店主
そこは小狭い路地を数メートル歩いた道沿いに、ひっそりとあった。
本当に“ひっそり"という表現がピッタリな出で立ちの店舗だ。しかし意外にも親近感ある場所だった。その狭い路地に入る手前には、僕が通う古着屋やパン屋が建ち並ぶ、いわゆる“通い慣れた道"だったのだ。
にも関わらず、目当ての骨董品屋を見付けるのに少々、手こずったのは先に述べたように狭い路地の奥にあったからだ。
何故か少し速まる鼓動を抑えながら、僕は店舗の入り口から中を覗いてみた。……人の気配がない。というよりも営業しているのかすら疑わしい静けさだ。
「なんか用?」
突然の背後からの問いかけに普通に驚いた僕は、少しよろめきながら数歩、後ずさりして振り返った。
視線の先には、例の“兎"だろう人物が立っていた。背の丈150cmと少し、痩せ型でドヤ顔、髪は橙色に近い茶色のボブヘア、前髪が線のように揃っている。その髪がなびく度にチラチラ見える耳にはパッと見では数え切れないピアス、頼りなく細い指には個性的な指輪をしている。
胡林警部に渡された“兎"の特徴を余す所なく当てはめたその姿に、僕は漠然とした違和感を持った。
「何ジロジロ見てんの?客?それとも“招かれざる客"?」
至って不機嫌そのものの口調と表情と態度で彼女は言う。ただ似つかわしくないのが話すペースというか、やたらゆっくりとした喋り方だ。そもそも……。
「客……ではないかな。」
また何かクレームが飛んでくる前に、取りあえず返事をする。
「招きたくない奴か。」
ボソッと、しかしキチンと聞こえるように彼女は呟いた。
「まあ、中に来れば?私は寒いから入るけど。」
さっさと店内に進む彼女の後ろから僕は小走りに同じく入店した。
店内は、如何にも骨董品屋だった。小さなロココ調のオルゴールから天井の結構な範囲を占めるシャンデリアまで様々な数え切れない品物がある。
「あんたも?二度は見逃さないけどね。」
ん?という顔を露骨にしたのだろう。僕の心情を読み取り彼女は続けた。
「『あれ』は、とんでもなく大切な物だったのに。価値も知らないで盗んで……。ノロマな警察は未だに捕まえられない。本当に日本の警察は無能なんだから。」
「すみません……。」
この一言が大きな誤解を生んだ。
「あんたが盗んだの!?返して!『あれ』だけは返して!」
先程までとは打って変わった彼女の高揚した状態に僕は驚きながらも否定は忘れなかった。
「いや、僕が謝ったのは日本の警察は無能だという事に対してです!」
立ち上がり、身を乗り出していた彼女が不思議そうな顔付きになり、古びたロッキンチェアーに腰掛ける。
「あんた……警察?だったら用はないから。」
その横顔は心無しか寂しそうで哀しそうに見えた。恋愛どうこうではなく、僕はその表情を見て、助けたい、力になりたい、咄嗟にそう思った。
「僕は……僕にはあるんです、大切な用が。貴女の奪われた、その大切な物を取り返したいと思ってます。」
何故だろう。
彼女は、僕のその言葉を聞いたとたん、不敵で高慢地味た笑みを浮かべた……気がした。
きっと誤字脱字あります。すみません。




