり好きではなかったのかもしれない。そう思った令二だった。
(……なかま……か……)
そして、令二が感じ取った孤独感は紛れもないミリーのものであった……