第九十八話 四天王……って本当に四人いるの?
リーデル・エリュムビーデ……実は彼女はずっと前から魔人たちの襲撃を予想していた。以前、クエストを受け、魔人討伐をしたとき、魔人たちの言っていたこと……
「ニンゲンノオウヲ……コロセ……」
人間よりもはるかにその言葉は聞きづらかったが、彼女は戦闘の最中でも魔人のその一言を聞き逃さなかった。彼女が令二とともに行動するのを決めたのも《聖杯祭》が行われるこの時期、この場所、《ブリュッセ》に魔人が攻撃してくるのを予期したからである。
国王は《聖杯祭》でのみ、その姿を現す……貴族のほとんどが集まり、開かれるこの機会は魔人、つまり的にとって絶好の機会だからだ……しかし、それはあくまで仮説……実際にここまで襲撃の準備が早く、ここまでの軍勢を引き入れてくるとは彼女でも予想していなかった。
「……国王様……リーデル・エリュムビーデ……ただいま参上しました。」
彼女は現在、王の謁見の間にいる。国王であるジークに招集をかけられ、招かれたのだ。理由は言うまでもなく、魔人の撃退だ。
「……顔を上げろ、リーデル……早速だがすぐに軍に入り、魔人を撃退してほしい……聖騎士たちも招集しているが、時間がない。ここにいる聖騎士はバラガンとソニーだけだ……彼らも連れて前線の指揮をとってくれ。」
ジークがそういうと、謁見の間の壁に沿って並ぶ二人が頭を下げる。
一人目は聖騎士バラガン……聖騎士の中で腕力で右に出る者はいない大男だ。その左目の古傷は昔、魔人との戦いによるものらしい。
二人目はソニー。聖騎士唯一の女騎士……背は小さく、細い体つきだが、特殊魔法を使用することができる騎士である。その魔法によって、幾多の魔人を葬ったという……
「……了解しました。王よ、一つだけ聞いていただきたい願いがあります。」
「……そなたが願い……なんだ?」
「私の知っているギルドの人物を一人、その軍に入れていただきたいのですが……」
「そなたが言うほどだ。腕は確かなのだろう……わかった。その者の名前を申してみよ。」
「……その者の名は……」
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《ブリュッセル》のはるか東……魔人らを引き入れた人物……それは以前、領主であったオロブとの取引を行っていた人物であった……フードの下には髪がなく、眼鏡をかけている。彼の手によって魔人たちの三度目の召喚が行われた。
「……三度目の召喚は成功した……フリードさん……これでいいんだな?」
「……ああ……よくやった、カジャ……獣人の方は?」
「……滞りなく……」
カジャと呼ばれる人物がフリードに頭を下げる。
「フン、我ら四天王が直々に出向かずとも、今頃、精鋭部隊の魔人どもに人間たちは手も足も出ないだろうに。」
ゼノは召喚の魔法陣から出て、そう吐き捨てる。
「ルト様の命令だ……我々の手で完全に人間王を仕留め、この国、この大陸を掌握するのだ。」
「あーもう、わかってるよー。俺は待つの面倒くさいから早くいくぜー」
グリードはそう言うと、自身の悪魔の羽を広げ、そのまま《ブリュッセ》に向かって、飛んで行ってしまった。
「……あ、あの……ボクたちもすぐに行こう……」
「……かしこまりました、ルト様。 では予定通り、ばらけて複数の箇所から攻撃しましょう。」
グリードが飛び立つと、ルトが魔法陣の中心から姿を現す。
六人はそのまま大量の魔人を連れ、《ブリュッセ》に向かうのであった。
王国中心都市《ブリュッセ》での戦いが始まろうとしていた……