絡む水草は無為に
「僕は死んだの?」
ゆっくり目を開ける。
青い瞳が僕を見下ろす。
「デイジー」
はかなげに君は微笑み、そっと僕の頬に口付ける。
瞬きする僕を見て頬を撫で、金色の軌跡を残して君は僕の視界から消えてしまう。
慌てて追おうにも体は軋んで言うことを聞かない。望むように動くことができない。
苦しい。痛い。苦痛。
ああ。生きている。
「動いちゃいけないわ。もう、少しね」
姉さん?
ここは夢?
それとも、現実?
「サラ……」
横から聞こえたヴァリーの声は力がない。
ああ。ヴァイオレットも生きている。
安堵感からかよけいに身体が重く感じる。
「ヴァイオレットもおとなしくしてね。弟が、ごめんなさいね」
そうだ。
「あの猫はどこに?」
サラはヴァイオレットの治療をしようというのかこっちを見ずに彼女に向けて手を動かしている。それでも、聞いていたらしく答えてくれた。
「大丈夫よ。大きなケガはないようだったし、あら、ヴァイオレット、治療を嫌がっちゃいけないわ」
ゆらりとヴァイオレットの手が上がる。
動かして、動いて大丈夫なんだろうか?
「イヤ。必要ない。血は止まっている。俺のために命を削るな。水に落ちた弟のせいで随分と削ったのだろう?」
命を、削る?
「そう? 気にすることはないのよ。わたしは長く生きてるし、身体が辛くても死にはしないから」
柔らかい口調でサラはヴァイオレットに治療を受けるよう促す。
「ハッ! 確かに俺たちは短命だけどな。そんな同情はいらねぇ」
捨て台詞を口にしながら、ゆっくりと体を起こしたヴァイオレットは周囲を見回す。さすがに急には動けないようだった。それでも、あれだけの出血で動けることが信じられない。
出血。
体はじっとりと濡れている。水から上がったから当たり前だろう。そう、血は水にさらされたくらいでなくなるのだろうか?
闇と水の中、ぽつんと浮かんだ浮島。そこだけが理不尽に明るく、周りを見通すことなんかできなかった。
「別に同情じゃないのに……」
サラが拗ねたようにぼやく。
「デイジーの奴、いい場所に運んでくれたな。おい、」
サラのぼやきを黙殺したヴァイオレットは僕に声をかけてきた。
そう、デイジーが助けてくれたのだ。でもどこかへ行ってしまった。せっかく会えたのに。
「え!?」
「大丈夫か?」
尋ねられてその表情に心配を、焦りを感じる。
「ヴァイオレット?」
「サラが風で送ってくれる。だから、眠れ」
え?
「おやすみなさい、あなたは、まだ情報への条件を満たしてないの」
ヴァイオレットとサラの声。
僕は眠りに沈んでいく。




