人工の庭
暗い廊下。
石造りではなく、金属の通路。
行き当たった先。そこはピンクの園。
水場があり、丘に続く細道。色とりどりの花が咲く。樹は、すべてピンクの花だ。
足場に咲く花は白が多い。
「桜、と言うのよ」
声は上から降ってきた。
見上げれば、ゆらりと白い足がさらけ出されていた。
薄茶色の長い髪。白いワンピースに素足。
「君の、名前?」
鳥の羽根を模した髪飾りがゆらりと揺れる。
「いいえ。この花の、この樹の名前。わたしの名前はサラよ。あなたは?」
「ウィル」
ふわりと少女は木の枝から滑り降りてくる。
僕は息を飲む。
降りてくるのは黒目がちの少女。
その背に広がった大きな翼。
その地に足をつけた途端に翼はたたまれて空気に融けるように消えてしまう。
髪飾りが揺らぐ。髪飾りでは、ないそれが動く。
「けがを、しているの? 大丈夫?」
白い手が伸びてくる。
柔らかな甘い匂い。
怪我?
手を見れば、赤黒さが広がっていた。
キャリー(それともトゥーリーだった?)の腕からこぼれた血の赤の跡。ローズのしぶいた血の痕跡。
「けがはしてないんだ」
僕の言葉に首をかしげて、少し考えるようにじっと見つめてくるサラ。少し時間を置いてぱちりとその目を瞬かせた。
「痛いのは、心? ねぇ、綺麗にしなきゃ」
汚れることも厭わずにサラは僕を水場へと導く。
こころ?
心は痛いのかな?
「サラ、君はヒト?」
緩やかに流れる水に僕を突き落としてサラは楽しそうに笑う。
「ヒト? 私はトリよ! 家族は小鳥と呼ぶわ。それでね、弟は子猫よ。爪と牙に気をつけてね」
ワンピースの端で水の表面を撫でて、水を跳ね上げながらヒトの姿をした『小鳥』が歌う。
「サラ、僕は奥に行きたいんだ」
「……奥?」
少しの沈黙。
「ねぇ、ウィルは、どこから来たの?」