惑うコトノハ
「いい、とは思っていない」
なんとか絞り出した声。
それ以前に全てを無駄にすることは許されないと追い詰められる。
ローズ、デイジー、サラ。
そして、ヴァイオレット。
「構わないと思います。彼女らは自らの願望を持って、その思いのまま行動しあなたの思惑を入れることはなかったのです。あなたが気に留める理由はないのです」
やんわりと流れるオルテシアの声。
「それはそうだわ。それでもそこには彼女らの希望があるわ! 期待があるわ。すべて踏みにじって後悔しないの?」
彼女らはそれぞれに僕を求めてくれた。
彼女たちはそれぞれに僕を大事にしてくれた。
僕は彼女達の望みを考慮に入れたことはあるのだろうか?
「どうしていいか、わからないんだ!」
ひとつわかれば、それ以上にわからないことが増えていく。
納得したはずのことが覆される。
それでいい。と思ったはずなのに、ひっくり返されて正しいと感じられなくなる。
「あなたがしたいと思えることをすればいいのですよ?」
オルテシアが不思議そうに言葉を紡ぐ。
「それはそうね。したいことを見誤らないで」
トゥーリーが同意でない同意を続ける。
したい、こと?
そう、僕は彼女を求めている。
そこに僕が何者なのかは、関係あるのだろうか?
確かに彼女が望まない僕なら僕は関係あるのかもしれない。
でも、僕には最初から彼女の望みが見えなくて。僕は僕のことすらわからない。
したいことだってわからない。
わからない?
「彼女を知りたい。会いたいんだ」
僕は僕を知るより、彼女を知りたい。彼女に会いたいんだ。
望まれていないとしても。
「そうね。あなたは彼女を求めてる。そして、わたしたちが傷つかないことを望んでくれている。それは優しくてとっても残酷。嬉しいけど、つらい。それでも確かにあなたはそれでいい」
「でも、会いたがってらっしゃらない」
トゥーリーが僕を肯定し、オルテシアが希望をただの事実で切り捨てる。
僕はその言葉で萎縮する。
「それはあなたのしたいことに関係あるの?」
萎縮した僕にトゥーリーは言葉をかける。真っ直ぐな視線。
「わからない」
逃げたい。逃げたくない。拒絶されたくない。
トゥーリーのひらりとした袖をとる。
必要な叱咤だと思ってありがとうを伝えようと。
まがりが、生地のたゆみがおかしく、とても軽かった。
「どうして?」
「そう、造られているからだわ。一目見て好きになる。だからこそ生きて、望みをかなえて欲しいわ」
トゥーリーは僕の手から袖を抜き取り背に回す。
「あなたが傷つく必要はないのに」
オルテシアの言葉が遠かった。




