携帯電話
聞きたい事は山程ある。盗まれた時期、容疑者の容姿そもそも目撃したのかすら知らない。それから……。
何から尋ねようか迷っていると、僕の携帯電話が鳴った。彼女、兎は人の心を察するのが得意な方だろう。ワンコール目で僕に言う。
「遠慮なくどうぞ。仕事関係でしょ?」
その言葉にそのまま甘え、僕は通話キーを押した。
慌ただしい胡林警部の声。そう、警部の声は始めに記したように表情より表情豊かだ。
「麻田、今どこに居る?招集だ。それも急ぎだ。」
「今、例の兎さんの店で……。」
“兎さん"という響きに何だか幼稚な感覚を覚えた僕は少し照れた。その隙に胡林警部が半ば怒鳴りに近い口調で入り込む。
「そうか、好都合だ。そこからならお前が、恐らく一番近い。直ぐに現場に向かってくれ。○○区の河川敷だ。」
「一体、何が?」
「殺しだよ、“まだ"未遂だが。ホシは逃亡した、が、まだ近辺に居る可能性が高い。」
この手の展開にも内容にも職業柄、慣れている。が、何故か兎の目線を意識するとやたら緊張した。
「○○区ですね。容疑者の特徴は?被害者の状況はどうですか?」
「被害者は恐らく揉めた末に転倒もしくは故意に倒され、頭部を打ち今さっき搬送された。意識が曖昧だから落ち着いたら聴取する。」
とりあえずの最悪を免れた状況に少し安堵して、改めて僕は確かめる。
「それで、容疑者の特徴は?」
「身長170cm後半、細身で薄顔、やや長めの黒髪で、足は速い。服装は上下、黒のスウェットで凶器は今のところ所持してないと思われる。が、十分に気をつけてくれ。」
薄顔……ってなんだ?俗に言う、しょうゆ顔の事か?
「ねえ。」
唐突に兎が話しかけてきた。
「立て込んでるとこ悪いんだけど、その男……出来たら全力で捕まえて。あまりの大声に内容、聞こえた。」
不思議な点が二つ。単純に何故そんな事を切望するのか。そして何故“男"と言い切ったのか。警部は性別は述べていないはずだ。
「早く行きなさいよ!取り逃がしたいの?」
ここにも、ある意味の口うるさい上司が居る……。そんな事を一瞬思ってから、僕は応えた。
「あ、ああ。話の途中で申し訳ない。また改めて所見は聞きに来るから。」
兎は緊急事態を知りながら、相変わらず、ゆったりと紅茶を飲んでいた。
僕が、じゃあという素振りで手を挙げた時、兎はポツリと言った。
「捕まえてね、その男。」
まただ。性別を、やたら強調しているように思えたが、とにかく僕は現場へと急いだ。
相変わらず誤字脱字すみません。読んで頂いている方、ありがとうございます。ここから少し展開が変わってきます。




