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彼女  作者: 長門 郁
プロローグ
1/17

ゆきの

拝啓××様へ




 お元気ですか?私は相も変わらず元気です。この前は久しぶりに会いに来てくれて、嬉しかったです。あなたはもう10歳なんですね。早いものです。私の中のあなたは、まだ1歳ですから少しびっくりしました。

 もうあなたに会えないと思うと、とても辛いです。ついにあなたに触ることさえ叶わなかった。できることなら、成長したあなたを圭吾さんにも見せてあげたかった。

圭吾さんと言えば、丁度夢を見ました。あなたが会いに来てくれた前の日に。私の横に、あなたと圭吾さんが笑って座っているのです。

 とても暖かくて、優しくて、幸せな夢でした。

 そうしたら、あなたが会いに来てくれた。やっぱり、親子というものは不思議なもので繋がっているんだと、我ながらおかしな事を思いました。



 さて、真面目なお話をしましょうか。

 あなたがこれを読んでいるということは、私はもう死んでしまったということですね。世間は大騒ぎでしょう。自分と親友の夫と子供、4人を殺した女がついに死刑執行。メディアにとって、これ程美味しいネタはそうそうないでしょうね。

 これをきっかけにまた事件をほじくり返す輩が出てくると思います。あなたの生活に、なんの影響もなければいいんですが……。あなたに辿り着ける輩は、そう多くないと思います。けれども、油断はしないでくださいね。


 あなたは私に「理不尽」と言いましたね。そうです。この状況はただの理不尽です。でも、この世の中は理不尽で溢れています。あなたはもう、それを理解している筈です。だから自分を責めないで。悪いのは間違いなく、この私です。

あなたを殺した、この私が罪を受けるべきなのです。

死ぬとは、どういう事なのでしょう。首を吊るとはどういう事なのでしょう。痛いのでしょうか。苦しいのでしょうか。痛いのでしょうか。いざこんな状態になると、頭が真っ白です。

 何も見えない世界。 いや、「見えない」と感じることも出来ない世界に行くのでしょう。

 正直、恐いです。恐くて怖くて、逃げ出したい思いでいっぱいです。

あの世で圭吾さんに会えると分かっているなら、こんなに恐いとは思わないでしょうね。

 でも、圭吾さんがいるのは天国で、私がいくところはきっと地獄でしょうね。

だから会うことは出来ないでしょう。

 でも、いいです。


 死ぬ前にあなたに会えたから。




 今更ですが、言わせてください。

 あなたを殺してしまって、すいませんでした。

 すいませんでした。すいませんでした。すいませんでした。

 あなたに届くはずもない手紙を書く私は、愚か者ですね。

 でも、いいんです。

 私には時間がなくて、でもすることもなくて、あなたへの贖罪の手紙を書くくらいしかできません。



 いるはずのないあなたを想像する私は可笑しいですね。

 でも、いいんです。

 私の時間はこの牢獄で止まってしまったけれども、あなたの本来あるはずだった時間を私の中で進めることは勝手です。


 こんな母親を許して下さい。

 あなたの為に何も出来なかった私を、どうか許して下さい。


 そして、どうか、

 この世界を怨まないで

 幸せになって下さい。


 さようなら



 千乃



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