対価
「真実を、欲しいものを得るために、……何を犠牲にしても進んでいくことができる?」
言葉に動けていない僕にサラは可愛らしく小鳥のように首を傾げる。
「さぁ召し上がれ」
差し出されるのは赤みを帯びた液体。
白い磁器は薄くて壊れそう。
木のウロのような場所に納められた茶器を操って入れられたお茶。ふわりとした焼き菓子が添えて差し出される。
「何を、……犠牲にしても?」
そんなことは無理なんじゃないかと思う。犠牲になって欲しくない。したくない。
「そう。欲しいものを得るために貴方はどこまで心を決めれるの?」
僕が困っていることに気がついたのか、サラは微笑む。ゆらりと風を含む髪が揺れている。
「生きることは、キレイじゃないわ。他の誰かを傷付けて、断念させて、絶望させて、それを踏まえて誰もが生きているの。その事実は見えるか見えないかは、……貴方次第だし、生きることは罪じゃないわ」
僕は食事をする。屋根の下にいたい。
肉は生きていた。生まれることができなかった卵。打ち倒された樹木や掘り起こされた土砂が建材に変わる。そこに生き、棲んでいたモノの犠牲の上。きっと、言い出せばキリがない。
でも、知った誰かを犠牲にする事が正しいとは思えない。
ことりと首を傾げる。
「真実を知る。奥に行くことは踏み越えることが必要なの。何も支払わずに辿りつける事はないわ」
「他の道はないの?」
支払うことのできる条件にもよるのかも知れない。でも、僕の命も、誰かの命も支払うわけにはいかない。
ずるいのだとは思う。
少し、下を向いたサラが手を口元にあてる。
「だって、ウィルは飛べないもの。わたしは別の場所に行く時、空の道を使うわ」
この翼を使うのと言うかのようにばさりとふるわせる。
サラは言いながら楽しげに桜の枝へと飛び上がる。
桜の花びらが舞い上がり空は薄く花びらカラーに染まって見えない。
「桜の根元に洞があるの。弟はその先に遊びに行くのが好きよ。もしかしたらそこからどこかにいけるかもしれないわ。……でもね」
「でも?」
「弟はね、自分のお気に入りに入り込まれるのを嫌うの。それにね、怖いからよく知らないわ? 怒ると思う。それでも、進んでみる?」
「いく」
行ってみようと思う。
失う対価がこれ以上の誰かじゃなければいいと思う。
白い磁器の中の液体が大きな波紋を描く。
僕はそれを見たくなくて一気に飲み干す。