はじまりの噂
【東のフォレスタ国】
と聞けば、知っている者ならば皆こう言うだろう。
とても緑が豊かで資源が豊富な国、と。
町は貿易で栄え、どこか古き街並みを感じさせる城下町はとても温かい雰囲気だと。
そしてもう一つ。
唯一悪い噂もある。
それは側室、レオナ・フライトだ。
緩やかに波打つ艶やかな黒髪、少しだけ吊り上がった大きな瞳は優雅な瑠璃色。
肌は陶器のように白く滑らかできめ細かく、紅をささずともほんのり色づいた唇は艶がありふっくらとしている。
姿に関してはまったく問題はない。むしろ数いる側室の中でも飛びぬけて可愛らしい容姿だったりする。
血筋もいい、なんせ先々代の国王がずいぶんと年を召してからひそかに生ませた庶子だ。
まあ母親は庶民ではあるが、直系の血を引く娘は多くはない。
年は今年で18歳になり、老いているわけでもない。
ではなにが問題なのか、それは間違いなく彼女自身だ。
派手な顔つきに見合った煌びやかなドレスと宝石を常に身にまとい、夜会があればさらにその豪勢さに磨きがかかる。
それも一度着たものは2度と着ないという徹底ぶり。
宝石に関してもしかりだ。
他の側室たちには「贅沢が生き甲斐では?」といわれている。
とはいっても彼女はあまり奥の離宮から出てくることはない。
だがまたそれが怪しいと、噂に拍車がかかっている。
国王以外の男と褥を共にしている、気に入った近衛を囲っているなど、さまざまな憶測が飛び交っている。
ついでにその食欲もまたすごいという。
朝夕は一食でいいというが、昼食はなんと10人前を平らげてしまうという。
小柄な彼女のどこにそんな大量の食事が収まるのか、宮廷ではもっぱらの噂だった。
そんなレオナ・フライト。
フォレスタ国王の側室。
いい噂はほぼない。
この物語の主人公である。