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彼女  作者: 長門 郁
第一章
2/17

episode1



 部屋には冬の凍てついた蒼白い空気が充満している。昨晩は大雪が降った。それにもかかわらず、この部屋は夜から暖房を焚いていない。

質素な部屋だった。広さにして6畳の和室だ。仕切りの先にはキッチン、そして玄関。白い壁に囲まれた部屋の中には、箪笥と棚と炬燵、そして1組の布団しかない。

 決して新しいとは言い難い、所謂ボロアパートだ。

棚に並べられた教科書は、科目ごとに分けられ大きさも考えられて並んでいる。棚の横には学生鞄が、そこが定位置であるのような顔をして置いてあった。炬燵の上には時計とペン立てしか置いていない。

 整理整頓されたその部屋から、よほど几帳面な性格の住処であると窺える。

しかし、卓上や棚から見て畳の上は正反対だった。

 女子のものである学生服は脱ぎ捨てられ、スカートに皺がよっている。それだけではなく、男もののジャージも散らばっていた。

 そして何よりの違和感は、1組の布団に2人の人間が寝ていることだった。

「……さみ」

 半裸の男は開口一番に寒さを訴えた。戸はカーテンで遮られていると言っても、冷気は容赦無く男の上半身を包み込んだ。

 男は隣で寝ている女を見る。その白い肩が布団からはみ出ていた。これでは冷えてしまうと、慌てて布団を持ち上げて肩を隠す。

 女は背を向けたままで、男からは後頭部しか見えない。黒く長い髪を、男は撫でた。

「御影、おはよう」

 そして艶やかなそれにキスをする。

 男は布団から出るとパンツ一丁で昨夜脱ぎ捨てた自分の服を回収していく。

 全ての服を着込んだが、まだ寒い。12月の雪の日の朝は生半可な寒さではない。

 再び布団の温もりを求めて、それに入ろうとすると、

「おはようございます、穂高先輩」

 御影と呼ばれた女が、男の名前を口にした。その声は低いトーンで淡白だ。

「起きてたのか」

 穂高はしゃがみ込み、御影の顔色を窺う。

「なんか蒼白いけど、大丈夫か」

 御影の常時白い肌は更に青白く、頬に赤みさえなくなっている。穂高は彼女の頬に指を置いた。冷んやりと心地良い感触が、彼の指を通り過ぎる。

「平気です。朝から触り過ぎです」

 その手を払うように、御影は体を起こした。一糸纏わぬ姿の彼女を隠す布団は役目を終え、彼女の首、肩、鎖骨、胸が露わになる。



 穂高は息を呑む。同時に彼女を、花のようだと思った。



 白いシーツに白い肌、そして黒々とした髪の毛が美しいコントラストを描いている。この古ぼけたアパート、布団とはミスマッチしており、より一層穂高を興奮させた。決して豊満とは言えない胸やくびれに釘付けになる。彼の心臓が、愛おしい彼女を前に大袈裟に脈打った。


 裸体を見られたというのに、御影は気にも留めていないようだ。

「人の髪に勝手にキスしないでください。こっちが恥ずかしいです」

 御影の発言は機嫌を害しているようだが、表情は全く変わらず無愛想だ。

 反対に穂高は赤面している。昨晩彼女と行為に至ったとはいえ、ここまではっきりと裸体を見せつけられては目のやり場に困ってしまう。穂高は慌てて御影に背を向けた。

「お前な、もう少し恥じらいっていうのをだな……」

 呆れを含んだその言い方に、御影は声音だけで不機嫌を表現する。

「この助平」

 交際を始めて約2ヶ月。これまで幾度となく言われたその言葉を、穂高は黙って咀嚼した。




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