第十一話 呪いをかけて感謝されるってどうなんだろう?
クラーケンを討伐した『コノセ』の戦闘部隊とともに令二は里に帰っているのだが……
(うーん……子どもの態度が急に変わるときの親の心境ってこういうものなのだろうか?)
令二がルナの様子を確認するとため息をついた。
「レイジ殿、寒くないでござるか?
こちらの羽織などいかがでしょう……なんだったら里に着くまでおぶりましょうか?」
(これはあれか?里の恩人には気配りをする忍びのならわしなのか?)
令二は今までよりも人懐こく接してくるルナに戸惑いながらも、
下手に刺激を与えないほうがいいと思い、羽織をはおって水中に入って濡れた体を
温めていた。
そんな二人を見て、ケビムは顔を真っ赤にして令二をにらみ、
それを他の忍びたちがなだめていたり、ニヤニヤ笑っていた。
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令二は里に到着し、何事もなかったかのようにケビムたちも集落のほうへ向かっていた。
「本当によろしいのですか、ケブラ里長代理。」
ある忍者がケブラに質問した。
「・・・んん?いいんじゃないのか?あんな魔物がまだいるかもしれないって、
むやみに怖がらせるかもしれないからな……」
「はっ!そこまでの里へのご配慮、さすがでございます!里長代理!」
「いや、本当にすごいのは……悔しいがあの小僧だ……」
ケブラは令二に視線を向けて彼に聞こえるように言った。
「……いや、今回は最初の作戦しか成功しなかった。
二体目がいることを予想できなかったし、最後は不意打ちで目を刺しただけだ。
いいとこどりをしただけだ……」
「そんなことないでござる!夜の進行とはいえ、同じ種類の魔物が二体いたことに
気付かなかった拙者ら『コノセ』の失態でござる!」
「おい、俺のセリフをとるな。それに小僧から離れろ、話しにくい。」
「べーだ。父上のほうが私たちの話を邪魔してるんだもーん。」
(おいおいルナさん。またキャラ変わってる……)
「ええい、離れんか!小僧、貴様もだ!」
(俺の立場が悪くなってる気がする……あれ?デジャヴが……)
そんなこんなで集落に到着した令二はケブラの家で一夜を過ごす予定になったのだが……
「そうだ、ルナ。里の負傷者のところに案内してくれないか?」
「あ!また治してくださるでござるか?かたじけないでござる!」
「いいって、一度俺もかかったからあの苦しみは痛いほどわかるんだ……」
(まあ、この魔法を手にいれたの戦闘に使えると思ったのもあるけど……
この里の人たちの呪いを治すためでもあったしな……)
などと考えている令二だが、心を開いてもぶっきらぼうな性格の令二は恥ずかしくてそんなことは声に出せなかった。
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「お帰りなさい、姉上!」
帰ってきた途端にレイがルナに飛び込んできた。
「・・・うう、姉上心配しておりました。負傷しているものを看病している間ずっと姉上がくるのではないかと・・・」
(今きずいた……ルナのあの変なキャラはレイのキャラに似ている……
やっぱり家族なんだな……あれ?デジャヴが……)
「レイ、負傷者の皆のところに案内するのでござる。レイジ殿が治してくれるのでござる。」
「えっ!本当ですか!」
「ん……ああ。案内を頼む」
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「藍色……」
令二は負傷者を全員視界に入れ、《グラン・スペルバインド》を発動させた。
すると、負傷者たちは藍色の光に包まれ顔色がよくなっていった。
「……すごいです。」
レイが目を見開いて驚いたようにレイジを見ていた。
他の看病をしていた人たちも同様にその光景に驚嘆していた。
「……よし、これでだいぶ良くなるはずだ。
しばらく寝かせておいてくれれば目を覚ますだろう。」
治すまでの時間が遅いせいで、里の負傷者は多大な苦痛を強いられていた。
そのため、感知するのにまる二日ほどはかかるのだ。
「本当にありがとうございます。私たちも苦しんでる里の皆を見ているのがとてもつらかったのです。里の外からの御人と聞いていましたがよほどの高位の回復魔術師とうかがいます。あの治療費は?」
「……金は要らない。なにか飯でもおごってくれ。」
「あの、レイジ殿、レイジ殿……」
ルナが後ろからツンツンとつついてくる。
「なんだ?」
「夕餉は拙者の家で食べるでござる。こちらも見返りがまだでござる。」
「あ、そうか。悪い、やっぱりお礼はいらない。飯はまた今度いただくよ。」
そういって医者? の人に挨拶をしてレイと一緒にルナの家にあがった。
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「うん、うまいな、これ。」
「それは私が作ったんですよ。」
令二が見返りの夕飯を食べて感想を言うと、レイが自慢げそうに言った。
「レイはいつもごはんを作ってくれているのでござるよ。」
「ああ、わが娘ながらしっかりをしておる。どっかのルナとは大違いだ・・・」
「どっかのルナって拙者以外いないでござる!
名前を使わないのがやさしさではないでござるか!」
「まあ……姉上はしっかりしていないほうが……」
「確かに、どちらかと言うとルナはあれだからな……」
「……レイジ殿まで……ウワーン!みんながいじめるよー!」
「はいはい姉上。いい子ですね~。」
レイは泣きついたルナの頭を撫でる。
(レイ……自分でまいた種を見事に鎮静化させた……おそるべし。)
「…………それで、小僧は本当に見返りはこんな飯でいいのか?」
「まあ、宴をやりたいところだが、
負傷した人たちはまだ完治してないからできないだろう?」
「む? だが二日ほどたてば回復するのだろう?その時でも・・・」
「いや、やっぱいいよ。別にすぐ出ていくわけじゃないけど
一週間しないうちにここからは出ていくつもりだし。」
「ええ!出て行ってしまうでござるか!」
「おっ、もう泣き止んだのか。……まあ、一応ここでの目的は達成したし……」
(レベルアップしたし新しい魔法も憶えられたしな……)
「そんな、この里でずっと……」
「おい、ルナ。小僧の気持ちになれ。わざわざ里の危機を救う手伝いをしてもらって、そのうえ引き留めたとなっちゃ……」
「わかってるでござる!でも……」
「……えっと……」
(なんか空気が重くなってきたな……
まあ、別に急いでるわけでもないし1か月くらい居ても分けねえんだが、
そんなに居候してると里から出にくくなるんだよな……)
「あの、姉上。それならばレイジさんと一緒に旅に出かければよろしいのでは?」
「………………」
「………………」
「ハッ!それがあったでござる!」
「ならん!」
そしてしばらくルナが仲間になるかどうかの親子げんかが始まった。
(……俺の意志は……)
その様子をみてうす気味悪くレイが笑っていたのに
気付いたのは令二だけだった。