第百六話 逃げるが勝ち! 守るが勝ち! 攻撃は最大の防御! どれが真実だろうか?
フリード……彼は一言でいえば謎である。
数年前からいつの間にか魔国の最高指揮官まで上り詰め、魔王であるルトの側近として使えるようになったほどの男である。しかし、彼の素性を知る者はいない。
彼がいつから魔国にいるのか……魔人大陸のどこの出身なのか……魔人族の中での何族か……どのような姿なのか……黒い鎧を着せた彼の本当の姿を確認することができたのは誰もいない。しかしそんな彼が魔国の最高司令官の位に着き、魔王の側近として働いているのは……ただ彼が強いからである。
強さ……その一点において魔人大陸に彼に匹敵する者がどれだけいるだろうか……かの他の四天王でさえ、彼の得体のしれない強さを常に恐れているのだ。
しかし、フリードを最強とたたえる者たちに彼はこう言った。
……下らない。強さなど戦場でも力でも知識でも推し量れるものではないというのに……と。
フリードが爆炎から姿を現す……そうであれば令二は自分で思っているほどあまり驚いてはいなかったであろう。なぜなら令二自身、フリードの力に無意識的に気付いていたからだ。
どれだけ強いのかがわからない……そのような考えが令二の頭をよぎったのである。
しかし、何もない……誰もいない……
爆炎が晴れたそこには人影も鎧も魔剣も……何も見当たらなかったのだ。
「……あいつは何だったんだ……」
令二はしばらくそこで立ちすくむ。しかし今はそんな場合ではないことをすぐに悟り、防壁の近くにいるチユとテートを呼び寄せる。
「おーい、二人ともー! こっち来てもいいぞー!」
「「はーい!!」」
二人がこちらに向かって走ってくる。しかしそれを何もしないで待つのも面倒くさいのでアイテムボックスからドラカーを取り出し、それに乗り込んだ。
「さあ、早くこれに乗るんだ。こっちの方面以外にも爆発音がいくつか聞こえる。」
「あのあの、さっきの戦い見ていました。レイジ様、カッコよかったです!」
「ご主人様にかかればー、どんな奴もちょちょいのちょいなんだよー。」
チユは自分のことのように自慢している。ここ最近、この態度がずっと続いているような気がするが、悪い気がしないので令二は特に気にしない。
「ほら行くぞ。」
「「はーい。」」
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令二たちがその場から離れ、そのほかの防壁へ向かった後……先ほど爆発が起きたクレーターの地面から不自然な岩が盛り上がり、その岩が砕け散る。
「……レイジ・アマノ……か、おもしろい。次に会う時が楽しみだ。」
「ほう、我が主にそこまで言わせるとはな……奴はそれほどの者には見えなかったが……」
「ノーズよ……奴は我が魔導書使いであることを見抜いた。戦闘での情報収集、魔法の発動速度、身体能力……現在、我らの中では四番目といったところの実力を持っていると見てもいいだろう。」
「……我が主よ。それは魔王軍での話か? それとも……」
「言わせるな。さて、計画の次の段階を進めるぞ。例の場所を探れ。」
「……承知した。今、目的地を割り出す。しばし待たれよ。」
二人の会話が続く。
そしてそれはこの戦いの裏で何かが動き出す予兆であった。
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北の防壁……その戦いの中心には紫色の結晶らしき物体がまるで大樹のようにリーデルとデュークを取り込んでいた。その光景に戦闘中の敵、味方さえもが驚いている。
「な、なんだあれは……」
「リ、リーデル隊長が閉じ込められるなんて……」
兵士たちは動揺している。しかし、その悪い雰囲気も次の一斉で掻き消える。
「落ち着け皆の者! 前衛部隊は一度後退して敵を左翼におびき寄せろ! 後衛部隊は前衛部隊が後退するまで時間を稼ぐのだ! 弓騎兵、一斉に敵に放て!」
動揺していた兵士たちをまとめ上げたのは聖騎士バラガン……以前にも魔王軍と戦った経験から予測されていない出来事に対しても彼は瞬時に判断し、兵士に指示を出したので、兵士たちは迷うことなくその行動に従った。
「ソニーよ! 貴様の結界で防壁の防御を厚くしろ! 何人たりともこの都市に入れるでないぞ!」
「……わかった……《アブソリュート・テリトリー》……」
女騎士のソニーはバラガンの指示で防壁に結界を張る。
これはソニーの特殊魔法……《聖盾魔法》……この魔法は大小問わず、あらゆる魔法の盾を出現させる魔法である。その防御力は付加魔法の効果を遥かに凌ぐ。
「……完了……」
「……よし。後衛、放て!!」
北の防壁での戦いはまだ続く。