第百三話 上には上がいるということは、逆に言えば下には下がいるということだよな。
それぞれ四天王が各防壁を攻撃している最中、令二は南の防壁へたどり着いていた。
(……誰もいない……ここに敵が来ているのは本当なのか?)
(……はい、マスター。ここにも敵が来ているはずです。先ほど確実に敵の魔力を感知いたしました。)
令二は南防壁に誰もいないことを不思議に思う……それとともに何か不安がこみあげてくる。
「……来たか……」
令二の後ろから声がした。令二が驚いて後ろを振り返り、防壁の外側を見る。令二はその声をはっきりと耳元で聞いた。先ほどまでは確かにいなかったはずだ。
声の主は全身を黒い鎧で纏っている。その鎧のせいで声がひどく低い。
「テート、チユ……下がっていろ……赤色……赤色……」
令二は二人に《メガ・プロテクション》をかけ、何があっても危険でないようにした。
「……わかりました。」
「頑張ってーご主人様ー。」
令二は二人を見るとその頭の上に手を置いて防壁の外へと出る。
「……こういう時は何者かと聞けばいいのか?」
「……聞く必要はない。」
黒騎士は右手を令二の方へとかざした。すると、次の瞬間、詠唱をしていないのにもかかわらず、手の平から魔力の塊のようなものが令二へと向かう。
「うわっ!!」
令二はその塊を辛うじて剣で防ぐ……だが、防いだのにもかかわらず彼の体は数メートル飛ばされた。
「……はあ、はあ……赤色……何だ……今の攻撃は……」
「ほう……この攻撃を受け切るとは……レベルは100前後と言ったところか……」
黒騎士はそう言いながらその思い体で令二の方へと接近してくる。
令二はそれを見るとすぐに《メガ・プロテクション》を発動して、後ろに飛んだ。
(……レベル……って言ったよな……あいつ……)
令二はそう考えながら黒騎士を見た。黒騎士が何者なのか……それは実際に戦ってみるしかわからない。攻撃を仕掛けた令二だが、あの攻撃がどのようなものかがわからないため、令二はうかつに接近できないのだ。
「……藍色……」
令二は《グラン・スペルバインド》を発動して目を見開く。だが、黒騎士はその魔力を察知しているのかすぐに上へ飛び、その魔法を回避した。
「……あの鎧でよくもまあ、身軽なもんだ。……紫色……」
令二はすかさず新しい魔法を使う。
紫色の魔法……それは獣人大陸での《グール・ミノタウロス》の魔法を収納したものである。
その名前を《ミラー・イリュージョン》……自分、または自分の装備しているアイテムや所持しているアイテムを増えたように見せる幻影魔法である。
黒騎士が令二に向かって剣を振り下ろす……しかしそれは直撃せず、剣は空を切る。その場所に令二がいると錯覚させたのだ。
「……幻影魔法か……小賢しい……フン!!」
黒騎士が再び剣を振り下ろす……すると、どういうわけか令二が発動したはずの幻影が消えた。
「なっ!!」
令二も余りの出来事に驚く……幻影は令二自身がつくりだした物……令二の医師以外でそれを消すことは不可能なはずなのだ。
「この程度か……遅いな……」
「っ!!」
キイイイイン!!
令二が驚く一瞬の間……黒騎士はどうやら令二の懐まで近づいてきていたようだ……令二はその攻撃を念のために発動していた赤色の魔法、《メガ・プロテクション》で防いだ……
「ほう……魔法で防御していたか……まあいい……次は貫く。」
「……はあ、はあ……とんでもないな。」
「そう言えばまだ自己紹介をしていなかったか……俺の名はフリード。魔王軍の四天王と呼ばれる地位に属している。」
「……四天王ね……テンプレだな……」
「貴様の名は……なんだ……」
「……俺の名前?」
「……そうだ。」
「……俺の名前はレイジ・アマノ……しがない冒険者だよ。」
令二はフリードを見て、そう口にした。