嫁いびりで奉公人の給金まで十一か月減らされましたが、十二枚目の封片で私は女主人に選ばれました
「四十三点」
お義母様はそう仰った。
採点より先に、私の皿はもう冷えていた。白身魚の香草焼きには薄い脂が固まり、春豆のスープからは湯気が消えている。
象牙色の麻布には、母が刺した矢車菊が咲いていた。卓上の白い花より小さく、皿の陰に半分隠れている。
「献立が地味です。花も慎ましすぎます。侯爵家の女主人が客を迎える食卓ではありませんね」
「今夜は家族の晩餐と伺っております」
「だからこそです。家族に認められない者が、客をもてなせるはずもないでしょう?」
ジルケお義母様が指を上げると、給仕が私の皿を下げた。まだ一口も食べていない。白い花も一輪、花瓶から抜かれた。
「合格するまで、家族席には座らせません」
オットーが両手で椅子の背を持った。
床を擦る音が長く伸びる。
私の椅子は、お義母様とヤコブの席からもっとも遠い、扉脇の末席へ運ばれた。
「奥様のお席はこちらです」
老執事の声は低く、いつもと同じだった。
私は移された椅子に座った。正面には誰もいない。矢車菊の刺繍も、そこまでは届いていなかった。
「四十三点ですから、今月は相応の倹約をいたします。女主人の不出来を、家全体で正すために」
お義母様は採点簿を開き、並んでいた奉公人に署名を求めた。
庭師が一度、顔を上げた。
「ですが、奥方様。若奥様が整えた予算に不足は——」
「異議があるのですね」
庭師のために置かれていた壁際の椅子が、翌月から消えた。
お義母様は笑みを保ったまま、採点簿に一行を足した。
「減点分は奉公人の給金から引きます。連帯とは、そういうものでしょう」
私は冷えたスープに匙を入れた。
銀の匙には、四十三点の味はしなかった。
翌朝、オットーが給金袋を一つずつ配った。
侍女頭のゾフィーは受取簿へ印を押し、袋の封を切った。銀貨を卓上へ一枚ずつ置く。十、十一、十二。
指が止まった。
「二枚、足りません」
オットーの顎がわずかに下がった。
「お屋敷から預かった袋は、そのままお渡ししております」
「承知しています」
私は持参箱から銀貨を二枚出し、十二枚の隣へ置いた。銀貨同士が触れ、乾いた音を立てた。
ゾフィーはすぐには手を伸ばさなかった。
「若奥様のお金です」
「今月、働いた方の給金です」
「では、来月は」
「来月の袋を開けてから数えましょう」
封をしていた厚紙には、屋敷の印が半分ほど残っていた。私はそれを二つに裂いた。一方を自分の帳面へ挟み、もう一方をゾフィーへ渡す。
「捨てずに持っていてください」
「何のためでしょう」
「私が数え間違えていないか、後で確かめるためです」
ゾフィーは封片を針箱へしまった。指先が蓋に触れるまで、私の指も少し震えていた。
朝食は一人分だけ、窓辺の小卓に置かれていた。
オットーが末席の椅子を引く。
「奥様のお席はこちらです」
初夏、花瓶には白薔薇が挿された。
二度目は三十八点だった。厨房の砂糖が一壺減り、洗濯女の袋から銀貨が三枚消えた。私は三枚を足し、封紙を裂いた。
三度目、卓上には青い硝子鉢が置かれた。
「三十一点です」
不足したのは厩番の油代だった。
受け取った男は半片を帽子の裏へ縫いつけた。私が帳面へ収めた方の封片は、もう震えなかった。
愛情は量れない。それでも給金袋は、毎月きちんと軽くなった。
四度目の配達日に、商人のボードが帳場から動かなかった。
「若奥様。ひとつ、お尋ねしても?」
「葡萄酒の本数でしたら、お義母様の私室へ十二本です」
「そちらもございますが」
彼は商人控えを指で押さえた。
「当方では、お屋敷から月々の出納控えを預かっております。奉公人給金は正規額で記載されている。ところが今朝、荷下ろしを手伝った者から、妙な話を聞きました」
「どの者から聞いたかは、帳面に書かないでください」
ボードが目を細めた。
「告発はお望みでないと?」
「配達日と受領額を、そのまま保存してください。書き直しも、追記もせずに」
「これまでの控えを?」
「十二回目の月までお願いいたします」
ボードは帽子を胸へ寄せた。
「承りました。商人の帳面は、よく記憶する紙でございます」
その夜、お義母様は客を招いた。
「嫁に倹約を教えておりますの。若い娘は、家を守るより飾ることを好みますから」
客の夫人が含み笑いを漏らす。お義母様は目を合わせ、自分の杯だけに新しい葡萄酒を注がせた。
私の前には水が置かれた。
「持参箱には、まだ宝石があるのでしょう?」
「ございます」
「ならば補填に困りませんね。家へ嫁いだ者の財は、家を守るために使うものです」
私の持参箱だけが、ずいぶん立派な家族だった。
* * *
五度目の査定の日、お義母様は食卓布の端を摘まんだ。
「これは何年使った品です?」
「母が嫁入りの折に持たせてくれたものです」
「古びた持参品を家族の食卓へ出すから、点が下がるのですよ」
象牙色の麻地に、青い矢車菊。
母の指は、花弁の一枚ごとに糸の向きを変えていた。光を受けると濃くなり、皿の陰では薄くなる。
「銀器磨きに回しなさい」
侍女が布を抱えたまま固まった。
「お義母様、銀器用には別の布がございます」
「使える物を使わず、新しい物を買う。そういう浪費を正しているのです。あなたたちも同意したでしょう?」
署名を求められた奉公人たちは、目を伏せた。
一人、ゾフィーだけが布を見ていた。
お義母様の指が採点簿へ触れる。
「異議があるなら、来月の給金で責任を取ってもらいましょう」
ゾフィーが布を受け取った。
私は止めなかった。
洗い桶へ入れられた麻布は、強い洗剤を吸って灰色に沈んだ。揉まれるたび、矢車菊の青が水へ逃げた。
濡れた布で銀皿が磨かれる。
端が燭台へ触れた。
焦げた麻の匂いが立ち、青い糸が一本、黒く縮れた。
「あら」
お義母様は笑った。
「古い物は、火にも弱いのね」
客の夫人も口元を扇で隠した。二人の目が合った。
私は布を水から引き上げ、焦げた端を内側へ折った。母の矢車菊は半分ほど白くなっていた。
その夜から、食卓には新しい布が敷かれた。
何の刺繍もない、よく白い布だった。
六度目は二十七点。梨が一皿増え、下働きの娘の給金から靴代が消えた。
「若奥様」
娘は誰にも聞かれない声でそう呼び、半片を髪紐の結び目へ入れた。
七度目は二十二点。
点が下がった理由は、奉公人を金で懐柔したことだった。
「自分の金を配って忠誠を買うなど、女主人にふさわしくありません」
「不足分を足しました」
「それを買収と言うのです」
お義母様は採点簿へ大きな丸をつけた。
料理人は自分の半片を香辛料箱へ、厩番は馬具棚へ隠した。給金を受け取る時だけ、皆が小さく「若奥様」と呼んだ。
秋、卓上には赤い実と金色の葉が飾られた。
八度目の査定を前に、庭師の名が雇用簿から消されていた。
「冬は庭仕事が減ります。倹約として当然でしょう」
「解雇には当主代理の署名と、ひと月前の通告が必要です」
「私に規則を教えるつもり?」
「規則に署名していただくつもりです」
私は正規の継続書類をお義母様の前へ置いた。
庭師の席は戻らなかったが、名は雇用簿へ戻った。
同じ午後、お義母様の私室へ新しい銀の果物皿が六枚届いた。受領印はお義母様ご自身のものだった。
その脇に、ヤコブからの手紙が置かれていた。
王命の監査を終え、十二回目の月初晩餐までに帰る。
私は返事を書いた。庭の木々が冬支度に入ったこと。厩の牝馬が仔を産んだこと。帰還を皆が待っていること。
月例査定については一行も足さなかった。
九度目、私は冬用の外套を売った。
十度目、母からもらった耳飾りを売った。
補填を終えると、持参箱には焦げた食卓布と、薄い金袋が一つ残った。お義母様は開いた箱を覗き、鼻から短く息を出した。
「これだけ?」
「これだけです」
「嫁入りの支度まで粗末だったのね」
お義母様はオットーへ手を出した。
「持参箱の予備鍵を」
「若奥様の私物でございます」
「家へ持ち込まれた以上、家の物です。十二回目の晩餐では家宝の銀器も検めます。鍵を渡しなさい」
オットーは一度だけ私を見た。
私は焦げた布を畳み、箱の底へ置いた。
鍵が、お義母様の掌へ渡った。
* * *
十一度目は雪の夜だった。
採点簿には十六点と書かれた。
料理人の袋から薪代が引かれ、洗濯女の袋から石鹸代が引かれ、ゾフィーの袋から薬代が引かれていた。
最後の金袋を逆さにした。銀貨が三枚、銅貨が七枚。底の縫い目に爪を入れても、それ以上は出てこなかった。
私は不足額を埋めた。
金袋は布だけになった。
お義母様は奉公人全員を晩餐室へ並ばせた。
「十一か月も家計を傾けた嫁を、私は辛抱強く教えてきました。次に不足か盗難があれば、この家から出ていってもらいます」
誰も採点簿へ同意の署名をしなかった。
「聞こえなかったのですか?」
庭師が帽子を両手で握った。ゾフィーは袖の中へ手を入れている。料理人の靴先には薪の粉がついていた。
「返事をなさい!」
扉の外で馬車の音がした。
お義母様の声が、そこで一度細くなった。
しかし入ってきたのは配達人だった。葡萄酒の木箱を見て、お義母様は椅子へ深く座り直した。
「次はありません。覚えておきなさい」
深夜、オットーが私の部屋を訪ねた。
予備鍵と銀の果物皿を盆に載せていた。
「奥方様より、これを若奥様の持参箱へ入れるよう命じられました」
銀皿の縁には葡萄の蔓が彫られている。八度目の月に私室へ届いた六枚のうちの一枚だった。
「命令されたのは、いつですか」
「予備鍵を渡した日でございます。十二回目の前夜に仕込めと」
「では、今夜ですね」
「拒めば、奥方様は別の者へ命じられましょう。ですが、私が従えば——」
オットーの声が止まった。
盆の上で、鍵だけが小さく鳴った。
「入れてください」
彼が顔を上げた。
「若奥様」
「命令どおりに。明日の給金袋も、いつもと同じ手順で配ってください」
「銀皿が見つかれば、追放されます」
「追放すると、お義母様が全員の前で仰いました」
私は帳面に挟んだ十一枚の封片を机へ並べた。
「だから、全員に見届けていただきます。ヤコブと、ボードにも」
オットーは盆を持ち上げた。
銀皿が持参箱の底へ置かれ、焦げた食卓布がその上に被せられた。
蓋の閉まる音は、椅子を引く音より短かった。
* * *
十二回目の晩餐に、ヤコブは間に合った。
一年ぶりに見た夫の外套には、解けきらない雪が残っていた。私へ伸びかけた手を、お義母様の声が遮った。
「ヤコブ、ちょうどよかったわ。この家で、あってはならないことが起きました」
お義母様は椅子に座ったまま、奉公人を見回した。
「家宝の銀皿が一枚、なくなっています」
それから私を見た。
「十一か月、家計を傾けた者がいます。自分の持参金まで使い果たし、次は家の物に手を出したのでしょう」
「母上。確かめたのですか」
「ええ。嫁の持参箱を開けなさい」
ゾフィーが箱を運んだ。オットーが予備鍵を差し込む。
蓋が上がる。
焦げた麻布をお義母様が自分の手で払い落とした。
銀の果物皿が現れた。
奉公人の顔が一斉に私へ向いた。ヤコブも皿を見た。
お義母様は立ち上がらなかった。
「ご覧なさい、ヤコブ。私は家を守ろうとしただけなの。けれどこの嫁は、給金を乱し、奉公人を買収し、とうとう家宝まで——」
「わたくしが入れました」
オットーの声は低かった。
お義母様の指が、焦げた布の上で止まる。
「何を言っているの」
「奥方様のご命令で、予備鍵を使い、この銀皿を持参箱へ入れました。昨夜のことでございます」
「年を取って、記憶が混乱したのね。ヤコブ、この者は——」
「この皿を屋敷へ納めたのは私でございます」
ボードが帳面を開いた。
「八度目の月、奥方様の私室用として六枚。こちらが受領印です。家宝ではなく、奥方様の私的注文品でございます」
お義母様はようやく椅子から立った。
「誤解よ。家のために買ったのだから、どこへ置こうと同じでしょう。そもそも問題は、この嫁が金を——」
「十二回目の給金袋を」
私が言うと、オットーは袋を卓上へ置いた。
封を切る。
ゾフィーが銀貨を数えた。正規額より二枚少ない。
私は封紙を二つに裂き、半分を帳面の十二枚目へ重ねた。
ゾフィーは袖から半片を出した。
互いの切り口を合わせる。
屋敷の印が、白い卓上で一つに戻った。
「最初の月も、わたくしの袋から銀貨が二枚足りませんでした」
ゾフィーは針箱を開いた。中には、最初の半片が残っていた。
「夫の薬を半量しか買えませんでした。十度目には、下働きの娘の靴代が引かれました。雪の日も、あの子は底の割れた靴で水を運びました」
「それは倹約のためよ」
「違います」
庭師が帽子の裏から半片を外した。
「私の薬代です。腰を痛めても買えなかった。退職に同意した覚えもありません」
料理人が香辛料箱から半片を出した。
「薪代を引かれました。若奥様が足してくださらなければ、厨房の火は三日早く消えていました」
洗濯女、厩番、下働きの娘、給仕。
一人ずつ、封片を掲げた。
「不足していました」
「受け取りました」
「若奥様が補ってくださいました」
残る半片が卓上に並ぶ。すべてを合わせなくても、裂かれた縁は十一か月分、そこにあった。
ボードは帳面をお義母様へ向けた。
「侯爵家から預かった出納控えでは毎月、奉公人給金は正規額で記載されています。同じ日に、差額とほぼ等しい額で葡萄酒、銀器、私室用の絹布が注文されています」
続いて私へ向き直り、深く頭を下げた。
「十一か月、支払いを欠かさなかった方に、商人として敬意を申し上げます」
「でたらめです」
お義母様はヤコブへ手を伸ばした。
「ねえ、ヤコブ。わたくしはあなたの母よ。家を守るためだったの。奉公人が嫁に買収されて、口を揃えているだけです。家の金を勝手に配った、この女こそ盗人でしょう?」
ヤコブは母の方へ行かなかった。
私の隣へ立った。
「私の妻を盗人と呼べる家族は、もうこの家にはおりません」
お義母様の唇が開いたままになった。
ヤコブは女主人の席の前へ進み、卓上の家政鍵を取った。
「本日をもって、母上の家政権を取り上げます。屋敷の居住権も終了します。母上の私財は、給金不足分とザビーネの立替金の返済へ充てる。残額は屋敷外での生活費として渡しますが、ここへ戻る権利はありません」
「母を追い出すの?」
「家族晩餐への出席も認めません」
「そんな書面、母親に署名させるつもり?」
「署名しなくても処分は変わりません。受領の確認だけです」
オットーが書面と朱肉を置いた。
お義母様は誰かの助けを待つように奉公人を見た。
ゾフィーが、お義母様の席から椅子を引いた。
庭師がその脚を持つ。
料理人と給仕が加わった。
四本の脚が床を擦り、女主人の椅子は食卓から離れた。
「あなたたちまで」
返事はなかった。
ヤコブが退去書面を差し出す。お義母様の声は、ザビーネと奉公人だけを並べた夜ほど大きくなかった。
「わたくしは、あなたの母で——」
「馬車を待たせています」
朱肉に押された指が、紙の端へ触れた。
赤い受領印が残った。
家政鍵はヤコブの手からオットーの盆へ移される。お義母様の私室から運ばれた銀器と葡萄酒には、その場で差押え札が付けられた。
外套を着せる者はいなかった。
お義母様は自分で袖へ腕を通した。扉の前で一度振り返ったが、食卓の誰も椅子を戻さなかった。
玄関扉が開く。
雪の上を車輪が鳴り、屋敷の門が閉じるまで、ヤコブと奉公人たちはその場に立っていた。
私は卓上の十二枚目を見た。
「お義母様の愛情は、銅貨にするとずいぶん軽いのですね」
* * *
翌晩、私は奉公人が辞めるものと思っていた。
晩餐室へ入ると、ゾフィーが一束の書面を抱えていた。
「こちらをお受け取りください」
「退職願ですか」
「継続願です」
ゾフィーはまっすぐ私を見た。
「辞めるのではありません。奥様の下で働き直したいのです」
背後に並んだ奉公人たちが、一斉に頭を下げた。
「奥様」
若、はもう付かなかった。
ヤコブが三通の書面を卓上へ置いた。
一通目は家政委任状。二通目は、給金変更に受給者と女主人の双方確認を必要とする規定。三通目は、夫妻連署がなければ互いの居住権を動かせない保証だった。
私が署名し、ヤコブも隣へ署名した。
不足分と立替金は、お義母様の私財から数え直された。ゾフィーの掌へ欠けのない給金袋が置かれ、庭師、料理人、洗濯女へ続く。受取簿には一人ずつ印が増えた。
私の前にも、十一か月分の返済袋が置かれた。
持参箱へ戻しても、母の耳飾りにはならない。冬の外套にも、褪せた矢車菊にもならない。
焦げた食卓布は箱の底に畳んだままにした。
食卓には新しい白い麻布が敷かれていた。
青い硝子の器に冬薔薇が浮かび、皿からは湯気が立っている。白身魚には香草の緑が残り、春豆の代わりに根菜のスープがあった。
オットーが椅子の背へ手を置いた。
「奥様のお席はこちらです」
今度、その椅子は食卓の中央にあった。
オットーが引いた椅子へ私が座る。ヤコブは隣の席へ外套を掛けた。
「遠征がない夜も、ある夜も、帰れる限りここへ帰る」
「毎晩ですか」
「毎晩だ」
私は温かな皿へ匙を入れた。
中央の椅子は、明日の晩餐にも空けられる。




