第一話 なぜか魔導書もって異世界に来ちゃった
第一話です!
できれば六、七話までは見ていただきたいです!
2016/3/30 修正
突然だが天野令二は、ぼっちである。
昔から勉強もできて、スポーツも万能であった令二は友人、近所の人にさえかなり人気があった。
しかしある日を境に、それまで一番と言ってもよいほど興味を持っていた分野が科学的分野だったにもかかわらず、どういう訳か、令二は魔術に興味を持ち始めたのだ。
彼は周りの目など気にも留めずに魔術の研究に没頭したが、それまで彼を慕っていた友達はすぐに愛想をつかした。
本人はその気は全くないのだが、周りからはすでに中二病扱いされ、高校二年生のはじまりには、すでにクラスの中でぼっちであった。
ピンポーン
「おっ、来た来た。」
宅急便で送られてきたのはネットオークションで競り落とした魔導書らしい。
令二は過去に何度も偽物をつかまされていたが、今度もバイトで貯金した金を全てこの本を買うためにつぎ込んだのだ。
「ふむふむ、表紙は……問題ない。どうやら眉唾物ではないみたいだな。」
令二は魔導書に書いてある内容が気になり、表紙を開いた。
それが自分の人生を変えてしまうことだとも知らずに……
そこには……
――――――――――――
『どこに行きたい?』
――――――――――――
ヒューーー
「ん?」
心地よい風が吹く。
しかし、令二は部屋にいたはずだ。
扇風機やクーラーをつけていなければ、心地よい風が吹くわけがない。
(窓、閉めてなかったけな……)
ガサッ
寝返りを打つと、何やら固いものが体にこすれる音がした。
(俺のベッド、いつからこんなに寝心地悪かったか? 緑のにおい……気持ちいい風……)
明らかに様子がおかしいので令二は体を起こして周囲を確認する。
「ここは……きれいな景色、生い茂る緑、あれは城?……」
視界に広がるのは、まさにゲームなどでよく見かけるファンタジーの世界であった。
「変なドラゴンっぽい鳥もいるし、スライムっぽいゼリーが動いてる。」
子供のころ、ゲームをしている時に何度も想像した建物や自然、生き物がいる。
これは令二にとって、どう考えても……
「これ……異世界じゃね?」
突如原因もわからずに異世界らしき場所に来たというのにもかかわらず、令二は自分でも驚くほどとても冷静だった。
「まあ、来てしまったのはしょうがないしな。あんまし考えないことにするか。持ち物は……さっきの本ぐらいか。」
魔術なんてものを元の現実世界で信じていた令二にとって、これはあまり驚くべきことではないようだ。
令二自身はそのことに気付いていないようだが、実際驚いている様子もない。
広い草原の上で何やら独り言を言いつつ、通販で買った本を見る。
「というか、どう考えてもこの本が原因なんだよな。」
令二は本を開き、その表紙を見た。
――――――――――――
レイジ・アマノ
Lv 1
HP 25/25
MP 100/100
EXP 0
NEXT 10
ATK 14
DEF 6
AGL 20
DEX 10
INT 10
《魔法属性》 無
《魔法》 なし
《スキル》 なし
《所持金》 1000G
《装備品》
・《武器》 なし
・《上防具》 ?の服
・《下防具》 ?のズボン
・《装飾品》 なし
――――――――――――
本の表紙には、まるでRPGのゲーム画面によく出てくるステータス画面が描かれていた。
「おお……ステータスっぽいなこれ。よかった。」
令二はさっそく自分のステータスを確認する。
どうやら、HPは体力。MPは魔力。EXPは取得している経験値で、NEXTは次のレベルアップまでに必要な経験値。ATKは攻撃力。DEFは防御力。AGLは素早さのようだ。DEXは耐性で、INTは賢さを示しているに違いない。
「これがないと異世界で生きて行ける自信がないからな。たいていこういう時はチートな特殊能力がついていたりするんだけど……どうやら、ないみたいだな。」
自分はチートではないのだろうか……と少し考えるが、今はあまりそんな事を気にしない。
「《?の服》に《?のズボン》って……異世界だから服を認識できなくて当たり前なのかな?」
いろいろツッコミたいが今、一番重要なのは……お金だ。
「というかちゃんとお金もあるし……そう言えばポケットに千円札を入れていた気がしないでもないな……もしかしてそれが原因か?」
などと令二がいろいろ独り言をしていると何やら生き物の可愛い鳴き声が聞こえた。
「ぴぎゃーーー!」
スライムっぽいのが体当たりしてきた。
「おっと! あぶねえな。」
スライムの攻撃をかわすと令二は一目散に走って逃げた。
スライムはそれを素早く追いかけてくる。
「スライムってあんなに速いのか?ハァ、ハァ。逃げ足だけじゃないんだな……ハァ、ハァ。」
などと令二は感心しながら走っていると、
「やべえ、いくらスライムとはいえこちらは初心者。つかまったら最後だ。武器もねえし、このままだと追い付かれる。どうしたらいい……」
「武器……なし。使用可能な魔法……スキル……なし。戦闘勝利確率……0.01%……」
令二が逃げながらひたすら試行錯誤していると、近くから機械のように話す声が聞こえた。
何かは知らないが、ゲームで言うと、システム音のような音が鳴り響く感覚だ。
「なんだ!どこから……」
走りながらも令二は驚いて懐を見る。
すると本が光っているのを確認できた。
「ネームを記入……してください。」
「本がしゃべってる!」
本が喋るとは流石ファンタジー……と感心している暇はないので令二はすぐに頭を切り替え、冷静になる。
「ネームを記入……してください。」
「……えーと、名前のことか?」
「……はい。ネームを記入してください。」
「なんでもいいよ……えっと《アーク》だ!《アーク》!」
「《アーク》……でよろしいですか?」
「イエスだ!はやく!スライムが追い付く!」
「登録……完了しました。マスター、ご要望に応えます。要件をどうぞ。」
今突然、命の危機かもしれない状況なのにもかかわらず、本改めアークは感情のないシステム音だ。
「スライムから逃げたい!対策を頼む!」
「スライムからの逃走……検索……でました。スライムは……水の中では自由に動けません。よって、前方約50メートルにある湖に入り、様子をみるのが得策かと存じ上げます。湖には魔物の反応は……ありません。」
「わかった!」
令二はアークに言われるがままに、前方にある湖に飛び込もうと、必死に走る。
「ピギャアアア!」
「スライムこわい!」
しかし後ろからスライムが物凄い速度で追い上げてきた。
その顔? はまるで鬼の形相だった。
「あと少し……ハアハア……」
「ギイイイ!」
「捕まるか!!」
ボシャーーーーン!
「ふうっ、助かった。」
令二はギリギリでスライムから逃げ、湖に飛び込むことに成功した。
一分間ほどたってスライムも諦めたらしく、令二は湖からでてきてそう言った。
「あれ?お前は濡れていないんだな?」
ただの本である《アーク》は令二と共に湖に入ったにもかかわらず湿っていないので、令二は不思議に思った。
「ワタクシ、アークは付加魔法《メガ・プロテクション》がかけられているため、火、水などの一切の破損、汚れを受け付けません。」
「付加魔法!!なんだそのいい響き!」
「付加魔法は、物体の働き、効果に作用する魔法です。」
「それ、俺にも使えるか?」
令二は目をキラキラ輝かせて言う。
「マスターは無属性……可能です。表紙に書かれている魔法陣と同じ魔法陣を書き、呪文を唱えるのです。」
「これか?……おし!」
元の世界で令二は魔法陣を書く練習をしていた。
魔術と言えば、ほとんどが魔法陣が必要なようだと、多くの書籍が示している。
魔術が存在するか否かは定かではないが、令二はそれでも魔術の研究に没頭した。
その研究のおかげなのかはわからないが、魔法陣には規則性を予測し、それを見ることである程度それが偽物かどうか判別できるようになったのだ。
「書き終わったぞ!呪文はどうすればいい?」
「マスターが可能な初級魔法……検索……でました。初級魔法《プロテクション》を実行します……其は鋼、汝を守る盾なり……」
「……其は鋼、汝を守る盾なり……」
呪文を唱えると、令二の体を白い光が包み込んでいた。
「おお! できた!」
魔法……異世界とはいえこれほどまでに簡単にできるものなのかと令二は驚いていた。
だが、今はそれ以上に自分が魔法を使えていることに感動するのであった。
「《プロテクション》……の文字入力完了しました。次回からは魔法陣なしで発動可能になります……」
「おっしゃー!ステータス見よっと!」
――――――――――――
レイジ・アマノ
Lv 1
HP 25/25
MP 95/100
EXP 0
NEXT 10
ATK 14
DEF 6
AGL 20
DEX 10
INT 10
《魔法属性》 無
《魔法》 プロテクション Lv1
《スキル》 なし
《所持金》 1000G
《装備品》
・《武器》 なし
・《上防具》 ?の服
・《下防具》 ?のズボン
・《装飾品》 なし
――――――――――――
ステータス画面を見ると、魔法欄の右側に、「プロテクション」と新しく文字が記載されていた。
どうやらこの本の文字は機械の画面ように自動的に変化するらしい。
「《プロテクション》は発動後、五分で効力を失います。」
「ふむふむ、なるほど……」
令二は感心してると……
ぎゅううう……
お腹の音が鳴る。
どうやら自分でも気づかないうちにかなりお腹を空かせていたらしい。
「……腹減ったな。街でも探しに行くか。街の場所ってわかるか、アーク。」
「前方に《ヴィケール》と呼ばれる街がございます。」
「あ、ほんとだ。目の前にある。」
こうして腹の減った令二は、ごはんを食べに街に向かうのだった。
「一応到着したのはいいんだが、金があんまりないな。ギルド会員になれば稼げるのが定番なんだが……この街にギルドはあるのか?」
「……はい、マップを表示します。」
「あと、他の人の前では声が聞こえないようにしてくれ。ただでさえ、この服装で目立つんだ。」
街にすんなり入った令二は街を見物しながらマップを頼りにギルド会館に入る。
「いらっしゃいませ。依頼の申請ですか?」
ギルドに入ると、早速カウンターの受付嬢に話しかける。
「いや、ギルド会員に登録したい。」
「かしこまりました。こちらに必要事項を記入してください。」
受付嬢は慣れた手つきで用紙を渡してくれる。
令二はその容姿に素早く名前、年齢を書き、手渡す。
「それでは、冒険者となるための重要事項についてご説明いたします。」
そう言うと、受付嬢は話し始めた。
ギルドでは様々な依頼が持ち込まれてくる。
その依頼をこなし、報酬を得るのが冒険者である。
依頼には難易度を表すランクとして下から、F・E・D・C・B・A・Sとある。
パーティ内で最もランクの低い冒険者のランク以下の依頼しか受けることはできない。
クエストにはクリアしたごとにもらえるポイントがある。これをためるとギルドランクが上昇し、それぞれ以下の通りになっている……
Eランクに上がるには20ポイント、
Dランクに上がるには50ポイント、
Cランクに上がるには100ポイント、
Bランクに上がるには200ポイント、
Aランクに上がるには1000ポイント、
Sランクに上がるには一万ポイントである。
登録者にはギルドカードが発行されるのだが、それは国民が持つ住民カードと同じ役割を持つ、身分証明であるのだ。
「はい、受け取りました。ギルドカード発行には1000Gをお支払いになってもらいます。よろしいですか?」
「ああ。」
受付嬢との、お金を渡すこのやり取りはアークに説明を受けて知っていたので1000Gをためらわずに支払った。
「はい、ではこちらがギルドカードとなります。ギルドカードは紛失した際、再発行をすることはできないのでお気を付けください。」
「ああ、わかった。むこうのクエストボードで張り紙をもらって、クリアしたら納品すればいいんだよな。」
「はい。では、説明は以上です。さっそくクエストを受注しますか?」
「ああ、……この《ゴブリン討伐》を頼む。」
令二はすぐさまクエストの用紙が張ってあるボードからクエストを持ってくる。
「はい……受注しました。お気をつけて行ってらっしゃい。」
「ああ、行ってくる。」
令二はぶっきらぼうにそんな返事をすると、そのままギルドから出て行った。
令二は子どものころから人見知りな性格である。
令二は気を許した者には優しいが、知り合いでない者に対してはぶっきらぼうだったり、無関心、無表情だったりする。
付け加えると、令二は極端にコミュニケーション能力が低く、どこか他人と考えていることがずれているところもある。
本人はあまり意識していないが、そういう性格などが原因でぼっちになっている節があるのだ。
だから先ほどの受付嬢との会話があまり弾まなかったのも仕方がなかったのかもしれない。
そんな令二が異世界に来ているわけだが、元の世界の人が行方不明になったであろう自分のことをどう思っているかは知らない。
家族を含めて……
「まあ……とりあえず金がなければ宿にも止まれないし、飯にもありつけないからな。はやくクエストをクリアしよ。」
そして令二はそんなことを考えもせず、『ゴブリン討伐』のクエストの達成のために草原へ向かった。
――――――――――――
レイジ・アマノ
Lv 1
HP 25/25
MP 95/100
EXP 0
NEXT 10
ATK 14
DEF 6
AGL 20
DEX 10
INT 10
《魔法属性》 無
《魔法》 プロテクション Lv1
《スキル》 なし
《所持金》 0G
《装備品》
・《武器》 なし
・《上防具》 ?の服
・《下防具》 ?のズボン
・《装飾品》 なし
《ギルドランク》 F
――――――――――――
次回は戦闘シーンあります!