宣告
「オルテシア。彼女の望みは何か知っている?」
ビーに、他の彼女らに反対される望み。
本人にでなく他の誰かに聞くと言うこの背徳感、罪悪感。
それでも僕は知りたかった。
僕には権利があるかどうかなんかわからない。
それでも許されると言うのなら、望んでもかまわないのなら、知ることを希望したい。
「知っています。ただ、これに関しての直接的情報提供は禁止されています」
申し訳なさそうに頭を下げるオルテシア。
どうしようもない無力感が押し寄せてくる。
「ただ、その望みはわたくしたち作られしモノは望まない望み」
その瞳に揺らぎが見える気がする。責める、落胆する僕が悪いのだろうか?
無知は罪だと思う。それでも知れば、知っていくことはどんどんと僕に僕の無知を突きつける。
「扉にいたれば彼女は問いに答えるでしょう。あなたは会いに行くことを望みますか?」
「彼女は、正しく望みを応えてくれる?」
ひとつ知れればわからないことが増えていく。
答えをくれるならきっと僕はそれに縋る。
「嘘はおつきにならないでしょう」
それは、真実を伝えられるとも限らないという答えで。
僕はひとつ息を吐く。そんな僕にしばらく黙っていたトゥーリーの声が投げられる。どうでもよさそうに。
「あなたはあなたの望みを目指せばいいのよ」
トゥーリーはベッドに腰を下ろして足を揺らして寛いでいた。
「散歩しない?」
トゥーリーと手を繋ぎ金属でできた鈍い色合いの廊下を歩く。低く足音が響く。
「ダレも言いたがらないわ」
ひらりゆらりと生地が揺れる。トゥーリーはただ真っ直ぐに前を見ていて僕を見てこない。
「え?」
「女神はね、死にたいの。自分が生きているのか、生きているのは本当に自分なのか、自分は必要なのかって迷っているの。いない方が良いんじゃないかって。だから、慎重に選ばなければ、あなたがあなたの会いたい彼女を殺すの」
靴音に紛れるような小さな声で紡がれる言葉に呆然とする。
ちらりと視線が僕に一瞬注がれてまた前方に向けられる。
「回避する情報は滅多にあなたに注がれない。女神が望まないから」
それが、彼女の望みなら、周りすべてがソレを叶える事を優先するならそうなのだと思えた。
「私たちの望みと、女神の望み。数少ない対立案件」
トゥーリーは数段階段を跳ねるように上りふわりと振り返って僕と視線を合わせる。
その瞳に温度は見えない。無感動に冷たい瞳。
「女神はあなたの生存を望む。私たちは女神の存続を望む」
こてんと人形の頭が片側に倒される。赤い頭髪が揺れる。
トゥーリーの瞳は僕を見つめたまま放さない。
僕は彼女の眼差しから逃れられなくて息苦しい。
憎しみも嫌悪も何も、何もこめられていない眼差しなのに逃れられない緊迫感。
背筋をぞわり這い上がる生きていることへの罪悪感。
「死なせたいなんて望んでいない」
僕が、彼女の死を望んでいるわけじゃない。
僕は、生きることを望みたい。僕にも他の出会った誰に対してでも!
僕は、彼女に会って話して彼女を、僕自身を知りたい。
「僕は彼女をもっと! もっと知りたいんだ! そのために、会いたいんだ……」
会うことすら言葉を交わすことすら僕にはできないんだ。
僕は僕自身がわからない。
それでも、
「今、僕は彼女が気になる! 前の僕なのか、刷り込まれた情報なのかなんか僕は知らない!」
僕は何も知らない。
「傷ついてほしくない。死んでほしいなんて望まない。トゥーリー、ここは、なんなんだ!?」
トゥーリーの唇が弧を描く。
彼女たちは感情的に活き活きと、そして時にどこまでも、どこまでも無機質に冷たく透明でつかみどころがない。
「ここは知識の塔。滅びる前から人の世から断絶された箱庭。人であったとしてもここに踏み入れればそれは人でなくなるの」
ふわり人形の微笑。
「ここにいる限りすべてはイツワリの命。女神だけが本物。だから、」
じっと僕を見ているトゥーリー。
眼差しに心臓が止まりそうな錯覚。内臓を鷲掴みされているかのような息苦しさ。
背中に沸く汗を感じる。
「もし間違うなら死ぬべきはあなた」




