事の始まり
「おい!祥平!聞いたか?同んなじクラスのさ、ずっと公欠扱いのあの子、実は学校来てるらしいぞ!」
登校したばかりで、席にすらつけていない俺にハイテンションで絡んできたのは幼馴染の幸雄だった。新しいクラスってことで皆少しぎこちない教室で、その声は明るく響いた。
「知らなかったな」
適当な相槌を打って席に着くと、幸雄はすこし興奮した様子で仕入れたばかりの情報を披露し始めた。
「それがさ、保健室で永遠と眠ってるらしいんだ!」
「わざわざ登校してきて、眠ってるのか?」
ならそのまま家で眠っときゃいいのに。
「いい質問だな!祥平!その子は、わざわざ登校して、保健室で眠って、最終下校ぎりぎりになったら帰宅するらしい!」
全くもって意味がわからん。
「落ち着け幸雄。それは嘘を吹き込まれたとしか思えん」
「目撃証言だってあるんだぞ!」
幸雄があまりにもうるさいからか、仲良くなるキッカケを探していたのか、人が集まってきた。
「寝てて公欠扱いってズルくね?」
「俺もそんな生活してみたいなー」
「なんか事情があんのかねえ」
みんな思い思い自由に発言する。幸雄は話題提供者として嬉しそうに適当なことをほざいていた。
「さしずめ眠り姫かあ?」
誰が言ったのかもわからないその言葉が、なんとなく皆に広まり、その子は「眠り姫」という本人にとって嬉しいのかどうか微妙なアダ名をつけられた。
しかも超絶美人らしいなどと、幸雄の適当さに磨きがかかったところで、甲高い声がクラスに響き渡った。
「煩い!静かにしてくんない⁉︎」
女子の一喝というのは、誠に恐ろしいもので男子共は皆一斉に静まり返った。そこまでボリュームがでかかったとも思えないが、確かに沢山の男子が一斉に喋っていたらうるさくもなるだろう。
クラスに微妙な空気が流れたところにチャイムが鳴り、全員バラバラと席に着いた。
もともと席に着いていた俺は、真っ白なノートを見て昨日の俺に叱咤していたため、甲高い声をあげた女の思いつめたような表情を見ることができなかった。席が隣なのにも関わらず。
祥平は冷めてるんじゃなくて冷めてるキャラに憧れてるだけです。幸雄はそれを分かっていて、可愛らしいなとか思ってます。でもそれを言ったら怒られるのが目に見えているので言いません。