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花の王国  作者: とにあ
極楽鳥花の迷庭 
9/49

目覚め

 柔らかな寝心地。暗闇の中、意識がゆらり浮上する。

「大丈夫かしら? 酷い火事だったから」

 心配を多く含んだ穏やかな声。

 それは聞き覚えのある声。レアと呼ばれていた未亡人の声。

 酷い『火事』?

 なぜ彼女はアレをまるでただの火事、事故か何かのように言うのだろう?

 知りたければ、語るタイミングをはかれとヴァリーと名乗った人物は言った。


 わけがわからな過ぎて、どうしていいのかわからない。ぶつけたい。答えが、ヒントが、欲しい。

 それに、

「デイジー、は?」

 ローズの振るう鉈がデイジーを、血まみれに。そして、宙釣りから谷底の流れに落ちていった。

 吊り橋向こうのデイジーのコテージ。

 周りにヤギや豚を飼う民家もあったはずだ。それが全て火に、ローズの放った火に焼かれたと言うのだろうか?

「目が、覚めたのね」

 その声は優しく同情的だった。

「あの、デイジーは?」

 沈黙。

 そっと目を開ければ、黒のロングドレスに揺れ落ちる赤毛。

「吊り橋が落ちて、向こうのことはわからないの。鎮火してからは煙ひとつ上がらないわ。探しに行こうにも、(みち)がないの」

 もの寂しげな声に罪悪感がおきる。

「レアさん」

「ストレリーティアというの。前も意識のあやしい時に会ったものね。レアと呼んでくれればいいのよ?」

 ゆるりと振り返るレア。

 未亡人というだけあって、ローズやデイジーより十歳ぐらいは上なのだろうと思う。

 しっとりとした黒いドレスが、ゆるく結われた赤い髪が揺れれば、ほのかに香る緑の香り。

「後で娘を紹介しましょうね。今なら夕食に間に合いますもの。一緒にいただきましょうね。……食べなくてはいけませんから」


「デイジーは、し、……戻らないんですか?」

 死んだ。なんて確定させたくなかった。

 きっと、生きてる。そう信じたい。脳裏を過る。吊るされた赤を消し去りたい。

「橋が、なんとかならないことには。海からは、かなり遠回りになるの。島にはエンジンのついた船がないから、沖に流されてしまうのよ」

 言い聞かせるようなレアの言葉は優しく降ってくる。ゆるりとした動きで手の甲を撫でられる。

 見上げれば、そこにある感情(イロ)は憐れみ。


「力になれなくてごめんなさいね」


 ぽとんと頬を伝い落ちた雫。

 ローズもデイジーも好きなのに。なにがどうしてこうなっていったのかが理解できない。







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