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噂の側室  作者: ジグマ
本編
27/48

噂の代償②

おかあさん、おかあさん。

おそとにでたいの。

おともだちといっしょにあそびたい。


ねえ、おかあさん。

どうしておそとにでたらいけないの?



小さな女の子が泣いている。

黒髪が覆う細い肩を大きく上下させて、大粒の涙をこぼしている。


女の子の目の前で膝をついているのは、彼女にそっくりな美しい顔立ちの母親。

母親は嘆く娘を必死に抱きしめ、なにやら喚き散らしている。

早口すぎる母親の言葉は、まるで呪文のように娘に絡みついていく。


『許さない』

『捨てないで』

『どこに行くの』

『どうして私を置いていくの』


散々娘を縛りつけて喚き散らした母親は、娘が12になった頃流行病で亡くなった。

賢母と噂された実母を失っても、娘は涙一粒零さなかった。

一言「やっと解放されたのね」と、誰にともなく娘は呟いただけだった。





窓から差し込む朝日の眩しさを感じつつ、今しがた目覚めたレオナはぼんやりと天蓋を見遣る。

細かい刺繍の施されたレースを、幾重にも重ねた贅沢な代物だ。

朝日に反射すれば、まるで宝石のように輝く。


朝独特の清々しい空気が、すでに気鬱なレオナを少しばかり癒してくれる。

けだるい手を動かし目元にやれば、やはり湿った跡。

腫れあがっていなければいいのだけど、と彼女はため息をついた。



久しぶりに昔の夢を見た。

ここ数年ずっと見ることはなかったのに、今更になってうなされるとは思いもしなかった。

原因は間違いなく昨晩の夜会だろう。


「レオナ、王妃になってくれまいか?」


そういった瞬間の国王が、母親の影と重なった。

すっかり忘れていたと思っていたのに、どうやらまだ心の奥底に眠っていたようだ。

もう束縛された生活などしたくはない、そう思うのは我儘なんだろうか。


王族は嫌いだ。

父親だという男が王族だったから。


だから王族の伴侶など、母と似たような道に進むなどまっぴらだ。

レオナは母親も好きではなかったが、父親は大嫌いだった。

無論その血を引く自分も好きではない。



レオナの陰鬱な思いはますます募るばかりだった。

そして先の見えぬ不安に体が震えてしまう。


これからどうすればいいんだろう。

どう振舞っていけばいいのだろうか。

もはやなにをどうすればいいのかすら、分からないのが正直なところだ。

逃げ出したいという気持ちは変わらずレオナの中にあるのだが、その算段はどうすべきなのか分からなくなってしまった。


そもそも地道に築いていた【側室レオナ・フライト】が王妃に望まれるなど、想定外もいいところだった。

一体国王はなにも思って、ひどい噂ばかりの側室など気にかけてしまったのか。

普段から口数の少ない国王がなにを考えているかなど、レオナには知る由もない。

ただこの事態は、彼に近づくことにすら抵抗を感じていたレオナが引き起こした、安直な計画の産物であるのは間違いなかった。


今レオナの心は2つに別れている。

もういい加減受け入れるべきなんじゃないだろうかと思う心と、最後まで抵抗すべきだという心。

激しきせめぎ合っている感情はいずれも強い。

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