第三十五話 所詮は戦いなんて物量で勝てる
朝から疲れているようで、令二は王立魔法図書館で調べ物をしていた。
「あ~、気持ち悪い……当分スープは飲みたくないな……」
令二はいまだルナの料理(毒)に苦しんでいた。
「……あ、いた!」
令二の隣でミリーが大声を上げた。
「前はよくもやってくれたわね!勝負しなさい!」
「図書館では静かにしろ。」
大声を上げるミリーに対して令二は冷静な注意をした。
「あ、わかったわ。」
ミリーは空気を読んで静かになった。
「となりいい?」
「好きにしろ……」
ぶっきらぼうに答える令二の隣にミリーが座る。
「何か調べ物?」
「答える義務はない。それよりなぜここにいる。あんた、冒険者だったのか……」
「もちろんよ。」
「……性懲りもなく殺しに来たのか?」
「……そうよ。」
「……おとといの戦いであんたの負けだ……やめておけ。」
「そんなこともう一度やったらわからないじゃない!」
「あんな洞窟で大掛かりな魔法を使いやがって……実戦経験がない証拠だ。だから詠唱中に攻撃を受けたし、逃げられた。」
「ぐぬぬ……」
令二の的確な推測にミリーは反論できない。
「はあ……場所を移そう。あんたがいると目立つ。」
令二は持っている本を閉じて、ミリーとともに森の奥に行った。
――――――――――――
「……ここならいいだろ……」
「……何よ、前は逃げたくせにいきなり戦う気になって……」
「前はあんたの魔法で洞窟が崩れる危険があったからだ。」
「私は『あんた』じゃない、『ミリー』よ!」
「……御託はいいからさっさと来い……」
令二は思う。戦いの中で最も重要な場面……それが先手である。
だが、令二はその重要な先手を譲る代わりに、ミリーの力を図ろうとしているのだ。
(あの時のあいつの魔法……俺と同じ魔法なのに威力が段違いだった。奴は実践慣れはしていないが……強い。)
「じゃあ遠慮なくいくわ。……其は焔、万物を業火に見舞わせるものなり……」
ミリーの頭上から火の玉が大量にあらわれた。
それはさながら散弾銃のようなものだ。
そして、それらの火の玉が目標である令二のもとに向かう。
「……赤色……」
令二は小さい声で《メガ・プロテクション》をかけ、そのまま火の玉らは令二に直撃した。しかし……
「……やっぱり効かねえな……」
「な! ……無傷ですって!」
令二が顔色を一切変えずに自分の魔法を防いだことに、ミリーは驚いた。
令二は次の瞬間、隙ができたミリーに容赦なく素手の一撃を仕掛けようとした。
「後ろよ、ミリー!」
ミリーは何者かの声で我に返ったのか、令二の攻撃を察知してかわした。
「落ち着きなさい!バカ!」
ミリーの持っている本からミリーを叱る声がする……
「やっぱりその本もしゃべるのか……」
「……メリル、ありがとう……」
「そんなことより、ほら。あいつから目を離さないで……」
「わ、わかってるわよ。」
「……終わりか?もう来ないならまたこっちからいくぞ。」
「まだよ! ……其は風……天空をかける翼なり……」
呪文詠唱後、ミリーが宙に浮いた。
しかし、令二はその光景を見て驚かず、むしろ、興味深いようだった。
「ふむ。宙に浮けるのか…………其は火、汝は敵を打つ球なり……」
令二は浮いているミリーに向かってすぐさま《ファイア・ボール》を放った。
「そんなの効かないわよ! ……其は鉄、汝は人を守る盾なり……」
ミリーが詠唱すると、砂の壁が火の魔法を防いだ。
ちなみに、属性には相性が存在する。火は土に強く、土は風に強く、風は水に強く、水は火に強い。
しかし、相性が悪いにもかかわらず、火の魔法を土の魔法で防ぐことができたのは、それだけミリーと令二の間で魔法の威力が異なるからだ……
「……其は嵐、万物に至らせしめるものなり……」
ミリーが再び魔法で令二に攻撃する。
しかし、《メガ・プロテクション》をかけている令二にはまるで効果がない。
(あの壁を出されたらあいつは見えなくなる……つまり俺の視界から外れる……
だから、藍色の魔法は使えない。……となると……)
「こうするか……」
令二は不敵な笑みを浮かべていたのだった……
「……其は王、万民を守護する者なり……精霊の加護を纏いて万物を超越せよ……」
令二は《スピリット・オーラ》を発動した。さらに……
「……其は隼、疾風のごとく駆ける馬なり……流転し、理を指し示せ!」
令二は《フォービドン》をミリーにかけようとした。
「甘いわ!……其は鉄、汝は人を守る盾なり……」
ミリーはまたしても砂の壁を生成し、令二の魔法をさえぎる。
「……其は隼、疾風のごとく駆ける馬なり……流転し、理を指し示せ!」
しかし、令二は再び《フォービドン》をミリーにかけようとした。
「しつこいわよ!……其は鉄、汝は人を守る盾なり……」
当然のように令二の三度目の魔法もミリーの魔法でさえぎられた。
「遅くなっているな……仕上げだ…………其は火、汝は敵を打つ球なり……」
令二は再び《ファイア・ボール》で攻撃する。
「……其は鉄、汝は人を……な!」
なぜか数秒後、《ファイア・ボール》はミリーに直撃していた。
「物量作戦……成功。」
宙に浮いていたミリーはそのまま森の木に落ちた。