夏の日
「なに目をつむってるの? ゴミでも入った?」
心配そうに覗き込んでくる鮮やかな瑠璃色の瞳。視線が絡めば、慌てて跳ね退く。ふわりとはしていない。それでも力強くはねる髪は鮮やかな真紅。
「逆光。眩しかったんだよ」
僕は親しげに彼女に返答をする。
「だって、逆に回れば私が眩しいじゃない。あ、そっか、並べばいいのよね!」
彼女は明るく笑う。振り回されるのは僕。それでもその笑顔が見れて嬉しいんだ。
僕は彼女を呼ぶ。
彼女は髪を大きく広げて僕を見る。
「ねぇ。あれはなに?」
彼女は珍しくもないありふれたものを指差し、僕に問う。答える僕に向けてくるその眼差しがくすぐったい。
アスファルトの道は太陽に炙られてフライパンのように熱い。気休めにもなっていない打ち水がゆらりと気化していく。コンビニで買ったアイスは食べる速度より溶ける速度が速い。べたつく手頬にまで飛んだアイスの跡。
君は気が付かず、髪についたアイスを拭おうとして逆側の髪に、全体に広げていることに気がつかない。
森を一緒に歩きながら僕は彼女を見ている。ポニーテールに結われた真紅の髪が揺れる。ひらり揺れるミニスカートにスパッツ、真新しい運動靴。川まで歩けるのか心配だった。
君は瑠璃色の瞳をきらめかせ、樹々の緑の隙間から射し込んでくる光に手を伸ばす。
フッと君が揺れた。
抱きとめた彼女は僕に色のない眼差しを送る。どこも見ていないその瞳は瞬きもないかのようで僕の体感温度を下げる。
するりと現れたビーが彼女を僕から抱き取り、腕に何かをさしこんだり瞳を閉じさせたりしている。僕を見て何か口を動かした。
音は、ない。
僕の名前も、彼女の名前も聞こえない。
彼女は僕を呼んで笑うのに。
僕は彼女を愛しく呼ぶのに。
ああ。
コレは夢、なんだ。