プロローグ
(プロローグは世界観を表現する為のものであり、本編には一切関わりません)
谷底に築かれた砦。
敵国の隙を突き突貫工事で造られた最前線補給基地には、多くの兵士達が待機していた。
ここは軍隊を運用する上で重要な要所だ。
実用レベルに達したばかりの拙い電撃戦を行う上で、伸び切った補給線を支える命綱。
既にこの戦争がなぜ始まったか、なぜ殺し合っているかなど問題ではなかった。
少なくとも、ここで戦いの準備に明け暮れる者達にとっては問題ではない。
命令に従い武勲の為に剣を磨く騎士。
研究を行う為義務として戦場に立つ魔術師。
そして、金の為に命をすり減らし時には友であろうと殺し合う傭兵。
しかしながら、結局のところここに己が意思で前線に立つ者などいないのだから。
「おい、聞いたかよ」
傭兵の一人が声を上げる。
「近々共和国のエース部隊が、ここに攻め込んでくるって噂だぜ」
「エース、ねぇ……少数精鋭で攻め落とそうっていうのか?」
帝国軍がこの谷底を拠点にしたのは勿論理由があってのことだった。
近年急激に技術発展している戦闘機、それらを迎え撃つ為である。
谷底であれば戦闘機のアプローチルートは相当限られてしまう。となれば、迎撃はある程度容易い。
針山のように並べられた高射砲、機関銃、対空機関砲。
更には谷上に配置された魔法使い。
谷の中に存在する基地を強襲するには、戦闘機は谷の中を飛ばなければならない。
そうして飛び込んできた得物を下の重火器、上の魔法で挟み打つという作戦であった。
噂話をする傭兵達に騎士の一人が口を挟む。
「ここは前線に潜んだ帝国軍の食糧庫だ。だからこそこれほど過剰な防衛陣を敷いている。突破などありえんさ、さあ話などしていないで仕事に戻れ」
「へいへい。でもよぉ騎士様、正直ここって危ねぇんじゃねえか?共和国の連中だっていつまでも野放しにはせんだろうよ」
「ふん。もし状況が危うくなれば、お前達傭兵は真っ先に逃げ出すだろうに。つまらん心配などするな」
「……聞き捨てならねぇな、それは。俺はギルドを通して正式な依頼でここにいるんだぜ?逃げたりなんかすりゃあギルドの仕事の斡旋がなくなっちまう」
空気に緊張が孕まれる。
騎士がなにか言おうとした瞬間、甲高いサイレンが基地に響いた。
「―――敵襲!」
「ほら、いわんこっちゃねえ!変なことをいうから!」
「な―――先に言い出したのは貴様ではないか!」
「いいから機体に乗り込むぞ、てめぇら!」
駆け出す傭兵達。
騎士は王宮魔術師である臨時部下の元へ駆け寄り、叫ぶように問う。
「状況は!?」
「しばしお待ちを!ただいま魔力を増幅させて―――繋がりました!」
《こちら偵察隊、敵を視認、戦闘機です!数は3!》
「3機だけだと!? 機種は!」
《あれは―――レイ・ファイターです!》
レイ・ファイター。
戦争初期に登場した、軽快な機動力を有するモスグリーン色の戦闘機である。
初めこそ高い機動性で敵機を撃墜してみせたが、鹵獲された機体を調査した帝国はその装甲の脆弱性・エンジン性能の低さ・機動の癖を発見し攻略法を構築した。
即ち、重装甲と高出力エンジンを搭載した機体による一撃離脱。
戦術の構築依頼この戦闘機はただの的として扱われるようになり、挙句被弾すればすぐ火を噴くことから『レイ・ライター』などと馬鹿にされる始末だった。
そんな旧式な機体をたった3機持ち出すという行動に疑問を覚えつつも、騎士は伝令を飛ばす。
「傭兵部隊はストライカーにて待機!地獄猫部隊は空に上がれ!全ての火器をセットしろ、魔術師部隊は例の作戦通り魔術儀式の準備だ!」
指示はすぐさま末端まで行き届き、敵機を迎える準備は完了した。
《~~~♪~~~♪♪》
鼻歌が聞こえた。
どうやら、レイ・ファイターのパイロットが歌っているらしい。
舐められたものだ、と自然と眼光鋭くなる騎士。
空の向こうに3つの点を確認し、全ての兵に攻撃開始を指示した。
谷の間を縫うように飛ぶ戦闘機。
号礼と共に様々な大きさの弾丸が戦闘機を襲った。
上は88ミリ砲弾、下は9ミリ拳銃弾。
絶対に通さぬという意思が滲み出るほどの弾幕。
《~~~♪》
レイ・ファイターのパイロットはそれでも鼻歌を止めない。
僚機2機が離脱する中、真ん中を飛ぶ機体だけ動こうとはしなかった。
《あらよ、っと》
機体をローリングさせる。
下と左右が岩場の谷中で、躊躇なく機体を回す。
自身に食らいつかんとする弾丸、それを紙一重でかわすパイロット。
「避けるか、化け物ッ」
だがそれとて、帝国側の計算内である。
「魔術師隊、今だっ!」
崖上にて一斉に詠唱を唱える。
谷の中に魔力が満ち一定空間内を高熱化する魔法。
空気は焼かれ熱で膨張し、更にプラズマ化する。
電離し稲妻のように光を走らす大気。
機動力を限定した状況での、閉鎖空間での空間制圧魔法。
数十人の魔法使いを動員した鉄壁の布陣である。
避けようもなく光球に突っ込むレイ・ファイター。
「やったか!?」
閃光により視界が塞がれる。
しかし皆勝利を確信していた。
続いて谷の中に反響する爆発音。
彼らはそれを、戦闘機の墜落した音だと誤認する。
「よっしゃあ!」
「よし、作戦通り!」
勝鬨を上げる兵士達。
喜び叫ぶ声に、高射砲が『握り潰される』音が重なった。
「―――なっ!?」
爆発による土煙、その中から現れる『人影』。
10メートルを超える巨人。
鋼の手足を持つ巨兵が、戦場の真ん中に現れた。
「懐に入られたっ!?撃て、魔法でも銃でもいい!数で攻めろ!」
鋼の巨人は手にした大剣を台風のように振り回し、敵兵器を破壊してゆく。
《お前ら、引け!ここからは俺達の仕事だ!》
叫ぶ傭兵。
彼らもまた、鋼の巨人という甲冑を身に纏っていた。
緑色の巨人を取り囲む、傭兵達の巨人。
油断なく包囲を狭めるが、傭兵はそこで気付いてしまった。
巨人の背負う翼、その地の色が銀色であることに。
《―――銀翼だと!?》
銀翼と呼ばれた巨人は動く。
刹那、10体の傭兵が駆る巨人達は全身を解体された。
《一瞬だと!?ありえねぇ―――》
金属片が地面に落ちる。瓦礫と化した巨人達。
《―――行きな》
強襲を行ったパイロットが呟く。
《戦う意思のない者は失せろ。守るべき女がいる奴は軍人なんてやめちまえ》
たった一機に攻略された陣営は、その言葉を引き金に撤退を開始した。
パイロットの気の変わらないうちに、生き残る為に。
「馬鹿な、馬鹿な馬鹿な……」
呆然と騎士が呟く。
一昔前まで戦場の花であった騎士。
しかし、その栄誉は新兵器によって奪われた。
鋼鉄の肉体を持つ、機械の巨人によって。
一言後書
信じられないだろ、プロローグ全編描き直し、これで三度目なんだぜ……
小説のツカミって、いやほんと難しい。
二度と三人称なんて書いてやるものか。ちくせう。