断罪
吐気がした。
眠病に侵された彼女に同情するような思考を向けることができたのは自分がそうだと考えなかったからだと突きつけられる現実は痛いものだった。
自分もまた、その病を持っていると言われて、僕は『どうして?』と、そう考えた。
その疑問は、自分がそうでないと決めつけていたからだ。自分の相手への同情が、自分が優位にあると認識した上での押し付けだと気が付いたから。
記憶はないとはいえ、僕は自分が、彼女より苦しくない位置にいるという現実に優越感を感じたのだと思う。
最低だ。
「どうしたの?」
不思議そうに微笑むオルテシア。
自己嫌悪に陥る僕を不思議そうに見下ろしてくる。
「自己嫌悪だよ。自分が酷い奴だと気がついたんだ」
「誰も選べないから?」
囁かれて僕は硬直した。
僕は、彼女を求めている。
だけど、彼女を求めているのは僕であるのか、別の誰かなのかがわからない。
選べないのか、選ばれないのか。
僕はその不安感を他の誰かに強いている。
「オルテシアは僕を好き?」
オルテシアは少し困った笑顔でそれでも肯定をくれる。
「好意を寄せています。あなたに害がなければよいと思っています」
「そう、組み込まれているから?」
笑顔で、肯定される。
そう、彼女たちは組み込まれている。
僕を、そこにいる異性に好意を抱くようにと。傷つくのは間違っている。僕は彼女らを否定する。
そう存在する彼女らを否定している。
それなのに傷つく。僕でなくてもいいという拒絶に傷つく僕は、どこまで傲慢なんだろうと思う。
「オルテシアの言葉を真に受けないで。オルテシアの言葉は鏡。あなたの迷いを映してるのよ」
ひらりとした衣装。
真っ直ぐな赤い髪。
「トゥーリー?」
部屋の入り口に立つ少女はレアの養女という、設定で紹介された少女だ。
「不安、迷う? ソレを超えて欲しい望みがあるんじゃないの?」
館で紹介された時とは違う服装。
あの時の控えめな対応とは違うきっぱりとした意思表示。
「甘えるのもいいわ。それでも、そのまま堕ちるのをよしとするなら、あなたに手を差し出した彼女らの心をすべて打ち砕くことになるんだわ」
僕は言葉が出ない。
思わぬ断罪。
甘い時間。自己否定すら緩い停滞。
「休むのはいいわ。でも、そのまま沈んでいっていいの?」




