夜の地下
暗闇の中、ずるりと引きずる音。びちゃりと湿った音が響いてくる。
ぎぃぎぃと途切れ気味に鳴き声が耳に届く。
トカゲ。……でも、彼女ではない。
鳴き声がひたりと止まった。
びちゃり
鉄錆の匂いが広がる。
ぎぃいいぃ
低く、暗い闇の中から聞こえてくるガラスを擦り合わせるような奇音。
鳴き声が近かった。
一歩後ずさった時に甲高い吐出音。それが耳を苛む。
わんわんと脳を揺さぶるような音に僕は目を瞑って蹲る。
液体がぼたぼたとふってくる。
がちりと牙の打ち合わせられる音。
尻餅をついて、上げた顔の先に掠める風圧。
そして目を焼く閃光。
「おにーちゃん! 大丈夫?」
目をゆっくり開けると、手に赤いぬめる液体。
「ひっ」
悲鳴は出ず、言葉も出ず、心臓の脈動だけが耳に脳裏に響く。
目前にぎるぎる動く赤い眼球が見えた。
捩れた身体。手足を床から生えた鉄杭に貫かれ音すら伴わない絶叫をあげ、みじろぐ『トカゲ』
「悪いコ」
その言葉と共にカチッと小さなスイッチ音。
空気が、大きく揺れた。
刺し貫かれたまま激しい痙攣をしている『トカゲ』
小さな手が僕をそこから離れることを促す。
僕が少し離れると透明な壁がトカゲと僕の位置の間にせりあがる。
ぶつり
せりあがった透明な壁に赤い液体で目隠しがされる。
トカゲが杭に貫かれたトカゲを引き千切って奥へと引き摺っていく。
透明な壁に赤が広がり、何も見えない。そう、杭に残ったであろう捩れた四肢も。
僕は気がついたら壁を叩いていた。
ダメなんだ。僕の心が惹かれるのは君じゃない。
それでも、それでも傷つくところが見たいわけじゃない。
夕食時に紹介された娘はキャリーと名乗った十歳に満たない少女は琥珀色の瞳をくるくると好奇心に染めていた。
真っ直ぐな赤い髪は少し硬そうで必死にお行儀に気を配っている姿が愛らしい。
ローズのように当たり前でなく、デイジーのように諦めてもいない。成長途中の愛らしさなんだろうか?
それとトゥーリーというキャリーより少し年上そうな少女。一人娘と聞いていたから驚いた。数年前に引き取った娘で、レアにとっては等しく娘のつもりらしいが、トゥーリーや周りが分けて考えているらしい。
レアの館は、砦や城のようで、普通に生活するには向かなさげだった。ぐるりと入り組んでいてすぐには道を理解できない気がした。
厨房。食堂。吹き抜けの階段。装飾の脇にあるひそやかな扉。
少女達には自分の家。
案内役を買って出てくれた。
暗さに迷いはぐれ、彼女に出会った場所にたどり着いた。
「貴方はどうして立ち入ってはならない場所に入り込むのですか」
視界に入るのはボルドーのスーツ。
「ビー」
いるはずがない人物の存在。
「はい」
「ろーずをたすけて」