第百七話 お腹を壊さないように食べる物には気を配ろう。
東の防壁付近ではルナとレイが魔軍四天王のその一人、グリードと戦っていた。
「やああ!」
キイイイン!!
「……其は水、主を守る影なり……」
ルナは《アクア・ドール》を発動し、自らの分身を創り出す。
「濁流手裏剣!!」
さらに分身を作ると同時に手裏剣を投げる。
「《フレイム・ウォール》!」
グリードの魔法で炎の盾が彼の目の前に現れる。その盾によって、ルナの攻撃が又してもを完全に打ち消してしまう。
「……く、あの発動速度は厄介でござるな。」
「……其は火、汝は敵を打つ球なり……」
次はレイが魔法を放つ。……が、
「躾けえなー。《ガイアウォール》!」
再び彼の魔法により二人の攻撃は防がれてしまった。
「あー面倒くせえ。こんなことなら昔、魔軍を全滅させたって言う聖騎士って奴らの方がよかったなー。まあ、この配置は俺が仕向けたんだし仕方ないか。」
「何を言っているでござるか!」
「いやーね、どうも俺は周りから命令されるのがイヤでよ。裏からこの戦いの敵味方の戦力や配置をだいたい予測してだな……はあ、やっぱ面倒くさいから説明してやんね。」
グリードはそう言うと、先ほどまで座っていた状態から立ち上がる。
「これ以上長引かせるのも面倒だしそろそろ決着附けねーとな。お前らが何者なのかは知らねーけど考えるだけ無駄ってもんだろ……」
「姉上、来ます!」
「わかっているでござる。」
「無駄だって……《サモン・ヴェノムキマイラ》……」
グリードが無詠唱で魔法を唱える。
すると、突如地面に魔法陣らしき光が展開され、そこから見たことのない魔獣があらわれた。
翼が生え、顔が二つ、尾がヘビの頭……伝説に聞くキマイラと同等の姿である。
「なっ!!」
「召喚忍法を無詠唱で!?」
「キマイラちゃん、やっちゃっていいよ。他の奴らも一斉に攻撃して構わねえ。」
「させません!」
レイがス叫ぶと手に持っている特製の油を草原に投げつけた。
そして先ほどまで大量に放った《ファイア・ボール》の日の残骸に引火し、爆発した。
ドゴオオオオオン!!
「ギャアアアーーーー!!」
防壁を乗り越えようとしていた魔人たちが一斉に炎に包まれ、一瞬のうちに火だるまとなった。
「よくやったでござる。 ……其は水、汝は敵を打つ球なり……」
ルナは《アクア・スプラッシュ》を使用して自らの周りの火を消し去る。それと同時に《アクア・ドール》を解除した。
「……くくく……ははは!!」
爆炎の中から声が聞こえる。その声は聞き覚えのある声……グリードのものだ。二人はこの程度で先ほどの大型魔獣とグリードを倒せたとは思っていないのでそれには驚かなかった。しかし、彼は予想外のことをしていた。
「うめえな、この焔……美味しい食べ物をどうもごくろうさん。」
「「なっ!!」」
彼はその爆炎をまるで飲み物のように吸い尽くしていったのだ。
「なんだその顔は? まさか倒したとでも思ったか? いや俺がなんで火なんて食ってるのか不思議でならないって顔をしているな。人間には火を食べれる奴はいねえようだし。」
第三始祖グリード。またの名を《爆炎のグリード》。
彼は火属性と土属性を融合させることで発動する四大魔法、炎属性の魔法を使用することができる。本来の魔人の能力に加え炎属性の能力を身に着けた彼は、火を吸い尽くしそれを魔力に変換することができるのだ。炎とはすなわちマグマ。彼にとって火との対立はまるで赤子と遊ぶことに等しい。
そして彼に従順な魔獣キマイラ……この魔獣はあらゆる火の耐性を持っており、彼の唯一のお気に入りの魔獣なのである。そして……
「さて、さっきの火の玉と違ってこんなごちそうを頂いたからには全力を出さねえと失礼ってもんだよな。キマイラ、俺の焔を食え。」
「グオオオオオ!」
キマイラもまた、火を喰らい、おのれの力とする魔獣である。キマイラの声が響き渡り、くノ一らは構える。本当の戦いが始まる……その矢先にはるか上空から一人の少女があらわれた。
バサッバサッ
「ふう……二人とも結構手こずっているみたいね。でももう安心よ!」
その場の視線の先にはミリーがいた。