第十七話 夢で目がぐーるぐる
令二が寝ていると、夢を見ていた。
「……お……さ……」
「起きなさい!」
「うわ!……あれ、ここどこだ?」
レイジは驚いて体を起こすと、上下左右、何もない真っ白な空間で目覚めた。
そこに、金髪の幼女が話しかけてきた。
「ここはあなたの夢の中よ。」
「夢……?」
「ええ、どう?驚いたでしょう!」
令二を起こしたちびっこが自慢げに言った。
(レイに似てるな……こいつ……というかチッコイな……)
「わーすごい。おどろいたよ。」
「絶対驚いてないでしょ!」
「せっかく驚いたふりをしてあげたんだが……
夢だかどうだか知らないけどはやく宿に返してくれ。」
「え?気にならないの?ほら、『お前は何者だー』……とか、
『ここが夢ってどういうことだー』……とか。いろいろあるじゃない。」
「あんたのことは知りたくもないし、俺は早く宿で寝たい。」
「キー!ここまで馬鹿にされたのは初めてだわ!」
「さっさと案内しろ。」
そこにはいつも通り周りのことを気にしない令二がいた。
いまだ、出会ったばかりの人に心が開けないのか・・・
「ふん、いいわよ。そんなこと言ってるけど本当は、あんたはピュワな心の持ち主なんだから。そう、こういうのをなんて言ったかしら……ツンデレ?」
「五月蠅い。黙ってさっさと案内しろ、ガキ。」
「ガキじゃないわよ!こう見ても私何百年も生きてるんだから!」
「俺は五万年生きている……」
「うそ!」
「嘘だ。」
「ムキー!」
――――――――――――
「ハァハァ、やるわね、あなた。ここまであたしと対等に言い争えたのはあんただけよ……」
「案内できないならとっとと寝かせろ。俺は眠いんだ。」
「ムキー!またバカにして!」
「……で、なんだここは?」
「……やっと、聞く気になったのね……いいわ。どーーーしても教えてもらいたかったら、『今までの無礼をお許しください、ネピュル様』と言えば、話してあげないこともないわ。」
「じゃあいいや、おやすみ。」
令二がそう言って寝ようとすると……
「え!聞かないの?教えてあげるわよ?ほら……」
「やだ、寝る……」
「聞いて!お願いだから!私が悪かったわ!」
「……『今までの無礼をお許しください』……だ。」
「今までの無礼をお許しください!・・・ハッ!」
無意識に令二の言葉を繰り返してしまったネピュルだった。
――――――――――――
「私はネピュル・ギリカメロよ。」
「で、目的は?」
「………………」
「言わないなら寝る……」
「わ、わかったわよ、言えばいいんでしょ!」
「……聞いてください……だ。」
「聞いてください!……ハッ!」
(かわいそうな性格だな……)
「……うー……わかったわ。もう観念して話すから……」
「はじめからそうしろ。」
「……私はあんたの魔導書の製作者よ……」
――――――――――――
「で?そんな奴がなんで俺の夢の中にいるんだ?」
「驚かないのね……まあ、いいわ。
それは私の作った魔導書の魔力が突然現れたからよ。
今までどんな方法を使っても探せなかったのに……」
「さがして、俺の夢の中に入ったと……それも魔法の一つなのか?」
「ええ、そうよ。幻影魔法であなたの夢の中に入ったのよ。」
「そうまでしてこの本を追っかけてきて何しに来たんだ? 言っておくが、アークを渡すつもりはないぞ。」
「いや、それはいいのよ。どうせマスターの権限は死ぬまで変わらないんだし……」
「なんだ、じゃあ、もしかしてあんたはもう死んでるのか?」
「……そうよ。だからこうやって思念体で来たんじゃない。」
(思念体って……何でもありだな。)
「じゃあ、なんで来たんだ?」
「単純に持ち主に興味があったのよ。
その本、悪いやつには開かないようにしてるから……」
(悪いやつ? こいつの基準か? ……だが……)
令二がそう考えていると、
「でもとんだ見込み違いね。こんな奴どこが悪くないやつなのよ!」
「製作者が何言ってるんだ……というか俺に言うなよ。」
「……とにかく、そういうことなのよ。」
「そういうこと?」
「その本持ってるんだからもっとましになれってことよ。」
「それで終わりか?早く帰りたいんだが……」
「あなたねえ!なんで私にそんなに冷たいのよ!」
「他の奴にだって同じ……じゃないな。なんでだろう? あんたをいじめていると楽しいな。」
令二は自分がこの世界に連れてこられたのはネピュルのせいだと思って腹いせをしていたのだ。
むろん、ネピュルも別世界に本があったことは知らなかったが・・・
「……あんたに忠告しに来たのよ。あんたの魔導書が現れた時と同時に
私が過去に作った全ての魔導書が魔力を上昇したのよ……」
「他に魔導書があるのか……で?」
「その本についての説明がなかったわね。いい?
その魔導書の名前は『基本魔術』。
全ての魔導書の原点となってるの。
他の魔導書の魔力を増幅させてしまう能力を持っているのよ。」
「……それは弱いな。」
(古いほうが技術が進歩してるとかってないんだな……現実的だ。)
「でしょ?だからくれぐれもほかの魔導書を使う者にその魔導書は渡してはならないわ。もし渡したら、魔力を増幅させた強力な魔法一発でこの世の終わりよ……」
(いきなり世界の危機をゆだねられてもな……)
「まあ、とにかくそういうことだから。頼むわよ。」
「頼まれてはないが渡すつもりはない。他の連中から魔導書を奪うことはあってもな……だが、悪いやつの持ち主にならないんだったらそんな心配しなくてもいいと思うぞ。」
「ああ、それはその魔導書限定なのよ……
だから、私も他の奴らのところには行ってないし。頼るつもりもないわ。」
「俺にも頼るな、正直言ってめんどくさい。」
「まあいいわよ、今は別に。あんたは私の思いに答えてくれそう
……だってあんたはピュワな心の持ち主なんだから……
…………そろそろ時間ね。最後に、あんたにはあるスキルを与えるわ。
次に私と会ったときに死んでいないようにね。」
令二はそういわれると意識がなくなって再び眠りについた……