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噂の側室  作者: ジグマ
本編
16/48

噂される以前の彼女①

すべてのはじまりはそう、間違いなく7ヶ月前。

何気ないダリルとの会話が、こうなる事態を予想できた最初で最後のことだったと思う。

あのとき、もう少し思慮すればよかったのだ。

後悔は止まらない。


けれど身勝手ながら今は、そうならなくてよかったと思う自分もどこかにいる。

クライストにとってレオナが、心のうちに潜むもう一人の自分なのだと気づいてしまったからだ。


それは渇望する自由を象徴するものであり、閉塞に苦しむ象徴であり。

宿命に打ちのめされるひ弱さでもあった。







――――――7ヶ月前。




まもなく日が落ちる。

熟れた果実のような夕日が、王城の最上階に位置する国王の執務室を赤く染め上げている。

室内には二つの人影。

国王であるクライストと、国務大臣のダリルだった。


本日の業務をすでに終了しているダリルとは違い、クライストはせっせと寄せられている報告書らと向かい合い、十分に考慮しつつサインと国印を繰り返している。

必要最低限の業務はクライストとて終わらせているが、よりよい国作りのためにはいくら時間があっても足りないのだ。


そんなクライストをよそに、ダリルは本来応接用の向かい合わせに置かれているソファーにどっかり座り、手にしていた書類に目をやっていた。

ところどころに美しい娘たちの写真が挟み込まれている。


「侯爵家のファルマ嬢とリディル嬢、お――…男爵家のセリア嬢もか。さすが国王陛下様、集まる女も一級品だ」

「何の話だ?」


クライストは確認している書類から目を離さず、淡々と問う。


「何のって…、おまえの側室候補」

「…ああ、宰相が勝手に話を進めているやつか」

「まるで他人事だな、淡白な反応なこって」

「私自ら望んだことではないしな」


相変わらずクライストは一瞥すら寄こさない。

側室のことより、手元の書類のほうが大事なようだ。

そんなんじゃ側室たちのほうから愛想尽かされるなと、容易い想像にダリルは静かに笑い、さらにページを進める。


さすがに側室候補とあり、どの娘たちも綺麗に着飾った写真ばかりだった。

鮮やかなドレスをまとい、品のいい宝石をつけて、それでいて淑やかそうな笑顔を貼り付けている。


そんな華のような候補に囲まれた、黒い娘が一人。

飾りっけのない黒い服を着込み、土いじりをしている写真が一枚だけの彼女。


「お、一人毛色の違う娘が混じってるな」

「…そうか」

「修道女だな、この娘」

「修道女?」


さすがに書類に走らせる手を止めて、クライストは視線を上げた。


この国で修道士や修道女とは、清貧・貞潔・服従を掲げた生活をしている者たちを指す。

また姻戚にしばられることはなく、彼らは異性と婚姻関係を結ばないのも特徴だ。

とくに婚姻については、『本人が望まねば、何人も穢すこと許さず』と法律でも定められている。

なのに国王の伴侶候補とはいえ、名が挙がっているという。


「なぜその修道女が選ばれた?」

「ん――…ああ、血筋だな」

「血筋?」

「先々代のじーさんが生ませた子らしい。母親は村娘らしいな」

「…なるほど」


けれどもとより無欲な彼らだ、向こうからこの話は蹴ってくるだろう。

法で守られていることもあり堂々と拒否しても問題ない、気にすることはないだろう。

そう思ってクライストは書類に視線を戻す。


その日も変わらない一日が終わろうとしていた。





その1ヶ月後、クライストの判断は外れ、その修道女は王城に上がることになる。

あっさりと修道の道を捨て、側室としてやってきたといわれた彼女が、あの噂まみれの【側室レオナ・フライト】になり果てるのはそう遠くない未来のこと。

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