鬱金香は揺れる
くすくすと小さく笑いながら両手を差し出すトゥーリー。
小さな身体。性差の見えない子供の身体。表情は無垢。無自覚の残忍さ?
「こわい?」
眼差しは笑っていない。
「ココはスポットなの。ここの会話は重要度が低いの。だから、届かない」
怖くないはずがなかった。
ローズだってキラだって感情を持って僕を排除しようとした。
受け入れられないなりに心の動きが見えてこわいけれど怖くなかったんだ。そう。なんとなくでも理解できたんだ。それが、ローズとキラの望みだったと。サラはわかりにくいけれど、誰かの為に自らを消す選択。それでも僕の中からもう消せない。甘いよりもただ痛い傷痕。
だけど、トゥーリーの『排除』はとても心の動かない『削除』。
まるで陽に焼けて砕けた洗濯挟みを捨てる感じ。
「わからないんだよね。受け入れられないんだよね。誰かの為に寄り添うよりは自分が、大事なのに。それなのに傷つかずに幸せになってなんて言えるんだよね。残酷だよ」
僕が傷つけているのは知っている。
それでも、僕は望んでいる。それは優しくあれる世界。
生きる事に焦って必死に蹴落としあって、それでも生き足掻いて。
大切な者には生きて欲しいと望みを掛けて。
僕は夢を追っていたんだ。
平和に共に生きて互いに優しくいられる世界。
滅びを待つという危うい均衡の世界で。
刹那的な時代に合わない夢。
夢を目指し叶え得る力は僕にはなかったんだ。
「君は『僕』ばかり。他の意図に振り回されて『僕』しか見れない。きっと『僕』を優先して『女神』を殺すの」
トゥーリーの声は笑っているのにとても無機質で選択肢のない冷酷さを漂わせている。
間違ってると言いたいのに間違ってると主張することのできない焦燥感。
心地良く受け入れることに焦れる。
受け入れられない言葉であるべきだ。
「僕は、彼女を知りたいし、僕自身を知りたいと言う思いを捨てるなんてできないんだ!」
僕は僕を確立させたい。
そうだ。
それが、悪いと、罪だと言うなら罪でかまわない。罪人だっていい。
僕は、求めたい。答えを得たいと望んで決めたはずなんだ。
息が荒れてる。叫んで、肩が揺れる。額に張り付く髪が煩わしく邪魔くさい。
「困った人ですね」
耳に入って来たのはビーの声。
見上げればひとつに束ねられた赤紫の長い髪。ボルドーのスーツ。
その眼差しはどこか違うところを見てる。
「ビー?」
見下ろしてくる瞳は無機質であたたかみはないのに何故か優しく感じられて、僕は戸惑う。
「どんな、会話をなさったんですか?」
ただただ戸惑う僕にビーは続ける。
僕はただ、首を横に振っていた。壊れたオモチャのように。




