噂と実状①
レオナ・フライトといえば、王城での噂はもっぱら悪女やら贅沢妃やら、そんなのがほとんどの側室だ。
まれに姿形だけはいい、といわれることもある。
まあ「だけは」というところが、単に褒めている言葉ではないとわかるだろう。
着飾ることをなによりも愛する少しおつむの弱い側室だと、周りはひそかに声を合わせて彼女を笑う。
そんな彼女の朝は、他の側室より早い。
本来侍女付きの身分の高いものは、彼女らが起こしに来るまでベッドから出ないものだが彼女は違う。
侍女が来る前に自らクローゼットを開けて、その日のドレスから髪飾り、アクセサリー、靴その他小物全般を選ぶことから始まる。
何度もレオナ付きの侍女がそのような真似はしないでほしいと言っても、彼女は頑として首を縦に振ることはなかった。
「さて、今日はどうしましょう」
今日も侍女がやってくる前に起床し、開けたクローゼットの前にレオナは立っている。
目の前にかかっているドレスはたったの5着。
午前中に公務があるから、特に煌びやかなものを選ばなくては。
しかも今日の公務は国王の隣に立つのだ、いつも以上に気をつけねばならない。
「ドレスはこれでいいわね、あと靴は…、髪飾りはどれがいいかしら」
靴も髪飾りもアクセサリーすらも、贅沢妃といわれるほどの数は持ち合わせてはいなかった。
どれも両手で足りるほどの数で、彼女は悩みつつも選んでいく。
選んだ一切をドレッサーの前のテーブルに置く。
今日はとても晴れていて日差しが眩しいから、それに合わせて白色をメインにコーディネートしてみた。
真珠と繊細なレースをふんだんに使った光沢のあるドレスに、同じく真珠をあしらった髪飾りとピアス。
首元にはレオナの瞳と同色の、大粒のラピスラズリのついたチョーカーを。
少しでも低い背をカバーするために、靴はヒールの高いものにした。ついでにこれなら脚を長く美しく見せることもできる。
いくぶんシンプルな気もするが、たまにはこういった素材を生かした服装もいいだろう。
もともとレオナはシンプルなほうが好きだ。
時計を見ればまもなく侍女がやってくる時間だ。
そのときを待ちつつ、レオナは自ら櫛を取り髪を梳く。
少し癖のある髪ながら、毎日寝る前にローズオイルを染み込ませているので絡むことなく滑らかに櫛が通る。
自分の衣服を選ぶことと同様に、髪梳きも彼女の大事な一日の習慣だった。
一櫛梳くたびに、レオナは自身に言い聞かせる。
これからはじまる一日は、【側室、レオナ・フライト】なのだと。