表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花の王国  作者: とにあ
桜の下
14/49

惑い水



「どこから来たの」



 それは何気ない言葉。

 でも、意識を取り戻してから、目覚めてから、はじめて向けられた言葉。

 誰も、『何処から来た』とは聞いてこなかったのだ。

 まるで、それは予定調和のように僕を彼女らの世界に受け入れた。

 どこから。

 僕はどこから、どこへ来たんだろう。

 ココはどこだろうとは思ったけれど、僕は自分がどこから来たのか、どこに居たのかなんて考えただろうか?

「鍵が、無ければ奥には行けないの」

 足元の白と黄色でできている水仙を手折って、サラはくぅるり回して弄ぶ。その動きに合わせてふわふわと桜の花が不自然に弧を描く。

「サラはその鍵を持ってる?」

 僕の問いかけにサラは楽しげな表情で花びらが大量に浮いた水を掛けてくる。

「持っていないと思うわ。行こうなんて思ったことはないもの。綺麗になったのなら、一緒にお茶でもいかが?」

 思う?

 確実性のない答え。奥へ至る鍵。笑顔で差し出される手。

 僕の体はびしょ濡れで、血は残らず洗い流されていた。

「ゆっくり、どんなところから来たのか、教えてちょうだい。そして、どこに行きたいの?」

 期待に応えられない。僕は答えを持っていないから。

「僕は、僕は彼女の元に行きたいんだ」

「どうして?」

 どうして?

 気になるから。

 それにそこに行けばきっと、

「真実に出会えると思うんだ」

 君の声。

「真実?」

 サラが不思議そうに首を傾げる。その仕草はまさに小鳥なんだろうと思う。

「そう。真実。僕が、ここに居る理由」

「存在することに理由がいるの?」

 サラの瞳が、顔が、体が、近かった。

「存在するから、わたしたちは存在するの。わたしは外を知らない。わたしたちは、異端で異質だから」

 トンッと軽く押される。水の上で翼を広げた少女は軽やかに水を蹴る。ひらり舞うワンピース。舞う桜の花。

 翼が純白なら天使が降りてきたと信じた気がする。

「わたしは異質?」

 ジィっと僕を見つめる眼差し。

 答えられない質問だった。

「きっと、ここにおいては、僕が異質で異端なんだ」


 わからない。答えることができないことがひどくもどかしかった。


 もどかしい。

 やるせない。

 だから、たどり着かなきゃいけないんだ。


 僕はどこから来て、どこにいきたいのか。

「それを変えるために真実がほしいの? 何を踏み越えても?」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ