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第百十一話 魔法を封じられた魔王なんてチョロイ。

 リーデルはドラゴンを妨げるほどの巨大な結界の目の前にいた。


「……まさに盾だな。鋼よりも固い……だが……」


 リーデルはその眼、魔力解析により結界の弱い部分を発見する。


「は!」


 その剣で軽々と結界の一部分を切り裂き、そのまま結界の外に出る。


「ガアアアア!」


 結界の外に出ると、それをすぐに認識したのか、ドラゴンがリーデルに向かって吠える。


「竜よ! 我が声を聴いてくれ!

我々はあなたと戦うことを決して望まない。我々の敵は魔人だ!」


「グウウウ……」


 リーデルは見上げるとドラゴンに話しかけた。


「決してそなたに危害を加えない! それでも戦うというのならば我らは全軍をもって応えよう!」


「…………」


 ドラゴンは亜種とはいえ、元々は竜人族である。

そのため、魔人や人間のように賢く狡猾であり、魔物と異なり感情も持つ。


 しばらくリーデルの話を聞いていると、ドラゴンは彼女の言葉を理解したのか黙り込む。


「……ガアアアアアア!」


 しかし静まったと思った瞬間、ドラゴンはその巨大な足で彼女を踏みつけようとした。


 ドシーーーーーン!!


「やめるんだ! 私は其方を斬りたくはない!」


 リーデルはその攻撃をかわし、再度説得を試みる。


「ガアアアア!」


 しかしドラゴンはリーデルの声に耳を傾けようとはしない。

一方的に攻撃してくる。そしてリーデルはそれらを紙一重でかわす。


「そのドラゴンに何を言っても無駄だ!!」


 ドラゴンがその場に固まると、その頭上から何やら少年の声が聞こえた。


「わが名は魔王ルト! そのドラゴンは今、余の支配下にある!」


 いつもはオドオドとしているルトだが、彼は今、魔人らの命を背負って戦っているためなのか強い覇気を放ち、魔王としての威厳を強く現していた。


「さあ《土竜レングネス》よ! その魔力と咆哮で全てのものを破壊しつくせ!」


「ガアアアアアアアアアアアア!!」


 ドラゴンが今までよりもさらに強い魔力を放出する。

その魔力により地響きが起きているほどだ。


「こんな場所にドラゴンがいるのはおかしいとは思っていたが、まさか召喚魔法で気高き竜が魔王のしもべになっているとはな。」


「くらえ! 《アースクエイク》!」


 無詠唱での魔法。

それも契約した生物との合成魔法である。


 その威力は一般の《アースクエイク》の何倍もの威力があるだろう。


「させるか! はああ!」


 キイイイイン!!


 剣での攻撃……もちろんドラゴン相手にそのような攻撃が効くはずもない。


「ははは!! まるで虫けらのようではないか……人間よ。その程度でドラゴンを切れると思っているのか?」


「まだだ……其は鎖……古の呪術で万物を封印せしもの……火となり水となり風となり土となり……四大を呪縛し、その身を削れ!」


 リーデルは剣の先からドラゴンの体内に直接魔法を発動した。


「な、何をした! ……ま、まさか封印魔法!」


「その通りだ。これでそのドラゴンは属性魔法は使えない……」


 リーデルは呪縛魔法に分類される、封印魔法でドラゴンの動きをしばらく止め、その魔法を封じたのだ。


「グアアアアアオオオ!!」


 ドラゴンはそれでもなお、全てを破壊するため暴れ続ける。


「伝説の竜よ。太古の時代、魔物も魔王よりも誇り高かった其方が今、魔王に召喚され、操られ……

さぞ屈辱だろう。一瞬で楽にしてやる。」


 リーデルはそう言うと、剣を抜いてその剣を天に掲げる。


「この力を使うのはもう二度目になるが……まあいい。死にはしないだろう。私はまだ死ぬわけにはいかないからな。」


「グアアアアアアアア!」


 ドラゴンの咆哮で大気が震える。


 そんな中、リーデルは深呼吸をして集中していた。


「いくぞ……テラ・バスティ・レーネ!」


 彼女がそう叫ぶと雲の上から光が降り注ぎ、剣にその輝きが伝わる。

そして徐々に眩しい光は天を衝くかの如く巨大になり、ドラゴンよりも巨大な大剣へと形を変える。


「な、なんだこれは!」


 ルトは頭上でドラゴンにかけられている魔法を解除しながらリーデルの剣を見上げた。そして理解不能な自分の置かれている状況を、ただただ驚くのであった。


「知らないぞ! そ、そんな魔法! 魔王である余が知らない魔法など……」


「これで終わりだ! はああああああ!」


 ――――――――――――


「……何が起こっているんだ……」


「み、見ろ! ドラゴンが!」


「真っ二つに!」


 結界の外で何が起こったのか……それは全ての兵士が知り得ないものだった。


 ただ、一つだけわかる事。それはドラゴンが一瞬にして斬られたという事だけだった。



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