選択の扉 ふたつめ
痺れてままならない手がもどかしかった。
「そのままでいいわ」
澄んだ幼い声。
薄い灯りの下、少女が僕を見下ろしている。
「ダメだよ。僕は君に会いたいんだ」
割れたパネルの中にあるのはレバーではなくボタンで、僕はそれを押す。
快活に笑う君は僕の記憶の中にいる。
無防備で成長しない君。
人の心の動きに不要なものはないと怒った君はその時どんな心境だったんだろう。
そこにありながら手の届かないものを見守ることはツラくないんだろうか? 不安じゃないんだろうか?
僕なら耐えていけるんだろうか?
重度の眠り病。
僕の『記憶』ではその存在に生きた人であるという認識は薄い。
かすかな振動。
動力が再供給される時間。
落ちる供給先はまず、保存庫。生き残りをかけた人々のゆりかご。
過る知識に吐き気がする。
保存庫に保存された人の種子は万を超え。
僕の行動で失われたかもしれないという事実。
数字、情報、ただそれだけのこと。
それでもぞっとすることを、震える身体を抑えることはできない。
振動をもって壁面が落ちる。
緑の誘導灯が目に眩しい。
僕は一歩踏み出す。
今の僕には知りもしない誰かより、会いたい君が大事で。
この短時間で君が失われてしまうことこそが恐怖だと思い出したから。
後悔、することはわかっていたはずだった。
道の先にあったのは赤い部屋。
濡れる髪を軽く振って君は僕を出迎える。
「大量殺人だな」
瑠璃色の目が僕をまっすぐに見つめていた。
僕の頬を雫が伝う。
君が僕を見てることがこんなにもうれしいんだ。




