噂と実状⑤
スレイとのゆったりとしたお茶会を楽しんだ後、レナは彼から貰ったバスケットを抱えて離宮から王宮へと足を運んでいた。
侍女の姿の今は、誰にとがめられることもなくあっさりと城下町に続く門までたどり着く。
門兵に主から城下町まで買い物を頼まれたといえば、簡単に出してもらえた。
城下町までの道を歩きつつ、レナは振り返る。
王城とこの城下町をつなぐ石作りの大きな門は、2階建ての家よりよっぽど高い。
レナより大きな石を何個も重ねて作られていて、城というよりも要塞のような重苦しさがあった。
違う。牢獄のようだ、とレナは思う。
少なくても自分にとっては、牢獄そのものだと思う。
それでもそこで生きていくしかないレナは、苦々しい思いに顔をしかめる。
今はまだ無理だ。
飛び出すにはまだまだ準備が足りなさすぎる。
側室にと王城に上がって早半年、これだけ時間をかけてできた準備はこの侍女服を手に入れたことだけだ。
まだまだ時間はかかるだろうが、一生ここにいるつもりもない。
抱えるようにバスケットを持つ手に、無意識ながら力がこもる。
あの城に、自分の味方はいない。
少なくても【側室レオナ・フライト】にはいない。
否、つくらない。
出ていくときは一人でいいと、ここに連れてこられたときに決めたから。
レンガで舗装された城下町への道は歩きやすく、20分も歩かぬうちに到着した。
貿易で賑わう町は、王城の雰囲気とは全く違う。
王城は厳かな雰囲気ばかりだが、町は常に活気に溢れていて、きちんと人がここに居て生活しているのだと感じられる。
もともとレオナは修道院暮らしで、王城の生活に近い静かで落ち着いた毎日を主としてきたが、こういった雰囲気も好きだった。
今は特に【側室、レオナ・フライト】として我慢を要する生活をしているせいか、開放的な町の雰囲気に惹かれるのだろう。
賑わう市場を眺めながら、レナは町から少し外れた場所に向かう。
なだらかな小麦畑を過ぎ、のんびりと草をはむ牛たちの牧場を過ぎ、やがてそれは見えてくる。
古めかしいデザインながらも、どこか荘厳なその建物。
高い屋根の上に掲げられた十字架は、ここが教会だと示していた。
そのまま表から入ることをせず、レナは裏に回る。
頼りない木の柵の扉を開け、裏門をたたく。
まもなく出てきたのは、ここの神父である初老の男性だった。
「こんにちわ、神父様。本日もよろしくお願いします」
「ようこそ、レナ様。こちらこそよろしくお願いします」
にこやかに笑う神父に、レナはもってきたバスケットを差し出す。
「子供たちのおやつにとお持ちしたのですが、受け取っていただけますか?」
「ありがとうございます、きっとあの子らも喜びます」
「そういっていただけると、こちらも嬉しいです」
さあどうぞと、神父はレナに中に入るように勧める。
その穏やかな神父の雰囲気に、王城に来る前の生活を思い出してなんだか切なくなった。