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花の王国  作者: とにあ
鳥の羽下
29/49

目覚め

 目が覚めた時、そこは白い病室のままだった。

 ただし、ビーはいない。

 交錯し溢れる情報、治療のための薬物の影響か、僕は意識を失った。

 たぶん、そうなのだと思う。


『箱庭計画』


 僕は、それに関わっていた。本当かどうかもわからない記憶の世界。

 彼女が、姉が生きられる世界をそこで暮らせるチケットを手に入れられる立場に立つために。

 それが適わなくても人が幸せに生き延びることが可能な設備を考えるのは楽しかった。有意義だと思えていた。いつかはこれが宇宙に旅立つ技術になるのだと思っていた。

 僕はその仕事を、やりがいを、好きだったと思うんだ。


 そう思考する記憶。そしてそれを否定する思考。僕は知らない。と。



『眠病』


 当たり前に知っていた。

 健康な肉体の中で生き続けるならいいと思っていた。

 目覚めることのない器にあっても使える臓器が使えなくなるだけだと当たり前の思想になっていた。

 眠る、発症者の前でどこを使用するかという相談がなされるのも、その家族がいなければ、見受けられるシーンだと認識する僕の記憶。

 聞いていたのだろうか?

 ふいに発症した学友は。姉に会いにいったおり、入院しているはずの学友の病室でなされていた医師たちの会話。いや、移植コーディネーターの会話。同様の発症者たちの横たわるベッド。彼らは聞いて内容を理解していたのかと思えばぞっとする。

 でも、誰もそんなコトを考えなかった訳でもなかった。だから、拒む親族、恋人、本人の拒否意思表示は優先される。本人の場合は発症前にだ。

 ただ、動けない意思表示できない発症者の実質的死亡を受け入れられなくとも、かさむ生命維持処置の費用。院内で見かける臓器提供者待ちの患者達。そして、その家族。臓器提供に承諾サインをすれば、かさむ生命維持費用を相殺される補償金。誰かの中で生きているという希望。時間が移植素体とする事を納得させる。教育の場での流れは僕の記憶にある限り、小学校高学年で同意カードにサインするかを問われた。すでに所持している学友が大半だった。

 だからこそ、疑わず納得していた。

 難病の、災害の増えていた時代(せかい)。人類が生き延びることが優先ぎみだった。

 世界は、人は、まわりの生物環境も巻き込んで衰退していくことから目を逸らしていた。

 滅びの前兆だと気がついても、誰も口にしない。言葉にすれば、真実になると恐れるように。

 それが、当たり前で普通だった。

 眠病で目覚めることは無いのだから、人の役にたってそこで生き続ける。しかも複数の中で生きていくのだと。滅びはしないのだと。



 ざわめくような否定感。自分の過去のようで、それは違うと否定する自分。

 この記憶は僕のもの? それとも再生時に織り込まれたニセモノ?




「悩み、ごと?」


 ふわりと室内に風が舞った。




 ひらりと髪が揺れた。

 白いサンダルをはいた少女。サラだった。

「こわい? 不安?」

 ふわりと舞うような動きでサラは僕の目を覗き込む。

 僕の上にいるけれど、重さは感じない。ほんの少し、浮いているのだ。

「ヴァリーは無事?」

 尋ねれば楽しそうにサラは微笑む。相変わらず、小さく首を傾げて。

「無事よ。ヴァイオレットを恋人に選ぶの? 彼女は口調は乱暴だけど、いいよ?」

 サラは僕を撫でる。

 ふわふわと風がサラの髪を舞い上げている。僕にかからないようにの気遣いのようだった。

「ちゃーんと綺麗に治したわ」

 ふわりとした動き。

 にこにことやわらかな表情。

 どうして、ここでキラのことを尋ねてはいけないと感じるのだろう。間違いなく、彼のことも僕は心配なんだ。


「ねぇ。大丈夫?」


 サラは心配そうに僕を見下ろす。

「僕は、いったい、なんなんだろう」

 ポツリと僕の口から言葉が滑り落ちた。

 わからないのだ。

 誰かの言葉から触発されて脳裏を乱舞する記憶、夢で再生される記憶。そして、知識。

 サラはふわりと微笑む。

「ねぇ。教えて。あなたはあなたをなんだと感じているの?」

 ゆっくりとサラの指が僕の胸元をつつく。ついばむようなキスが額に落とされた。

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