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キャリーケース

作者: WAIai
掲載日:2026/08/09

平日の昼間。

電車の中は穏やかな光が降り注ぎ、気持ちの良い雰囲気が漂っている。

車掌の私は紅葉の始まる景色を眺めながら、電車の中を歩く。

念のため、車内をチェックするためだった。

「…あれ」

キャリーケースが1人で動いていて、通路にぽつんと置かれている。

誰のだろうかと首を巡らせると、1人の女性、おそらく20代だろうか。

白い帽子に、サングラスをした美女が、頭を下げて寝ているようだった。

ーうわ。こんなに素敵な人、見たことがない。

色んな客を見慣れてるが、森林浴の中にいるような感じではなく、都会のビルが似合いそうな雰囲気だった。

私はキャリーケースを受け止めると、女性に話しかける。

「あの、あの」

躊躇しながら声をかけたのだが、どうもぐっすり眠っているようで、どうしようか悩む。

しかし、いつまでも立っているわけにはいかないので、失礼ながら、手を揺さぶってみることにした。

「あの!! あの!!」

声を大きくし、続けて手を揺さぶっていると、美女は「うーん」と反応があった。

ラッキーだと思い、美女にもっと話しかける。

「あの、起きてください。あなたのキャリーケースが転がっていたんですよ?」

「うん? キャリーケース?」

寝ぼけているのか、口調がおぼつかない。

子どもみたいだなと苦笑すると、私は続けて言う。

「早く起きてください。お願いです」

「起き…きゃ!!」

美女は私の顔が近くにあることに驚いたらしく、小さく悲鳴を上げる。

私と年はそんなに離れていないと思うが、若干、緊張しながら対応する。

「大丈夫ですか? これ、あなたのキャリーケースでしょう?」

「キャリーケース…? あ!!」

慌てて手を伸ばしてきたので、彼女に受け取らせる。

「す、すみません…」

謝ってくる声はピアノの高音のような、とても響きがいいもので、私は顔が赤くなりそうになり、ぐっとこらえる。

「あの…私、寝ていました…?」

「はい、ぐっすりと」

「きゃ!! どうしよう」

恥ずかしそうに口に手を当てる姿を見、可愛いなと思う。

私はまだ独身で、こんな女性が伴侶だったらいいなと願ってしまう。

「降りる駅は分かりますか?」

「えっと…こんな感じなんですけど」

スマホで駅を見せれられ、私は「ああ」と答える。

ここならまだ先だった。

「大丈夫。まだ過ぎていませんから」

「そうですか…。良かった」

私はここで終わりにして離れても良かったのだが、もったいない気がして、もう少し粘る。

「1人旅ですか?」

「そうです。たまには自然溢れるところで、リフレッシュしようと思いまして」

「そうですか。車内に人がまばらで、驚きませんか?」

「そうですね…。都会だといつも混んでいますから」

何気なく会話をしつつ、私はチャンスをうかがい、試しに言ってみる。

「あの…。良かったら、LINEを交換しませんか?」

「え…? あの、どうして…?」

「それはその…。気に入ったというか、理想の女性というか…」

自分でも何を言っているんだろうと舌打ちしたくなるが、一生懸命、口を動かした。

「田舎の思い出はどうかと思いまして。それに、鉄道関係なら色々と教えられるかと」

「…なるほど」

女性はサングラスを外すと、更に美女度がアップした。

ーうわ。天女みたい。いや、女神か?

1人で突っ込みながら、女性の反応を待つ。

女性は「うーん」と唸ると、スマホを構う。

「教えてもいいんですけど…その、しつこかったりは?」

「しません、あなたとまずは、お友達になりたいんです」

「友達…。それなら頼もしい相手ですね」

にこりと笑われ、私は一気に身体がかあっと熱くなるのが分かる。

「じゃあ交換しましょうか」

「は、はい…!!」

私はスマホを取り出すと、LINEの交換をする、

ーうわ。美女、GETできるかもしれない。

顔を赤く染めながら、良い香りのする女性に近づく。

女性は気づかないようで、登録を終えると、顔を上げてくる。

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いいたします!! うわ、嬉しい」

思わず本音が漏れると、女性は目を瞬かせた後、くすりと笑う。

「私も車掌さんの友達ができて、嬉しいです」

丁寧口調の女性は品があり、育ちが良いのが分かる。

私は女性に内緒で、絶対に手に入れてみせると誓い、頭を下げる。

「ありがとうございます。では、ごゆっくりどうぞ」

「はい」

清楚な感じで頭を下げられ、私は内心、有頂天になったのだった。

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